無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

一章 2 『異世界でも喉は乾く』

  タクミは絶望から力が抜けたように膝ひざから地面に崩くずれ落ちた。

 「なんなんだよ・・ここは。俺はさっきまでコンビニに買い物にいこうとしていただけなのに・・・」

 タクミは再び周りを見渡した。何度見てもそこは辺り一面荒野であり、遠くのほうに小さくではあるが丘の上に建造物けんぞうぶつのようなものが確認でき、その手前には森が広がっていた。そして空にはオレンジ色の太陽と見慣れない緑色の月に似た惑星が存在していた。

 「いや、太陽はわかるけど・・・あの緑色のはなんだ? あんなもの見たことねーよ」

 タクミは見慣れない光景に動揺していた。そして自分の置かれている状況を整理しはじめた。

  俺はさっきまでコンビニに行こうと夜の道を歩いていたよな?そして・・・そうだ!その道で変な生き物を見たんだ!

 それでそいつと目があったような気がしたら急に何も見えなくなって、気づいたらここにいたんだ・・・!

  「あっ!そういえば、あの生き物はどこ行きやがった!?」

 タクミは思い出したように先程であった謎の生き物を探したが、その生き物の姿は見当たらなかった

 「いないか・・・くそっ!まったくわからねー!!けど、とりあえずここにずっといるわけにはいかねーし・・・そうだ!携帯は!?」

 急いで右ポケットの携帯を取り出して確認した。

 携帯の時刻は23時20分を表示していたが電波は圏外の二文字を表示していた。

 「時間はさっき俺が出かけた時間だよな?けど圏外かよ・・・」

 試しに110番に電話してみたがもちろん繋がらなかった。

 「なんなんだよ!まったく・・・」

 タクミは先ほど視界に映った建造物けんぞうぶつの方に再び視線を送った。

 「とりあえずあの建物みたいな所に行くしかねーよな。このままここにいてもどうしようもねーし。誰かいるかもしれないしな・・・」

 タクミはおもむろに立ち上がり建造物けんぞうぶつの方角へと歩き出した。

 「くそっ・・あそこまで着くのにどんぐらいかかんだよ・・・こんな距離歩くのなんていつ以来だ?」

 タクミは愚痴を言いながらも、この状況を打破するために一歩一歩と足を進めていた。

 「それにしても暑いな。まるで夏みたいな暑さじゃねーかよ!どっか変な外国にでも誘拐されちまったのかよ・・・」

そう不満そうに呟くタクミの顔たくさんの汗が滲み出ていた。

  あー・・・ビール飲みたい・・・・

 そんな事を考えながらタクミはただひたすらに歩き続けた。

 体内時計で一時間以上は歩いたと思った。そして見えてきた森の中にわりと整備されている林道のようなものを確認することが出来た。おそらくここを通り道にしているのだろう。

 「道だっ!!」

 やっと景色の変化が見れたことによってタクミの表情にも笑えみがこぼれた。

 「まったくどんだけ歩かせるつもりなんだよ・・・。てかどれだけ歩いたんだ俺は?」

 そう言うとタクミはポケットから再度携帯を取り出して時間を確認した。そして驚愕した。

  時間の表示は先ほどと同じ23時20分を示したままだったのだ。

 え・・・?なんで時間が進んでないんだよ!携帯の時計が止まることなんてあるのかよ?

 あまりにも異常な状況にタクミは先ほどこぼれた笑みを一瞬で恐怖の表情へと変化させた。

 「本当に意味わかんねーよ!!海外で携帯の時計が止まるなんてことあんのかよ!?てかあの緑の星もなんなんだよ!?あんなもんマジ知らねーよ!!なに?ここ地球でもないの!?どこだよ!?あーもう!全てにおいてわけわからん!!くそったれが!!!」

 理解できない状況にタクミは不満を一気に爆発させた。怒りを足元の小石にぶつける。タクミが蹴りつけた小石は遠くに転がっていった。

 錯乱していたタクミだが、自分が歩いてきた背後の方からなにやら気配を感じて振り返った。

 そこには遠くのほうで砂煙すなけむりをあげながら何かがスゴイ速さで近づいて来るのがわかった。

 「・・・ん?なんだあれ?何かこっちに来てるのか?」

 タクミは冷静さを取り戻すと自分の姿を急いで森に近づき、木影に身を隠して近づいてくるものをじっと息を潜めて待った。

 そして砂埃はだんだんと近づいて来た。そしてそれはすごい速さで、タクミの目の前を走り抜けていった。

 タクミはその光景を見て、口を大きく開け驚きを隠せなかった。

 近づいてくるそれは馬車のように見えた。しかし、それを引っ張っている生き物は馬ではなかった。

 まるで二足歩行の爬虫類のような姿だったが、だがそれも違った。

 まるでゲームとかに出てくるような・・・そう、まるでドラゴン。ドラゴンを小さくしたような生物がそこにはいたのだ。小さいといっても大人の男くらいの大きさは余裕である。

 「なんだよ・・・あれ?あんな生き物見たことねーよ・・・」

 タクミは走り去ったそれを見てある一つの考えにたどり着いた。

 「携帯の時計が止まったことにしても、あの星とか・・・今の変なドラゴンみたいなやつだってなんなんだよ?俺あんなもん知らねーもん・・・絶対ここ日本・・・てか地球じゃねーよ!!ありえねーだろ!!」

 その答えにたどり着くと同時に、タクミは身を潜めていた木に背中をつけ足の力が抜けたように地面へと座り込む。

 「ハハッ・・・なんなんだよ・・なんで俺がこんなことにならなくちゃいけないんだよ!俺がなにしたって言うんだよ!ホント勘弁してくれよ!」

 タクミはもはや涙目になりながら地面を絶望を右のこぶしに乗せて殴った。

 「いてぇ・・・ちくしょう!」

 思いっきり殴った拳は少し血の滲にじんでいた。それを見てタクミは体育座りのような姿勢で頭を抱え自分の両膝へとつける形で丸まり深くため息をついた。



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