無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
一章 10 『ヒントと警告』
「やぁ、待たせてすまないね」
30代くらいの男が二人の待つ部屋へと入ってきた。
黒いタキシードのような格好をして細身に長身、顔も整っていていかにも実業家といわんとするオーラをまとっているこの男がウインズであった。
ウインズはそう言うと二人の向かいのソファへと腰をかけた。
「お久しぶりねウインズ。全然大丈夫よ。はい、これ。父から預かってきたものよ」
ローゼは手に持っていた黒い箱をウインズへと渡した。
「おぉ、ありがとう!君のお父さんにはいつもお世話になっているよ。ローゼは元気にしていたかい?」
「えぇ、元気だったわよ!ウインズ、紹介するわこの人はタクミよ」
「あ、ども・・・」
いきなり紹介されつい小声で会釈をしてしまった。
「初めて見る顔だね。新しい付き人かい?」
「いえ、違うわ。実は今日はこのタクミのことでお願いがあるの」
「おや、そうなのかい。ローゼがお願いなんて珍しいじゃないか。どんな用件なんだい?」
「このタクミが魔法を使えるように教えてほしいの!」
ローゼの頼みに少し驚いた様子のウインズだったが、優しい表情でローゼに聞き直した。
「へぇ。それはまた急なお願いだね。それはまたどうしてなんだい?」
「実は・・・タクミはこの世界の住人ではなくて・・・」
ローゼは事情をウインズに説明した。
俺が異世界から来たこと、フェルという精霊から力を分けられたこと、それを使うことが出来ないということ、そして魔法を使いこなすことが元の世界へ帰る手掛かりになるんじゃないかってことを話した。
話を聞いてる時間、ウインズはただうなずくだけで「へぇ」や「なるほど」といった相槌をうつだけでローゼの話をさえぎることはしなかった。
タクミはただローゼの隣でじっとしていることしかできなかった。
そしてローゼの話が終わると、
「なるほど。話の流れは大体わかったよ。異世界から来たというのはにわかには信じられないが・・・ローゼが言うんだ。きっとホントのことなんだろう。そしてえーと・・タクミ君といったかね?少しいいかな?」
そう言うとウインズは立ち上がり右手の手のひらをタクミの頭へと近づけ目を閉じた。
タクミは何かされるんじゃないかと固まることしか出来ず、ウインズの手のひらをただ見つめていた。
ローゼは二人の様子をじっと見守っていた。
次の瞬間、ウインズの手が青くひかり、その光がタクミを包み込んだ。なにかタクミのことを探っているかのようだった。
「ふぅ・・・なるほどね。」
2,3分過ぎて青い光がスッと消えていくとウインズが目を開けた。
「たしかにタクミ君の中には魔法の力を感じるよ。しかも・・・かなり異質なもののようだね。おそらく君がこの世界の住人ではないから特別な反応を起こしているかのように感じるよ。正直君のようなタイプの人間は初めてだよ」
少し考えたウインズは続ける。
「うーん・・・せっかくのローゼの頼みなんだけどうやら今回は僕では力になれそうもないよ。申し訳ないね」
「そう・・・ウインズがそう言うのならしょうがないわよ。無理言ってごめんね」
ウインズの返事を聞いてローゼも残念な表情をしたが、すぐに元の笑顔になりウインズに礼を言った。
二人のやり取りを見てタクミも落胆した。
はぁ・・結局魔法について何もわからなかったな・・・
そんなタクミの表情を察してか、ウインズがタクミに声をかける。
「タクミ君。たしかに今は魔法が使えないかもしれないが、君の中にある力は凄いものだよ。その力を使いこなすことが出来ればきっとすごい存在になると思うからあきらめずに頑張ってくれ」
いくら凄くても使えねーんじゃ意味ねーじゃん!!
タクミは内心そう思いながらも会釈で答えた。
「まぁまぁ、そんなに落ち込まないで!そもそも魔法自体そう簡単に使えるものじゃないのよ!」
ローゼも気を使ってかタクミを励まそうとした。
「そうだな・・・」
ウインズが口をひらいた。
「今すぐ君を魔法を使えるようには出来ないが、ヒントをあげよう。精霊術に限らず、どの魔法を使うにも強い信念のようなものがある方が良い。それが今の君がまず一番に必要なものじゃないだろうか。」
「はぁ・・・」
気のない返事でタクミが返事をする。
信念?そんなもの今まで生きてきた中で一度も持ったことねーよ・・・
この世界じゃみんな当たり前にそんなもの持ってんの?
なんだか自分を否定されたかのような気持ちになったタクミであった。
「さて、それじゃあ、私たちはそろそろ帰るわね。タクミ行くわよ」
ローゼが立ち上がった。
「・・・あ、ああ」
タクミも慌てて立ち上がる。
「今日はすまなかったね。お父さんにもよろしく伝えてくれ」
二人が部屋から出ようとした時ウインズが思い出したかのように声をかけた。
「あ、ローゼ!最近アーバンカル周辺になんだか良くない噂を聞くからくれぐれも気をつけてくれよ!」
「良くない噂?」
「あぁ。なんだかガラの悪い連中がウロウロしているみたいなんだ。私も詳しくは知らないんだが・・・」
「そう・・・わかったわ!ありがとうウインズ。それじゃあね」
二人は部屋を出た。
「なんだよ、ガラの悪い連中って?」
屋敷から出たタクミがローゼに聞く。
「この世界も良い人だけじゃないのよ。魔法を良からぬことに使ってる輩がいるってことよ」
「泥棒とか強盗みたいなものか?どこの世界にもいるんだな」
「そうね。ただタクミの世界に魔法はなかったからわからないだろうけど、こっちの悪人は魔法が使えるからその分タチの悪いこともあるのよ。まったく困ったもんだわ」
ローゼがなんだか不機嫌になっていくのがわかった。
「あ、でもそれならもちろんそいつらを取り締まる人たちもいるんだろ?」
あわてて話をそらすタクミ。
「そうね、もちろんいるわよ。魔法騎士団と呼ばれるものがあるわ!」
「魔法騎士団?・・・いかにも正義の味方って感じだな?」
「そうね。まさに正義のために結成されたものですもの。厳しい魔法と人格審査を合格しないと入団できない決まりがあるのよ」
「へぇー。それはまたすごい集まりがあるんだな」
なんだかよくわからないが感心して見せた。
そうこう話している間にマルクの待つ馬車に到着した。
「おまたせマルク。今日はもう遅いからアーバンカルに泊まることにしましょうか。」
確かに外はもう夕暮れだった。
「そうですな。では宿を探しましょうか。」
二人は馬車に乗り込みウインズの屋敷を後にした。
30代くらいの男が二人の待つ部屋へと入ってきた。
黒いタキシードのような格好をして細身に長身、顔も整っていていかにも実業家といわんとするオーラをまとっているこの男がウインズであった。
ウインズはそう言うと二人の向かいのソファへと腰をかけた。
「お久しぶりねウインズ。全然大丈夫よ。はい、これ。父から預かってきたものよ」
ローゼは手に持っていた黒い箱をウインズへと渡した。
「おぉ、ありがとう!君のお父さんにはいつもお世話になっているよ。ローゼは元気にしていたかい?」
「えぇ、元気だったわよ!ウインズ、紹介するわこの人はタクミよ」
「あ、ども・・・」
いきなり紹介されつい小声で会釈をしてしまった。
「初めて見る顔だね。新しい付き人かい?」
「いえ、違うわ。実は今日はこのタクミのことでお願いがあるの」
「おや、そうなのかい。ローゼがお願いなんて珍しいじゃないか。どんな用件なんだい?」
「このタクミが魔法を使えるように教えてほしいの!」
ローゼの頼みに少し驚いた様子のウインズだったが、優しい表情でローゼに聞き直した。
「へぇ。それはまた急なお願いだね。それはまたどうしてなんだい?」
「実は・・・タクミはこの世界の住人ではなくて・・・」
ローゼは事情をウインズに説明した。
俺が異世界から来たこと、フェルという精霊から力を分けられたこと、それを使うことが出来ないということ、そして魔法を使いこなすことが元の世界へ帰る手掛かりになるんじゃないかってことを話した。
話を聞いてる時間、ウインズはただうなずくだけで「へぇ」や「なるほど」といった相槌をうつだけでローゼの話をさえぎることはしなかった。
タクミはただローゼの隣でじっとしていることしかできなかった。
そしてローゼの話が終わると、
「なるほど。話の流れは大体わかったよ。異世界から来たというのはにわかには信じられないが・・・ローゼが言うんだ。きっとホントのことなんだろう。そしてえーと・・タクミ君といったかね?少しいいかな?」
そう言うとウインズは立ち上がり右手の手のひらをタクミの頭へと近づけ目を閉じた。
タクミは何かされるんじゃないかと固まることしか出来ず、ウインズの手のひらをただ見つめていた。
ローゼは二人の様子をじっと見守っていた。
次の瞬間、ウインズの手が青くひかり、その光がタクミを包み込んだ。なにかタクミのことを探っているかのようだった。
「ふぅ・・・なるほどね。」
2,3分過ぎて青い光がスッと消えていくとウインズが目を開けた。
「たしかにタクミ君の中には魔法の力を感じるよ。しかも・・・かなり異質なもののようだね。おそらく君がこの世界の住人ではないから特別な反応を起こしているかのように感じるよ。正直君のようなタイプの人間は初めてだよ」
少し考えたウインズは続ける。
「うーん・・・せっかくのローゼの頼みなんだけどうやら今回は僕では力になれそうもないよ。申し訳ないね」
「そう・・・ウインズがそう言うのならしょうがないわよ。無理言ってごめんね」
ウインズの返事を聞いてローゼも残念な表情をしたが、すぐに元の笑顔になりウインズに礼を言った。
二人のやり取りを見てタクミも落胆した。
はぁ・・結局魔法について何もわからなかったな・・・
そんなタクミの表情を察してか、ウインズがタクミに声をかける。
「タクミ君。たしかに今は魔法が使えないかもしれないが、君の中にある力は凄いものだよ。その力を使いこなすことが出来ればきっとすごい存在になると思うからあきらめずに頑張ってくれ」
いくら凄くても使えねーんじゃ意味ねーじゃん!!
タクミは内心そう思いながらも会釈で答えた。
「まぁまぁ、そんなに落ち込まないで!そもそも魔法自体そう簡単に使えるものじゃないのよ!」
ローゼも気を使ってかタクミを励まそうとした。
「そうだな・・・」
ウインズが口をひらいた。
「今すぐ君を魔法を使えるようには出来ないが、ヒントをあげよう。精霊術に限らず、どの魔法を使うにも強い信念のようなものがある方が良い。それが今の君がまず一番に必要なものじゃないだろうか。」
「はぁ・・・」
気のない返事でタクミが返事をする。
信念?そんなもの今まで生きてきた中で一度も持ったことねーよ・・・
この世界じゃみんな当たり前にそんなもの持ってんの?
なんだか自分を否定されたかのような気持ちになったタクミであった。
「さて、それじゃあ、私たちはそろそろ帰るわね。タクミ行くわよ」
ローゼが立ち上がった。
「・・・あ、ああ」
タクミも慌てて立ち上がる。
「今日はすまなかったね。お父さんにもよろしく伝えてくれ」
二人が部屋から出ようとした時ウインズが思い出したかのように声をかけた。
「あ、ローゼ!最近アーバンカル周辺になんだか良くない噂を聞くからくれぐれも気をつけてくれよ!」
「良くない噂?」
「あぁ。なんだかガラの悪い連中がウロウロしているみたいなんだ。私も詳しくは知らないんだが・・・」
「そう・・・わかったわ!ありがとうウインズ。それじゃあね」
二人は部屋を出た。
「なんだよ、ガラの悪い連中って?」
屋敷から出たタクミがローゼに聞く。
「この世界も良い人だけじゃないのよ。魔法を良からぬことに使ってる輩がいるってことよ」
「泥棒とか強盗みたいなものか?どこの世界にもいるんだな」
「そうね。ただタクミの世界に魔法はなかったからわからないだろうけど、こっちの悪人は魔法が使えるからその分タチの悪いこともあるのよ。まったく困ったもんだわ」
ローゼがなんだか不機嫌になっていくのがわかった。
「あ、でもそれならもちろんそいつらを取り締まる人たちもいるんだろ?」
あわてて話をそらすタクミ。
「そうね、もちろんいるわよ。魔法騎士団と呼ばれるものがあるわ!」
「魔法騎士団?・・・いかにも正義の味方って感じだな?」
「そうね。まさに正義のために結成されたものですもの。厳しい魔法と人格審査を合格しないと入団できない決まりがあるのよ」
「へぇー。それはまたすごい集まりがあるんだな」
なんだかよくわからないが感心して見せた。
そうこう話している間にマルクの待つ馬車に到着した。
「おまたせマルク。今日はもう遅いからアーバンカルに泊まることにしましょうか。」
確かに外はもう夕暮れだった。
「そうですな。では宿を探しましょうか。」
二人は馬車に乗り込みウインズの屋敷を後にした。
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