ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第35話 ニュータイプキター!

ーーーーーー

  帰還後初めての授業を受ける為に教室へたどり着くと、隣同士でヒソヒソ喋るフリとフラの声が聞こえた。

「今日は特別講師でチャールズ先生がするらしいのですよ......」

「やっぱり来てしまうんだ......。あの人、露骨に厳しいから嫌なのだし......」

  彼女達の話を聞いた俺は、何となく嫌な想像をした。


  そのチャールズ何某は、めちゃくちゃ厳しい講師で、バカな俺と美優紀なんかは、ガミガミ怒られるんだろうなと。

  それから、ガチムキのおっさんをイメージした。角刈りに日焼けした肌、加えて竹刀にタンクトップも添えた。


  嫌になった。
  廊下とか立たされてバケツ持たされて......。


  なんだか、凹むわ。
  朝になって知るって憂鬱だなぁ。

  そんな落ち込んだ気持ちと共にしな垂れる様に机に座ると、美優紀をチラッと見た。


  すると、彼女はこれでもかって程に震えていた。

  ビビり過ぎなくらい。

 
  なんだかちょっとだけ、そんな美優紀を見ていると気が楽になった。そう思える自分にクズさを感じながらも......。


  だが、そんな状況に見兼ねたのか、フィールズはおもむろに立ち上がると、彼女の目の前にやって来て、こんな事を呟いた。

「まあ、彼女は毒舌だが、普通にしていれば大丈夫だからな。そんなに恐れる必要はない。それに、実は生徒思いだし......」

  頬を赤らめてあからさまにアピールと言わんばかりに励ますフィールズを見ると、俺は何となくこんな事を考えた。


ーーあの特別授業の一ヶ月以来、このクラスの雰囲気は圧倒的に良くなったなと。


  前は、誰も会話などせずに張り詰めた雰囲気が教室一帯に広がっていた。

  だが、今は何となく打ち解けられた気がして嬉しくなった。

  そんな事を考えながら微笑んでいると、ピピィは俺の肩をほんの少しだけ小突いてこう言ったのである。

「何を、ニヤニヤしておるのじゃ」

「いや、何でもないよ......」

  ピピィはそう言うと、何故か辺りを見渡してニコッとしていた。


  そんなピピィの笑顔を見て、彼女も俺と同じ気持ちなんだろうなと、なんとなく思ったのであった。


  てかさっき、フィールズは講師の事を『彼女』とか言っていたな。

  もしかしたら、現役バリバリのキャリアウーマン風な容姿の方が来られるかもしれない。アラフォーくらいの。

  それはそれでアリかナシで言ったら、大いにアリである。

  仕事一貫的な、ダメ生徒を更生させようと空回りして厳しく当たってしまう女性教師を想像した。

  上手くいけば、無理矢理に居残りさせられてこの前行われた物とは違う意味での『特別授業』が受けられるかもしれない。


  いや、この場合は違うな。『特別調教』とでも言うべきか。ムフフ。


  それならば、大いに質問しようではないか。A〜Zまでみっちりと......。保健体育じゃないのが残念だ。

「あなた、私の事を馬鹿にしているのですか? 真面目に答えないと、宿題増やしますよ? 」

  とか、蔑んだ口調で言ってほちい。

  廊下に立ちたい。一人で教室の掃除とかさせられたい。

  そんな情けない俺の姿を、足組して見てくれや!

  イエスフォーリンラブ。歪んだ愛。


  デュフフフ......。
  クハハハハ......。
  ブボボボボ......。

  いかん、笑いが止まらないぜ。


  俺がそんな風に恒例となったR指定スマイルをチラつかせていると、隣にいるピピィは俺を見て若干引いていた。

  その視線にすら若干興奮すると、俺は慌てて我に帰った。

  いかんいかん......。


  そんな欲望に塗れた興奮を打ち消すかの様に、授業開始を告げるチャイムが鳴り響いた。


  同時に、入口の引き戸が開く。

  俺はヨダレだらけの口元を右手で抑える。


  そして、特別講師の彼女はゆっくりと姿を現した。


  すると、そこにいたのは真っ白なスーツに綺麗な金髪ロングヘアー、誰も勝てないであろうキラキラの笑顔を見せる二十代前半くらいの若い女性が悠然と教卓へ向かって行ったのである。


  あれ、想像していたのと違う......。

 
  俺はそんな風に残念な気持ちを持ってそう思った。


  だって、どう考えてもその教師は残忍な様に思えなかったから。

  むしろ、天使かと見誤るくらいに聖人オーラ丸出しなのだ。


  畜生。もしかしたら、その厳しいアラフォーキャリアウーマン風教師は都合により来られなかったのであろう。

  その結果、あんな聖女の様な講師が代役を務めているのかもしれんな。


そんな事を考えながら小さくため息をついて辺りを見渡すと、フリとフラは明らかに緊張感丸出しの表情を浮かべていた。


  ん......? どう言う事だ......?


  そう思ったのも束の間、教卓の上に教書を置いたその天使の様な講師は、皆に向けてニコッと笑うとゆっくり口を開いてこう言ったのである。

「講師のミリアンです。それでは、戦場ではまるで使い物にならないゴミクズ以下のあなた方を人柱レベルのクズに育てる為にも、早速授業を始めたいと思います」


  俺は、優しい口調で放たれた余りにも辛辣な開口一番の一言を聴くと、ポカンとした。


  それから、ジワジワと現実を理解する。


  Now loading......。


  ............。


  ニュータイプのドS様、キター!!!!!!


  俺は、そんな風に心で歓喜の声を上げると、口元を緩ませた。
  天使の様な悪魔が、そこにはいたのだ。本当に実在したのである。


  これは、歴史的発見だ! ノーベル賞レベルの!

  
  それならば、堪能しようではないか。
  この、素晴らしくも美しい授業を......。

  バカで良かった。
  絶対怒られるだろう。


  俺がそんな風にうつつを抜かしていると、ミリアンは光の速さではないかと言うスピードを持って、チョークを投げつけてきたのである。

  それは、俺の頬を掠めた。

「何、ニヤニヤしているんですか? 次、授業中に歯を見せたらブチ殺しますよ」

  相変わらず笑顔で彼女は俺にそう言うと、俺は明るい口調でこう謝罪を述べた。

「はい! すみませんでした! 頑張って勉学に励みます! 」


  それを聞いたミリアンはボソッと、「全く、使えない奴ですね......」と言った後で授業を開始したのである。


  すまんが、今日は堪能させてもらおう。

  ミリアン様の『特別調教』を......。


  俺はそう思うと、教科書の指定されたページを開くと、彼女に恍惚の眼差しを向けるのであった。

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