ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第28話 おかしな事が起きた!

ーーーーーー

  地面にうつぶせの状態で倒れ、ピクリとも動かない美優紀を見ると俺は慌てて彼女の元へ駆け寄ろうとした。

「おい、嘘だろ......? 」

  そんな一言は無残にも更地と化した木々の残骸と共に焦げ付いて行く。


  今、目の前では『特級クラス』とオグネスが戦闘を行なっている。


  だが、実力の差は著しく、どう考えても彼らが劣勢である事はすぐに分かる。

  オグネスから放たれる無数の闇ビームを何とか避けながら必死に攻撃の機会を伺っている。


  そんな中、彼らの背後ではピピィが必死に美優紀へ声を掛けている。

「美優紀! 嘘であろう! 貴様、約束したじゃろ! あたしを一人にしないって......」

  半ベソ状態でそう叫びを上げるピピィとは裏腹に、彼女は一切反応を示す事は無かった。


  なんで、こんな事になってしまったんだ......。


  フィールズ達も戦闘の中で次第に動きが遅くなっている。
  オグネスはそんな彼らをジワジワと攻め立て続けて、気がつけば彼女の攻撃は腕や足などを捉えていた。

  それによって、『特級クラス』の皆はどんどんと弱っていく。


  オグネスは、その様子をみてヘラヘラとしていた。


  ワザとやっているんだ......。


  俺は、彼女が殺しを楽しんで敢えて急所を外してジワジワと殺そうと画策している事に気がつくと、本当の意味で魔王軍の恐ろしさを痛感したのであった。


  以前、ペニャが言っていた通り、彼女は殺しを楽しんでいるのである。


  そんな彼女の振る舞いに苛立ちを覚えた俺は、慌てて『特級クラス』の皆を助けようと走り出した。

「お前の相手は、この俺だ! 」

  オグネスは俺の行動を見ると、「面倒な奴だ......」と呟いた後で、ゆっくりと右手を広げて伸ばした。

「もう少しだけ遊びたかったが、これ以上時間は掛けられないな......」

  彼女はそう言うと、掌から真っ黒な紐のような物体を九本作り上げた。


  同時に紐は、倒れる美優紀を除いたその場にいる全員の胸に繋がる。


  そして、彼女はそれが完了したのを確認すると、こう宣言したのである。

「遊びは終わりだ。死ぬがよい」


  オグネスはニヤッとしながらそう呟くと、勢い良く拳を握りしめた。


  すると、一瞬だけ胸を撫でられる様な感覚に襲われた。


  ふと周囲を眺めると、フィールズ達は悲痛の叫びをあげながら息を荒げて胸を押さえて苦しみ出す。

  それから、大量の血を吐き出しながらバタバタと倒れていった。

  ピピィも同様に、美優紀の体におぶさる様にして......。


  彼女はそれが済むと、一つため息をついた。

「とりあえずこれで、任務は完了したな」


  そんな一言で、俺はオグネスのやった事の意味を理解した。


  彼女は、魔法によって直接みんなの心臓を握り潰したのである......。


  象徴する様に、皆は美優紀同様、ピクリとも動かない。
  つまり、俺を除いた『特級クラス』の全員は、オグネスの攻撃によって絶命してしまったのだった。


  俺はその事実に震える。悲しみ、衝撃、怒り、怒り、怒り。
  そんな感情が足の指先からこみ上げる。


  昨日までの賑やかだった時間を思い出しながら......。


「ふざけんな......。こんな事って......」

  俺が俯きながらそう呟くと、オグネスは再びニヤッと不敵な笑みを浮かべる。

「やっぱり、貴様は『無痛のスキル』持ちで厄介だな......。まあ、とりあえず任務も完了した事だし、戦闘が長引く前に私は帰るとしよう」


  彼女はそんな事を口にすると、背中に生えた翼をバサバサと動かし始める。


  逃げようとする彼女に対して、俺は「うおー!!!! 」と叫び声を上げながら拳を握りしめ、駆け寄って行った。


  怨念にも似た感情を携えながら。


  だが、それも束の間、オグネスは悠然と宙へと羽ばたくと、そのまま消えて行ったのである。


「ふざけんなー!!!! 」

  俺が狂ったようにそう叫ぶと、オグネスはニヤッと怪しい口元を見せた後ですっかりと姿を消したのであった。


  同時に、焦土と化した森には、静寂が訪れる。


ーー先程までの雰囲気とは打って変わって悲劇と化したその場所にたった一人取り残されてしまった事により、風の音だけが辺り一帯を支配していくのであった......。


ーーーーーー

  さっきまでの出来事が全て嘘であったと錯覚してしまいそうな静寂に取り残された俺は、嗚咽を漏らし泣き叫んでいた。


ーー助ける事が出来なかった自分に後悔と懺悔を繰り返しているのである。


  フィールズ、メルン、クリス、フリとフラ、スミナフ、イル、ピピィ、そして美優紀......。

  一心不乱に喉が切れるほど声を掛けても、叩いても殴っても、彼らが俺の呼びかけに応える事は無かった。


  震える手で美優紀とピピィを抱きしめる。

  少しずつ体温が低くなっていく彼女らを。

  そんな変化によって、俺は更に現実を受け入れざるを得ない状況から、深い悲しみの底に落とされていった。

「美優紀、ピピィ......。本当にごめんな......」

  彼女達に寄り添う様にして俺は何度も何度も謝り続けた。


  もう二度と戻ってこない大切なものを守れなかった自分に対する焦燥感に苛まれながら......。


  なんで、俺だけ生き残ってしまったんだ。
  なんで、俺はこんなに弱いんだ。
  
  大切なものを守る事すら出来ないなんて......。


  まるでこの世にたった一人だけ取り残されてしまったかの様に哀しみに暮れている。


  生きている意味すら分からなくなって。


  いっその事、この場所で死にたい。そんな感情すら抱いて......。


ーーだが、そんな時だった。


  真っ暗になった空の下で突然、目を覆いたくなるほどの真っ白な光が俺達を包み込んでいくのである。

  何が起きたのかも分からずに、俺は動揺する。


  そんな中、ふと美優紀の方に視線を移すと、彼女はゆっくりと起き上がって神聖な眼差しをしていたのである。

「あれ......? お前、死んだんじゃ......」

  狐につままれた様な顔で俺がそう彼女に問い掛けると、美優紀は何も言葉を発する事なく命を落とした『特級クラス』やピピィにゆっくりと手をかざした。

  すると、彼らの体を柔らかい光が包み込む。


  そして、彼女は全てを終えると、小さく微笑んで、

「これで、もう大丈夫......」

と、優しい口調で言うと、再び「ドサッ」とその場に倒れ込んだのである。


  何が起きたんだ......?


  俺がそう思って呆然としているのも束の間、気がつけば何事も無かったかの様に皆が目を覚ました。

「あれ......? おかしいな......」

  フィールズは全身をさすりながらそんな事を呟く。

「何故、無傷なのです? 」

「フラ達は、オグネスによって殺されたはずだし......」


  周囲の騒めきの中で、俺は只、立ち尽くしていた。

「ねえ、幹雄。これは一体、どう言う事なのじゃ......? 」

  ピピィは俺の服を掴みながらそんな事を口にした。


  俺は、その時やっと正気を取り戻し、同時にある事に気がついたのである。


  今この瞬間、美優紀に隠された本当の能力が開花したのを目の当たりにしたのだから......。

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