ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第29話 やっとゴールだ!


ーーーーーー

「まあ何にせよ、無事で良かったよ......」

  そう呟いて眼鏡をずらしたのは、フィールズであった。

  俺は、先程起きた出来事を事細かに話した。
  

  美優紀が起こした奇跡とも取れる瞬間を......。


  正直、これまでは彼女は只のお人好しな美少女で、特に能力など持ち合わせていない悪く言うと『ポンコツ』であるのではないかと勘違いしていた。


  だが、目の前で全員を一瞬にして復活させてしまった事などを考えると、それが彼女に備わったスキルなのではないのかと理解する。


「つまり、『完全治癒のスキル』で間違いないじゃろ。ホント、貴様ら何者なのじゃ......? 」

  ピピィは腕を組んで動揺しながらそう呟く。

  よく見ると、全員が驚愕の顔を見せているのであった。


    今も意識を取り戻さない彼女は、優しい表情で眠りについている。


  俺はそんな彼女に昔聞かされた童話を照らし合わせながら、ほんの少しだけ美優紀に見惚れるのであった。


「それにしても、厄介なのです。これまで魔王軍はここまで接近して来る事など無かったのですが......。何か嫌な予感がするのです」

  フリがそう呟くと、皆は深刻そうな表情を浮かべていた。


  先程の戦いで俺は思った。

  幾ら『特級クラス』のエリートとは言え、魔王軍幹部との実力差が余りにも著しいと。


  もし仮に、これから戦争に身を投じていく運命にあるとしても、生き残れる可能性の方が圧倒的に大きい。

  確かに俺は痛みを感じない。


  だが、これから先、皆を守れるかどうかには少し疑問を抱くのも事実なのである。

  それに、美優紀のスキルの底も分からない。


  俺達が魔王を倒す事など、本当に可能なのであろうか......。


  そんな風に少々の疑問を感じていると、美優紀はゆっくりと目を覚ました。

「あれ......? もう終わったの......? 」


  彼女がそう呟きながら体を起こすと、俺は込み上げる物を感じた。


  美優紀は生きてる。みんなも死んでない。


  あんな悲劇を目の当たりにした後だから、余計に......。


  俺はそう思うと、彼女を強く抱きしめたのであった。

「本当に良かった! 死んじまったかと思った! ごめんな! 」

  彼女は俺が抱きついたのに対して、顔を真っ赤にしながら動揺していた。

「ど、どうしたの?! 私は生きてるよ! 」


  美優紀から繰り出される鼓動、体温、吐息。

  俺はそれを感じ取ると、彼女が生きている事を強く理解した。


  同時に、大切な人を失いかけてしまった事に対する懺悔を繰り返した。


  これからはもう、絶対にあんな悲劇は起こさない。


  そう思っている間に、気がつけば朝焼けが俺達を照らすのであった。


ーーーーーー

  約一カ月かけて行ってきた特別授業も、終わりを迎えようとしている。


  魔王軍第幹部オグネスとの遭遇以降は、何も問題なく事は進んで行き、気がつけばゴールの神殿までもうすぐというところまで来ていたのである。


  俺は、そんな二十四時間テレビのグランドフィナーレにも似た感動に酔いしれていた。


  多くの魔獣を討伐し、毎晩の野営。あの事件以降、美優紀が料理をする事は無くなったのだが。


  少しずつ心の隙間を埋めて行った仲間達。


  俺は、そんな長いような短かった時間を思い出しながら、ちょっとだけセンチメンタルな気持ちにさせられる。


「もうすぐ目的の神殿へと到着する。南美優紀、お供えの品を用意しろ」

  フィールズがそう促すと、美優紀は鞄を開きだした。


  神殿にお供えする品とは、笹にも似たこの世界では大変珍しい植物らしい。実際にそれは猛毒で、一度口にすると数秒で死に至る危険なものでもあると。

  それを供えると共に、両手を合わせて戦争の必勝祈願を行うとの事だ。


  どんな綺麗な遺跡なのだろうか......。


  俺はにこやかな表情でそう考えていた。


  だがそんな時、美優紀の叫び声が聞こえる。

「ない! お供えものがないよ! 」

  彼女はそう叫ぶと鞄を逆さまにひっくり返した。


  日用品が多く入っている中で、その植物を見つけ出す事は出来ない。


  何故だ......?


  俺がそんな風に疑問を抱いていると、美優紀はなにかを思い出したように冷や汗をかいた。

「そうだ、あの時、料理の中に入れちゃったんだ......」

  真っ青な表情でそう呟く彼女に対して、皆は呆然とする。

「えっ......? 」

  俺は激しく動揺する。確かに、その料理を口にしてしまったから。

  それに、フィールズに至っては完食していた。なのに、生きている。何故かは分からんが。


  その事実に気がつくと、フィールズは口元を押さえて茂みの中で吐いていた。

  俺も、あの時の味を思い出して思い切り吐いた。


  美優紀は深々と頭を下げる。


「本当にごめん! あんまりにも美味しそうだったから、思わず隠し味として入れちゃったの! まさか、そんなに危険な物だって知らなくて......」


  やっぱりこの女は、ポンコツだ......。


  ゲロゲロと音を立てて吐く俺達を見たイルはニコニコとしながらこう言った。

「いやあ、良かったっすよ! 優しさみせてあの悍ましい料理を口にしないで。お供え物は無くなっちゃったっすけど、とりあえずもう神殿に到着っすね! 」

  俺は口を拭きながら彼の言葉を聞くと、再び思い出してしまったのである。


  そうだった。神殿、壊しちゃったんだよね......。


  そう思うと途端に冷や汗をかく。

  やばい、やばいぞ。
  色々ありすぎて、完全に忘れていた。

  絶対に怒るよな......。


  下手したら袋叩きだ。

  それはそれでアリだが......。


  いや、ダメだろうが!


  どうしよう、マジで。
  オチコミマスワ。


  そう思っている間にも、刻々と神殿へ続く道はひらけて行く。


ーーそして、目の前が完全に開けた時、俺は有無も言わさず土下座を決め込んだ。


「本当にごめん! 実は、ピピィと出会った時の戦闘で、神殿を壊してしまったんだ! 」


  俺が見事な土下座でそう謝罪を決め込んでいると、予想外の返事が返ってくる。

「綺麗......」

  美優紀がそう呟いたのをキッカケに、俺はゆっくりと顔を上げた。


ーーすると、俺達が破壊した筈の神殿は、全くの無傷でそこに佇んでいたのである。


  しかも、蔦が沢山茂っていた外壁は『今作りました』みたいにピカピカになっていたのだ。


  そんな神殿を前に、「? 」と、頭にクエスチョンマークが現れると、ピピィはホッと一安心した表情をしながら俺の耳元で、

「まあ何にせよ、なにも起きてなくて良かったの! 」

と、笑顔で言っていた。


  俺はそんな不思議な出来事に疑問を感じつつも、前へ進む皆の後ろをついて行くのであった。

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