無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
二章 5 『邪神教徒』
ドズールに案内された部屋に通された一次試験合格者。中はコの字を描くように机と椅子が並べてある。
「とりあえず受験者は空いている席に着席してくれ。」
ドズールが部屋の前の方に立ち受験者に声をかけた。まばらに座る受験者。もちろんジュエルとレミの姿もある。レミと目が合ったら、ちいさく手を振ってくれた。とりあえず会釈したタクミ。
全員が座るとドズールが口を開いた。
「さて、まずは一次試験合格おめでとうといっておこう。なかなか近年まれにみる試験だったぞ。今年は優秀な人材が多いようで何よりだ!」
嬉しそうなドズール。さらに続けた。
「だが試験はこれで終わりではない。次の試験を発表する。」
ドズールの言葉に部屋の中に緊張が走ったのわかった。
「そして次の試験なんだが・・・実戦形式の試験を受けてもらうことになる。」
実戦?何?実際に戦うの?
タクミはドズールの言葉がいまいち理解できなかった。それは他の受検者も同じようだった。
「まぁ、みんなの考えていることはだいたいわかる。正直、今この世界の情勢はあまり平和というにはちと厳しい。我らの魔法騎士団の人材不足は深刻なものでもある。なので今は一から教育している暇はないのだよ。我らが今欲しているのは即戦力となる人材だ。なので次の試験には危険が伴うから辞退してもらっても構わない。辞退するものはこの部屋から退出を許可する。」
ドズールの忠告。しかし部屋から退出する者は誰もいなかった。
「うむ。最悪命を落とすことになるかもしれないが、それでもいいのだな?」
念を押すドズール。それでも誰も席を立たなかった。受験者をまじまじと見渡すドズール。
「なるほど。皆の覚悟しかと受け取った。ではここにいる者を仮的なものではあるが魔法騎士団の一員として迎えよう!」
誰も帰らなかったことが嬉しかったのか満足そうなドズールだった。そして指をパチンッと鳴らした。その瞬間に受験者の胸についていた番号札が光り輝き皆の服装を魔法騎士団の制服へと変化させた。
タクミも魔法騎士団の制服に着替えていた。軽く腕や足を動かしてみたがサイズはピッタリであった。
「では改めて試験の内容を発表しよう。皆には我らと一緒にある野党を討伐に行ってもらうことになる。そこでの皆の活躍次第で合否を決めることとする。何か質問のある者はいるか?」
ジュエルが手を挙げた。
「ジュエルか。なんだ?」
「討伐ということは目標の生死は問わないのですか?」
「基本的には我らは生け捕りをするようにしている。しかし相手の力量しだいではやむ得ない場合がある。なのでむやみな殺生は禁止だ。」
「了解しました。」
どこか不満そうなジュエル。
おいおい・・どんだけ殺したかったんだよ。やっぱりあいつ物騒な奴なんじゃねーの?
タクミはそんなジュエルにどこか危機感を感じていた。
「では他にはあるか?・・・・・・ないようなので30分後に出発するので、各々この部屋で準備しておくように。また呼びに来るからな。」
ドズールが部屋から出ていく。残された受験者は各々準備を進めていた。
「結構似合ってるじゃない。タクミ。」
レミがタクミのもとに近づいてきた。
「おう。レミか、そういうお前も似合ってるよ。」
「ふふ、ありがとう。まさかもう実戦に連れてかれるなんてね。驚いたよ。」
「なに?やっぱり今ってそんなに世の中物騒なの?」
「そりゃそうだよ!タクミ知らないの!?」
「あ、ああ。」
そりゃ今まで爺さんと二人っきりで修業しかしてこなかったし、その間世界情勢みたいなのは全く入ってこなかったしな・・・
「あきれたなぁ。よくそんなので魔法騎士団に入団しようと思ったね。いい?コトの始まりは約半年前に起きた主要都市の皇帝が同じ日に暗殺されたのが始まりなの。」
「皇帝が暗殺!?しかも同じ日に!?」
「そうよ。ただでさえ護衛のついてる人があっさり殺されちゃったのよ。しかも同じ日に違う場所で。まさに面目丸つぶれでしょ?それから犯人を捕まえようと世界中が躍起になったわ。」
「それで犯人は捕まったのか?」
レミは無言で首を横に振る。
「それが一人も捕まらなかったの。かろうじてわかったのは暗殺をしたのは邪神教徒と呼ばれる集団だってことくらいね」
「邪神教徒?」
「えぇ。正直その素性のほとんどはわかっていないのだけどこいつらが今世界中で良からぬことをしようと暗躍しているのよ。そしてこいつらのせいで、小悪党のような奴らも増えてきてそれを取り締まる魔法騎士団も大忙しってことよ。わかった?」
「あぁ。なんとなくわかったよ。ありがとうレミ。じゃあその邪神教徒ってやつらの目的とかもわかんないのか?」
「そうね。でも聞いた話によるとなんか強力な魔法使いを集めてるって聞いたことあるわ。だからタクミも気をつけた方がいいわよ?」
「ふーん・・よくわからんけど、まぁとりあえず気をつけとくわ。」
「ほんとにわかってんの?まったく・・」
タクミの気のない返事に呆れるレミ。
そうこうしてる間に、部屋のドアが開きドズールが入ってきた。
「皆の者準備は出来ているな?では出発するのでついて来てくれ。」
ドズールに連れられた受験者もとい、魔法騎士団仮免の一同は畜舎のようなところに案内された。
そこには小さいドラゴンのようなトカゲのような生き物が荷台を引っ張るような形で複数待機していた。
「あれ?こいつって・・・」
どこかで見たことあると思ったらタクミがこの世界に来た時に見た凄い速さで駆け抜けていった生き物だった。
「なんだ?グリドラを知らんのか?」
そんなタクミにドズールが声をかける。
「え、ええ。まぁ正直知らないです。」
「はぁ。タクミって魔法の力は凄いのに世間知らずなんだね。」
またもレミがあきれた様子だった。
「ほっとけ!とりあえずこいつに乗っていくんだろ!?」
「まぁそういうことだ。では各自乗り込んでくれ!」
ドズールの合図でそれぞれが荷台に乗り込んだ。乗り込んだのはドズールを始めとする魔法騎士団の面子が4人、現在仮合格中の面子が16人とそれぞれが魔法騎士団員一人に対して、仮免4人という形で乗り込んだ。
「皆乗り込んだようだな。では出発だ!」
ドズールの合図でグリドラ達がそれぞれ走りだして、魔法騎士団の本部を後にした。
タクミがグループはタクミの他にレミとシュウ、ジークという受験者とドズールが一緒という組み合わせだった。
シュウは眼鏡をかけておりオカッパ頭で気の弱そうな少年だった。
ジークは図体はドズールとあまり変わらない感じだがほとんどしゃべることはなく寡黙な印象だった。おそらくはタクミよりも年上だろがほとんど会話をしないのでよくわからなかった。
グリドラの一行はアーバンカルから出て森の中を走っている。やはりその速さは馬車よりもかなりの速さだった。
「よし、ではこれから行う任務の説明をするぞ」
ドズールが口を開く。
「これから我らが向かうのはイドという村だ。おそらくあと一時間もすれば到着するだろう。ここがある野党に占領されている状況にあるということだ。なのでこの村を野党から奪還するのが今回の目的だ。」
「相手の戦力は?」
レミが質問をした。
「正確にはわからないがおそらく50ほどはいるだろう。相手も魔法を使ってくる可能性は十分に高いので油断するなよ。」
シュウがゴクリと息をのんだ。緊張しているのが伝わってくる。ジークは特に変わらない様子だった。
「じゃあ、基本的にはその野党どもをぶっ飛ばしていけばいいんだな?」
今度はタクミが質問した。
「ガッハッハッ!まぁそういうことだな!さすがジュエルとやりあった奴だな。お前には期待してるからな!」
ドズールは高笑いをしてタクミの肩を叩いた。 タクミ達を乗せた一行は森を抜け荒野を駆け抜けていった。
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