ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第30話 喜びもひとしおだ!


ーーーーーー

  
ーー何故、神殿が綺麗に補修されていたのかは分からない。


  だが、とりあえずホッと一安心している俺がいる。
  何にせよ、上手く事が収まった事には変わらないのだから。
  まあ、最初から壊れてなんかなかったのかもしれないしだな。

 
  むしろ、そうに違いないっしょ。
  この場所で間違い無いのは事実ではあるのだが、それはそれで前向きに解釈しておくとしよう。


  ピピィも、ホッと一安心しているみたいだし。


  そんな事を思うと、俺は先程までの哀れな表情から一転、明るく振る舞った。

「な〜んちゃって!! 俺が神聖な神殿をぶっ壊すわけないじゃん!! 」

  月明かりに照らされて神秘的な光沢を放つ神殿を横目に俺が取り繕う様におちゃらけるも、誰もがその余りにも現実離れした建造物に恍惚の表情を浮かべて完全なる無視を決め込んでいた。


  無視かよ。分かってるじゃねえか、たまらねえなぁ。まるで、俺なんてこの世に存在していないみたいな仕打ちだ。嬉しいな、マジで。


  ばっちりスベった様な感覚もなかなか悪くない。
  例えるならば、高校入学初日の自己紹介でウケを狙った結果、誰も笑わずに呆然とこちらを見つめてスタートダッシュに失敗してしまった気分だ。


  その後、俺に対して全員は余所余所しい振る舞いをするであろう。
  「お、おはよう......」みたいに、まるで腫れ物を触る様なあの感覚と一緒。


  残念ながら高校ではそんな発想が思いつかず無難に挨拶を済ませてしまったから快楽にはたどり着けなかったのが悔やまれるな。

「ピロロロロ〜ン!! 俺っちの名前は、佐藤幹雄だピョン!! これからはクラスメイツ達と本当の意味でのソウルメイツになりたいと思っているピョン!! 前世はウサギだピョン!! お願いしますピョン!! ピョンピョン!! 」

  とか痛々しい自己紹介でもしておけば、周りはドン引きしただろうに。

  だって、男のウサギキャラなんて、誰も求めていないだろうしな。ただひたすらにキモいだけだしな。
  頭の悪さが露見するのは必須だし、変人のレッテルとか貼られて常に廊下を歩く度に女子達がジト目してくれただろうし。


  う〜ん、悔やまれる。高校時代の俺よ。


  まあ、どちらにせよ今はみんな神殿に夢中だし、何とか窮地から抜けられたのはありがたい話だ。

  これで特別授業もひと段落して暖かい布団にありつけるってもんだ。
  ある意味最高のフィナーレを迎えられたのは幸運ではあるな。本当に良かった。


  俺は一人で妄想を膨らませつつそんな事を思っていると、先程まで神殿に目を輝かせていた美優紀が少し怒った表情を浮かべながら俺の耳元でこんな事を呟いた。

「幹雄、嘘はダメだよ。これから悪い事した時は、ちゃんと謝らないと許さないからね」


  美優紀には気付かれていました。

「ごめん......」

  俺は俯いてそう謝罪を述べる。

  すると美優紀はニコッと優しい笑顔を見せながら俺の頭の上にポンと手を置いて、

「よく出来ました! 」

と、相変わらず誰にも負けない可愛い顔でそう返答をしたのである。


  俺はそんな美優紀の振る舞いに対して、ほんの少しだけ頬を赤らめた。

 
  うん、君は意外と飴とムチの正しい使用法を知っておられるみたいだな。バカだけど。


  そんな二人のやり取りを終えた後で、俺達は通例通りの手順で神殿に祈りを捧げると、『モールスタイン英雄学校』への帰途に就くのであった。


  そんな中、俺はこっそりとこんな祈りを捧げた。


  『これからもずっと学校のみんなが無事でありますように』と......。


ーーーーーー

  翌日の朝方、俺達はやっとの思いで『モールスタイン英雄学校』に到着した。

  まだ辺りが薄暗い中での帰還は、ほんの少しだけ感慨深いものがあった。


  協力して大成功を収めた文化祭の後夜祭の様な気持ちだ。

  なんだかんだで長い一ヶ月の終幕な訳だし。俺だって感動しても良いであろう。


  そんな気分に浸っているのも束の間、学校の校門を潜り抜けた瞬間、待ち侘びていたのか全校生徒による祝福の歓声が沸いたのである。


「よく帰って来られました! 」

「我が校の誇り『特級クラス』の皆様、本当にお疲れ様でした! 」

  
  割れんばかりの声に対して、俺と美優紀は戸惑った。

「なんだ、これは......」


  呆然とした顔で俺がそう呟くと、フィールズは表情を変えぬまま説明を始める。

「そういえば言っていなかったな。実は毎年特別授業から帰還する時は、この様に全生徒によって迎え入れられるのが通例なのだよ。過酷な演習が故、命を落とす生徒も多いのでな。これから全体で祝福の意を込めたパーティーが開催されるのだ」

  それを聞くと、俺は少しだけ納得をした。

 
  まあ、早朝からパーティーっていうのは少しだけおかしいが......。


  どちらにせよやはり、魔獣ひしめく森での特別授業は、それだけ危険なものなのだなと。

  しかも、今回は最悪のゲストである魔王軍大幹部オグネス様までお越しだったから、余計辛かったのだが......。


  まあ色々考えたところで、今気分が良いのは事実だ。


  これまでずっと生徒達から冷遇されていた分、ひとしお喜びを強く感じる。


  やっと認められた気がして......。


  そんな事を思っていると、俺達を余程待ち侘びていたのか、ニルンヴァースとペニャが俺の元へやってきて、こう言ったのである。

「長い時間の演習、大変お疲れ様でした。食事の用意は出来ております。ご堪能ください」

  彼女はニコッと笑いながらそう促すと、俺達は後をついて行った。


  鬱陶しさを感じる夏の暑さを吹き飛ばすように早朝の学校にて、これから宴が始まるのであった。

「ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く