無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

二章 6 『掃討戦』


 タクミ達を乗せたグリドラはしばらく荒野を走り、ある茂みの中に止まった。

 「さて、この辺だな。みんな降りてくれ。」

 ドズールが皆に降りるように合図を出した。降りたところは森とまではいかないが荷車を隠すにはいい感じの茂みがあった。

 「ここからは徒歩で移動するぞ。これ以上近づくと奴等に気づかれるからな。」

 「こいつらはここに止めておいて大丈夫なのか?」

 「あぁ。グリドラは賢いからな。かってに主をおいてどこかに行ったりしないよ。・・・さてここからはいつ敵と遭遇してもおかしくないと思え。基本的には私たちの指示に従ってもらうが、状況次第で自己判断で動いてくれ。」

 「イドって村までは歩いてどのくらいなんだ?」

 「だいたい10分くらいだ。では来るときに乗ってきたグループで行動するぞ。タクミ達も俺についてきな。」

 タクミ達はドズールについて歩きだした。 ほかのグループも団員についていく形で茂みの中に消えていった。

 ドズールを先頭にして、。なるべく足音を立てないように歩くタクミ達。

 いつ敵に遭遇してもおかしくない・・・

 会話こそないがはじめての実戦に緊張感があった。全員が周りを警戒している。

 「止まってください・・」

 しばらく歩いていくとシュウが小さく呟いた。

 「どうした?シュウ?」

 ドズールがシュウに聞いた。  

 「この先に人がいます。人数は・・・4人ほど。武装していますね、野党の一味だと思います。」

 眼鏡の片方を手で押さえながらシュウが答える。

 「ほう。まだイドまでは離れているが、よくわかったな。」

 「えぇ。僕は千里眼のような魔法が使えますから、間違いないです。」

 シュウの言葉を聞きタクミも目を凝らしてみたが何も見えなかった。

 「よし、各自敵との遭遇に備えろ。お互いがお互いをフォローして動くように。」

 ドズールの言葉を聞き全員が魔力を高めた。

 「俺が一番に突撃するから後に続け!」

 ドズールが勢いよく走りだした。後の四人も走って続く。

 しばらく走ると茂みの奥に人影が見えた。手に武器を持っている。どうみても普通の村人ではない。

 「なんだテメーら!」

 向こうもこちらに気づき武器を構える。

 「やかましい!おとなしく捕まれ!」

 ドズールが野党の一人を体当たりで吹き飛ばす。おそらく魔法は使わず肉体だけの力なのだろうが体当たりをくらった者は激しく吹き飛ばされ木にぶつかり気を失ったようだった。

 そのあとにジークが続きもう一人を右手で殴り倒した。肉体の強さはドズールに見劣りしなかった。

 「な、なんだお前らは!」

 いきなり現れた屈強な男二人に驚き後ずさりする野党の二人。

 「いいから!おとなしく寝ててね!」

 レミが上から野党の後ろに飛び降り首を掴んだ。

 掴まれた野党は生気を抜かれたように気を失って地面に倒れた。

 タクミも遅れをとらないように魔法を発動させようとしたが残る一人もシュウによって倒されていた。

 完全に出遅れたタクミ。後ろの方でただ立ちつくしていた。

 「うむ。皆なかなか良い動きだな。これなら大丈夫だろ!タクミも遅れをとるなよ。これは入団試験も兼ねているのだから。ガッハッハッ!」

 「うぐっ・・ちくしょう次こそは俺だって・・・」

 「ドンマイ!タクミっ!」

 茶化すようにレミがタクミの背中を叩いた。

 「いてっ!ったく・・・どいつもこいつも・・」

 「まだ始まったばかりだ。気を抜くなよ!」 

 あっさり野党との初戦を終わらせ浮かれた空気だったのをドズールが引き締める。

 茂みをイドの方へ走り途中も何度か野党と出会ったが問題なく倒して行くことが出来た。ここでもタクミは活躍できなかったが。

 やはり入団試験を兼ねているだけあった良いところを見せようと皆張り切っていた。

 茂みを抜け村のようなところに出た。そこでは先に到着していたグループ達が野党と一戦交えていた。

 「おや、他の所の方が早かったか。よし!俺たちも遅れはとっておられんぞ!行くぞ!」

 目の前で繰り広げられる光景を見て張り切るドズール。

 正直なところ、入団試験を兼ねているんだからあんたは自重しろよなと思うタクミだったがさすがに言えなかった。

 なんとか良いところを見せようと野党を探してウロウロするタクミ。しかしなかなか見つからずグループから離れてまだ戦いが起きていないところを一人探し始めた。

 「くっそー!完全に出遅れちまったよ!このままだと不合格なんてこともあり得るんじゃねーか・・それだけは何としても避けないと。とりあえずなんか手柄をあげないと・・・」

 何も手柄をあげられない焦りから、野党を見つけようと躍起になるタクミ。気づけばもう村のはずれの方まで来てしまっていた。

 「どこにもいねーな・・ちくしょう!もうほとんど倒されちまったんじゃねーのかよ・・・ん?」

 ふと人の気配がした。気配の方に視線をやるとそこに一人の男が立っていた。

 「その恰好・・・なるほど。魔法騎士団か・・・」

 その男は、顔のほとんどを黒色の髪でおおわれていたが左目だけが露わになっていた。その紫色の瞳からは突き刺さるような視線を感じた。全身を黒一色に染めた服を着ており首元に六芒星の一つが欠けているアクセサリーをしていた。その雰囲気は明らかに今までの野党のそれとは違っていた。

 「お前は明らかにその辺の奴より強そうだな・・・ってことはお前がここのリーダーか。悪いけど俺の合格のためにおとなしく捕まってもらうぞ!」

 やっと見つけた敵。それもおそらくは目標のリーダーのような敵。タクミは嬉しさをにじませ男を挑発した。

 「ふん・・・なんのことかわからんが、私も魔法騎士団と遭遇してみすみす見逃すような真似はしないさ」

 男が禍々しい魔力を放っている。戦闘モード突入といった感じだ。

 「さすがはリーダーって感じだな・・だけどおとなしく捕まった方が痛い思いしなくて済むぜ!ドラゴンフレイム!」

 炎龍を召喚するタクミ。タクミも臨戦態勢をとった。

 「なるほど、少しは戦えるようだな。ならば私も遠慮はしないさ。」

 男の周りに無数の黒い球が出現した。男の合図とともに黒い球がタクミ目がけて飛んでくる。

 炎龍で黒い球をかき消すタクミ。その衝撃で砂埃が巻き上がる。砂埃をかき分けるように黒い足がタクミめがけて向かってくる。

 それを両手で防御したが。蹴られた勢いで後ろに飛ばされた。

 「へっ、やっぱリーダーなだけあって強いな。それでこそ倒しがいがあるってもんだ!」

 「防御魔法か・・こざかしい。」

 男が今度は右足を地面に踏みこむ動作をする。するとタクミの体が急に重たくなり片膝をついた。

 「ぬぉ!なんだ急に体が重くなったぞ・・・重力操作か!うっとしいんだよ!」

 炎龍を男に向け放つタクミ。男は今度は黒い盾を出現させ炎龍を防いだ。

 「その程度の魔法は私には届かないよ。さて、そのまま踏みつぶしてやろう。」

 さらに右足を地面を踏み込んだ。タクミが耐え切れず両手を地面につける。

 「うぐ、ぐぐぐ・・・・くそったれがぁー!!」

 魔力を高め男による重力の束縛を打ち破り立ち上がるタクミ。

 「ほう。今のを自力で立ち上がるとはな。なかなかの魔力を持ってるようだ、だがこれで終わりだよ。」

 男が右手を掲げた。そこには巨大な黒い球がうごめいていた。

 「さようなら、魔法騎士団の者よ、永久に・・・」

 男は途中で何かに気づいたように、黒い球を消し去り後ろに飛び下がった。

 その刹那、男が立っていたところに上から槍が降ってきた。禍々しい槍だ。そして見覚えがある槍だ。

 振ってきた槍は地面に突き刺さり、その勢いで周りの地面にひび割れを走らせた。

 「あらら・・また避けられちゃった。今日はよくかわされちゃうね・・・まったく不愉快だな。」

 槍の隣に上から現れる人影。風に舞う黄色い髪。ジュエルだった。





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