時空干渉能力
妄想男
三十路を越えた彼は、眠る前に必ず妄想をする。
何故、年甲斐もなく妄想をするかと言うと、それは、現実逃避でしかない。
サービス業をしている彼は、とてつもなく要領が悪かった。
やる事なす事が全て裏目に出てしまい、職場では鼻摘まみ者にされている。
そう言った経緯もあり、彼の唯一の楽しみは、妄想だけとなっていった。
妄想の中での自分はいつも頼もしくて、強くて、とても都合の良い存在であり続けられたからだ......。
そして今日も、いつも通り妄想をする。
就職をしてから10年と言う長い間、コツコツと脳内で作り上げてきた世界は、いよいよ大詰めである世界を破滅させる魔王との最終戦だ。
そこで彼は、考えた。
大団円ならば、今まで苦難を乗り越えてきた仲間達、いや、世界中の者達が束になっても勝てぬほどの最強にしようと。
そこで、最強である魔王に、
『時空干渉』
と言うスキルを付ける事にした。
本来、時間や空間に干渉出来る相手に勝つなど無理な話ではあるが、ご都合主義により、勇者である自分が颯爽と現れ、更に上手の能力で殲滅する。
そんな素晴らしい結末を考えていた。
『時空干渉』
を超える能力......。
彼は、再び考える。
しかし眠気も相まって、全く思いつかなかった。
そこで、今日は一旦睡眠を取り、明日改めて考え直す事に決め、眠りに就いたーーーー
ーーーーふと目を開けると、彼の前には、恐ろしい顔をした魔王の姿があった。
彼はそれを見ると、すぐにこれは夢だと確信した。
何故なら鮮明に映し出された魔王は、自分の脳内イメージと完全に一致していたからだ。
明晰夢を見るのは初めてだった。
何度も挑戦したが、一度も成功する事はなかったのだ。
すると彼は、明晰夢の代表的な特徴である、自分の思い通りになるという事柄を利用して、考えられる我儘な設定を沢山詰め込んだ。
その上で、魔王に攻撃を仕掛けた。
しかし、一瞬で目の前が暗くなった。
魔王は彼の生い立ちに干渉する事で、彼自体の存在をなかった事にしたのだ。
そこで彼は、この世界は夢ではないと理解した......。ーーーー
ーーー目を開けると、彼は布団の上にいた。
朝日の差す見慣れた部屋の中で、目の前に見える目覚まし時計を見た時、彼は先程までの顛末が夢であった事を理解して、出勤の支度をした。
その夜、再び、あの魔王に勝つ手筈を考えた。
夢とは言え、あんな無惨な負け方はしたくないからだ。
そして、最終的に結論として、
『時空干渉』
を消す事にした。
その代わりに沢山の魔法スキルを加えて、調和を図った。
そしてまた、眠りに就くーーーー
ーーーー目を開けると、またそこには魔王がいた。
彼は魔王の設定改変が有効になったと考えて、勇敢に戦った。
しかし、また目の前が真っ暗になった。
結局の所、
『時空干渉』
は消えていなかったのだ...。
それからと言うもの彼は毎晩、絶対に勝てる筈のない相手と戦っている。
だが、何を施した所で、目の前が真っ暗になって終わってしまうのだ......。
そんな日々が一年続いた頃、彼は既におかしくなっていた。
仕事も休みがちになり、挙句の果てには退職までしてしまった。
そして、狂った様に設定を練り直す。
しかし、何をやっても目の前が真っ暗になって終わってしまう。
いよいよ食事も摂らず、永遠と脳内で打開策を考える様になった。
そして遂に、体調を崩して眠気とは全く違う、意識が遠のいていく感覚に襲われて行った......。ーーーー
ーーーー彼はふと目を開けると、そこには勇者がいた。
そこで彼は、
『時空干渉』
を使って勇者の存在を消した。
ーーーー何も言葉を発する事なく、只、黙々と。
静かに消えて行く勇者を見て、彼は自分の存在が消えたしまった事を、初めて理解した。
何故、年甲斐もなく妄想をするかと言うと、それは、現実逃避でしかない。
サービス業をしている彼は、とてつもなく要領が悪かった。
やる事なす事が全て裏目に出てしまい、職場では鼻摘まみ者にされている。
そう言った経緯もあり、彼の唯一の楽しみは、妄想だけとなっていった。
妄想の中での自分はいつも頼もしくて、強くて、とても都合の良い存在であり続けられたからだ......。
そして今日も、いつも通り妄想をする。
就職をしてから10年と言う長い間、コツコツと脳内で作り上げてきた世界は、いよいよ大詰めである世界を破滅させる魔王との最終戦だ。
そこで彼は、考えた。
大団円ならば、今まで苦難を乗り越えてきた仲間達、いや、世界中の者達が束になっても勝てぬほどの最強にしようと。
そこで、最強である魔王に、
『時空干渉』
と言うスキルを付ける事にした。
本来、時間や空間に干渉出来る相手に勝つなど無理な話ではあるが、ご都合主義により、勇者である自分が颯爽と現れ、更に上手の能力で殲滅する。
そんな素晴らしい結末を考えていた。
『時空干渉』
を超える能力......。
彼は、再び考える。
しかし眠気も相まって、全く思いつかなかった。
そこで、今日は一旦睡眠を取り、明日改めて考え直す事に決め、眠りに就いたーーーー
ーーーーふと目を開けると、彼の前には、恐ろしい顔をした魔王の姿があった。
彼はそれを見ると、すぐにこれは夢だと確信した。
何故なら鮮明に映し出された魔王は、自分の脳内イメージと完全に一致していたからだ。
明晰夢を見るのは初めてだった。
何度も挑戦したが、一度も成功する事はなかったのだ。
すると彼は、明晰夢の代表的な特徴である、自分の思い通りになるという事柄を利用して、考えられる我儘な設定を沢山詰め込んだ。
その上で、魔王に攻撃を仕掛けた。
しかし、一瞬で目の前が暗くなった。
魔王は彼の生い立ちに干渉する事で、彼自体の存在をなかった事にしたのだ。
そこで彼は、この世界は夢ではないと理解した......。ーーーー
ーーー目を開けると、彼は布団の上にいた。
朝日の差す見慣れた部屋の中で、目の前に見える目覚まし時計を見た時、彼は先程までの顛末が夢であった事を理解して、出勤の支度をした。
その夜、再び、あの魔王に勝つ手筈を考えた。
夢とは言え、あんな無惨な負け方はしたくないからだ。
そして、最終的に結論として、
『時空干渉』
を消す事にした。
その代わりに沢山の魔法スキルを加えて、調和を図った。
そしてまた、眠りに就くーーーー
ーーーー目を開けると、またそこには魔王がいた。
彼は魔王の設定改変が有効になったと考えて、勇敢に戦った。
しかし、また目の前が真っ暗になった。
結局の所、
『時空干渉』
は消えていなかったのだ...。
それからと言うもの彼は毎晩、絶対に勝てる筈のない相手と戦っている。
だが、何を施した所で、目の前が真っ暗になって終わってしまうのだ......。
そんな日々が一年続いた頃、彼は既におかしくなっていた。
仕事も休みがちになり、挙句の果てには退職までしてしまった。
そして、狂った様に設定を練り直す。
しかし、何をやっても目の前が真っ暗になって終わってしまう。
いよいよ食事も摂らず、永遠と脳内で打開策を考える様になった。
そして遂に、体調を崩して眠気とは全く違う、意識が遠のいていく感覚に襲われて行った......。ーーーー
ーーーー彼はふと目を開けると、そこには勇者がいた。
そこで彼は、
『時空干渉』
を使って勇者の存在を消した。
ーーーー何も言葉を発する事なく、只、黙々と。
静かに消えて行く勇者を見て、彼は自分の存在が消えたしまった事を、初めて理解した。
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