ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第27話 勘弁してくれよ!

ーーーーーー


  ハァハァ......。たまらねぇ......。


  俺は一切の視界が奪われた闇の中で、全身を拘束されている。

  しかも、結界とも似た俺を包み込んでいる魔法の中では、サッカーボール大の闇の球が無数に反射し続けていて、体を何度も殴打しているのが分かる。


  それがまた、ニキビを潰した位の微弱な痛みを感じるのである。
  きっと、普通の人がこの攻撃を受けたら、バラバラになって死んでしまうであろう。


  魔王軍の大幹部による全力の攻撃なのだから......。


  多分、この四肢を縛り付けるこの魔法だって、少し全身に力を込めれば、簡単に解除できるだろう。それに、この闇の結界からだって、簡単に抜け出せる。それだけの実力差があるのだ。


  でも、そんなの関係ない! もっと堪能したい!


  今、この拘束目隠しプレイを心の底から愉しんでいる俺が、最高に輝きを放っているこの俺が、最高のシチュエーションを放棄するなど考えられないのである。

  むしろ、ずっとこのまま時が止まればいいんだ。邪魔者もいない、一対一のハードコアプレイ。異世界に来て良かったよ、本当に。


  やべえ、ちょっと痛い......。なんと言う辱め......。膨張が治らない。


  俺はそう思うと、思わず声を上げてしまう。

「エクセレント......。最高だぜ......」

  それを聞いたオグネスは、動揺する。

「何故、貴様はそんなにニヤニヤとしておる。挙げ句の果てに、余裕の発言をするなんて......」

  彼女はその衝撃に、多少戦意が削がれてきているのが感じ取れた。


  やばい。思わず声を漏らしてしまった......。

  オグネスお姉様は困惑している。
  俺の言葉を聞いて明らかに焦っている。何故攻撃が効かないのか、疑問を抱いている。


  これは、非常にまずいぞ。
  下手したら、このまま逃げてしまうかもしれない。強制シャットダウンだけは困るぞ。確かにそこまで痛くないのは事実だが、世界観に酔いしれ過ぎてしまった。自然に口元が綻んでしまった......。悪い癖である。


  そう思うと、途端に青ざめる。まだまだ続けて欲しいから。


  ここらで一度、立て直せねば......。


  俺はそう思うと、無理やりに阿鼻叫喚を上げて、大根芝居を始めた。

「やめてくれー! このままでは死んでしまうー! まだ死にたくないよ〜! 」


  若干棒読みになってしまったが、オスカーもびっくりな演技ではなかろうか。
 
  俺はそう思うと、何も見えないその場所で相手の様子を何となく伺った。
  どうだ、俺は死にそうなんだぞ。


  すると、なんとなくではあるが、相手の殺意が再燃しだした気がする。

「やはり、私の必殺技が聞かぬはずなどないのだな! それならば、ゆっくりジワジワと殺してやろうではないか......」

  オグネスのそんな発言を聞いて、俺はホッと一安心する。


  危なかった......。勘弁してくれよ、マジで。心臓に悪いからな。


  俺はそう思うと、四肢を拘束するその闇の縄の力が少し強まった事を確認する。


  次はどんな辱めを与えてくれるんだ......?


  俺が暗闇の中で興奮しながらそう思うと、期待と股間を膨らませる。


ーーだが、そんな時、『ドオーン!!!! 』という爆音が周囲に響き渡った。


  同時に、俺の視界は明るくなる。四肢の自由も戻ってしまった。

  そんな突然の出来事に慌てて視線をずらすと、そこには『特級クラス』の皆がオグネスを睨みつけながら臨戦態勢を取っていた。

「俺達の仲間を返してもらおうか! 」

  フィールズは勇敢な顔つきでそう怒りを口にする。


  つまり、彼らは俺を助けに来たのである。


  あいつ、俺が足止めしたにも関わらず、勇敢にも戻って来やがったんだな。
  くそ、なんで邪魔するんだよ。これからがショウの本番なんだよ。勘弁してくれよ......。


  俺はそんな男気を見せる皆に憤りを感じた。


  本当に勘弁して欲しいものだ。
 
  だからこそ、もう一度彼らに逃げて貰うためにも、俺はこう叫んだのである。

「近づくな! あいつは危険だ! 死ぬぞ! 」

  俺がそう促したのも束の間、オグネスはニヤッと笑う。

「せっかくコイツが命を張って貴様らを逃したというのに、戻って来るとはあまりにも浅はかだな......」

  彼女はそう呟くと、完全に標的を『特級クラス』に移してしまった。


  完全に放置された俺は、悔しさから泣きそうになる。


  それから彼女は人差し指を立ててそのまま闇のビームを放った。


  そのビームは一直線に彼らに迫る。身動きを取る隙も与えずに。


  そして、闇が捉えた的を見た時、俺は興奮を忘れて青ざめた。


  何故ならば、それをまともに食らったのは、紛れもなく美優紀だったからである。

  闇のビームが彼女の胸元を貫通すると、ポタポタと血が地面に落ちた。


ーードサッ。


  気がつけば美優紀はその場に倒れ込んでしまったのである。


  何も言葉を発する事なく......。


「えっ......? 」

  俺は呆然としながら地面に横たわって動かない彼女を見つめていた。


  オグネスはそれを確認すると、ニヤッと笑う。

「なんだ、貴様らは思いの外弱いな。あの程度の攻撃で命を落とすなんて......」


  彼女の発言で、俺は理解してしまった。


  今、この瞬間、美優紀は死んでしまった事を......。
  

「ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く