ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第32話 酒って怖いんだな!


ーーーーーー

「もうそろそろ、終わりにしようよ......」

  美優紀が心配した口調で俺にそう促す。

「うるせぇよぉ〜! 俺に構うんじゃねえ〜! 」

  波打った声でそう返答するのは、紛れもなく俺だ。今まさに、初めての酒で酔っている。

  そんな俺の発言を聞いたピピィは、全く呂律の回らない喋り方でこんな事を言い出した。

「そ〜らのじゃ! 幹雄のゆーとーりじゃぞぉ〜! こんらに楽しい時間を、簡単に終わらせられるわけないじゃろう! 」

  ピピィが小さな体全体を使ってそう抗うと、俺は彼女を抱き上げてキツく抱きしめたい。

「やっぱり、ピピィはいい奴だなぁ!! 父としては自慢の娘だぞ! まさに、一家に一人ピピィだ! 」

  俺が酔った勢いに任せて彼女へ一方的な抱擁を始めると、ピピィは俺の腕の中でジタバタと暴れ始めた。

「だから、あたしは歳上じゃ! もっと敬え! 」

「いや、俺はその事実を一旦保留する事にしたんだ。ピピィをお姉さんなんて、絶対に思えないしなだな」

「もう! なんなのじゃ! ならば、もっと可愛がるがいい! 頭を撫でても良いのじゃぞ! 」


  ピピィがそう言って一旦収まると、俺の目の前に頭を差し出す。


  俺はそんな彼女の愛情に飢えた感じに萌えた。


  どうだ。うちの娘、めちゃくちゃ可愛いだろう......?


  そう得意げな顔をすると、ニコニコとまるで懐いている小動物を愛でるかのごとく、彼女の頭をナデナデしてあげた。

「この甘えん坊さんが!! まったく、可愛いのぉ〜」

  俺はなかなか気持ち悪い表情でそんな事を口にすると、ピピィはご満悦と言った表情で満遍の笑みを見せていた。

「まったく、仕方がないから許してやるのじゃ〜」


  そんなやりとりの中で、ほんの少しだけ残った理性で思う。


  多分、俺とピピィのやり取りは側から見たらめちゃくちゃキモい。

  内から滲み出る痒さを感じるであろう。

  でも、その衝動は止められない。


  だって、自慢の娘が甘えた声で色々催促してくるんだぜ。

  パパとしてそれに応えるのが筋ってもんだろ。


  だが、そんな茶番劇を繰り返している内に、美優紀は次第に俯いてプルプルと体を震わせ始めた。


  多分、怒っているんだろう。


  だって美優紀、さっき注意してきたし。


  手元の時計は、もう十九時半を回っていた。


  約十二時間ぶっ通しで宴会は続いている。誰もやめようと言いださない。グリミナンテも何だか嬉しそうな顔で酒を飲んでいる。


  その場の誰もが雰囲気に呑まれている。今までの事が嘘だったかの様に掌を返して俺達を賞賛している。


  だが、美優紀だけは幾ら酒を飲んでも普段と表情を変えない。

  多分、相当酒に対しての耐性があるのだろうと思った。


  だからこそ、この異様な宴会を冷静に見られるのであろう。


  そして、美優紀は顔をゆっくりと上げると、怒りの表情を見せながらこう言い放ったのである。

「ピピィばっかり、羨ましい!! 」


  はっ......? 何言ってんだ、こいつ......。


  俺が一瞬にして酔いを忘れると、美優紀が突然言い出した意味不明な発言に呆然とした。


  だが、彼女はそんな狐につままれた様な顔をする俺の目の前までズカズカとやった来た後で、こんな事を続けた。

「私だってたまにはナデナデして欲しいんだから! 元の世界では、お母さんに一日一ナデして貰ってたんだからね! だから、今すぐ私も撫でて! 早く! さあ! 」


  ものすごい剣幕で訳の分からない事を熱弁している美優紀を見ると、すっかり冷静になって苦笑を浮かべた。


  なによりもおかしいのは、彼女がシラフでそう発言している事である。


  『一日一ナデ』って......。そんな家訓あったんかい。

  南家のルールはおかしいぞ......。


「お前はもう大人だろ? それに、俺なんかが撫でてもしょうがないじゃないか」

「そんな事、どうでも良いから! 早くして! 」

  彼女は食い込み気味な口調で勢い良く俺の前に頭を差し出す。


  美優紀の叫びによって、会場の皆は『何があった? 』と言わんばかりに俺の周りにわらわらと集まり始めた。

  そんな中、顔を真っ赤にしているフィールズは酔った雰囲気でこう言い出した。

「やあ、南美優紀よ! それならば、俺が撫でてやっても......」


ーーだが、そう提案した彼を遮る様に美優紀は、

「あんたは黙ってて!! 」

と、怒りを露わにした。


  すると、フィールズな泣きながらその場から離れていく。


  いや、当初お前はそんなキャラじゃなかっただろうが......。


  俺はそんな風に大きくため息をつく。


  それから辺りを見渡すと何故か全員、俺が美優紀にナデナデするのを期待する様な目をしていた。


  そんな中、ペニャはニヤニヤとしている。何か企んだ様な表情で。


  俺は、彼女の表情に嫌な予感がした。


  そして、ペニャは手を叩きながら、「ナ〜デナデ! ナ〜デナデ! 」と、あまりにも聞きなれないコールを始める。


  同時にその声はこだまする様に広がっていった。

「ナ〜デナデ! ナ〜デナデ! 」


  なに、この状態......。


  俺がそう心の中で突っ込むと、美優紀はしたり顔でこう言う。

「ほら、もう逃げられないよ。ここにいる全員が私の味方。観念して早く撫でようか。ほら、早く......」

  美優紀は馬鹿っぽい声で得意げにすると、もう一度頭を俺に向けた。


  いや、ここまで来ると恥ずいわ。

  でもこうなった以上、俺が撫でないと状況は収束しない。


  そして、意を決した俺は、少しだけ顔を赤らめながら目を逸らして、美優紀の頭を三周くらい円を描くようにナデナデした。

「やっぱり、最、高......」


ーー美優紀がそう恍惚の表情を浮かべたのを合図に、辺りからは割れんばかりの歓声が起こる。


「おめでとう! 」

「友情って、素晴らしいな! 」

「歴史的な瞬間に立ち会えて嬉しいよ! 」

  周囲から聞こえる賞賛に、俺は心の底から思った。


  いや、なにが......?


  それから何故か、みんなに胴上げされる。


  みんな酔っている。おかしいくらい。ただ頭を撫でただけで、こんなに歓声が沸くほどに。


  そう思うと、初めて酒の恐怖を知った気がしたのである。


  そんなこんなで、宴会は盛り上がりを増す。


  まるで、永遠に続くかのごとく......。

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