ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第26話 日頃の行いの賜物だ!

ーーーーーー

  俺にとって、『ご褒美タイム』とも取れる時間がやって来た。

  けしからんプロポーションの魔王軍大幹部『叱責』のオグネスお姉様による、棚からぼた餅な超展開。


  彼女は、眉間にシワを寄せながら鞭をバシバシと手元で叩いている。軽蔑にも似た眼差しで。


  まさに、激怒。


  目的を逃し、挙句の果てにその当事者によって宣戦布告をされた事が、余程気に触ったのであろう。
 
  今すぐにでも俺を殺したいといった表情を浮かべ、怨念にも似た感情がこちらにも強く伝わってくる。


  さてさて、それでは俺も手綱を取るとするか。

  これまでの経験を基に、丁寧なレース展開をせねば、G1ジョッキーにはなれないからな。
  それに、馬と騎手との信頼関係は、とても重要だ。

  常にツーカーでなければならない。

  『今、こうして欲しい』とか『ここで勝負をしたい』など、些細な変化にも対応しなければならないのだ。

  つまり、俺が見るべきは、彼女の殺意、悪意である。

  簡単に拍子抜けされてしまっては、すぐに褒美は逃げて行く。
  今が怒りのボルテージの最高潮であっては、冷めていくだけなのだから。

  
  車だとしたら、今が二速だと理想的だ。
  これからすぐに煽り、適度に攻撃をさせ、加えて更に煽り、時には歯を食いしばりながら彼女にダメージを与える。

  そうする事で速度は上がって行き、気がつけばトップギアに移っていくのだ。


  どちらにせよ、千載一遇のチャンスが到来したとなれば、俺は逃さぬ様に踏み出さねば。


  今を逃して、いつ走るのだ!


  俺はそう心に刻むと早速、こんな事を口にしたのだ。

「魔王軍の幹部なんてデッカい肩書きを持っていても簡単に目的を逃すなんて、お前は案外マヌケなんだな」


  ヘラヘラと馬鹿にした様な口調で放った俺の言葉を聞くと、オグネスのこめかみ付近からは、血管が浮き出ていた。

「貴様、言ってくれるな......。人間風情のゴミ屑がこの大幹部である私に楯突くなんて、身の程知らずにも程があるな。ゴミ屑はゴミ屑なりに床に頭でも突いて死を待ち侘びれば良いものを......」


  俺っち今、あんな短い台詞の中で『ゴミ屑』って三回も言われやしたよ!
  やばい、女性の低いトーンによる罵声って、ホントステキ! あの靴舐めてぇ。


  よしよし、この調子だぞ......。


「身の程知らずはどっちかな。俺はお前の攻撃を受けても、こうして無傷で立っているんだぞ」

  まあ少し勃ってるし、ダブルミーニングだな。

「あの程度で本気を出しているとでも思っていた? ハハハ! このゴミ屑はとんだお花畑だ」

  はい、オグネス様による四回目のゴミ屑、入りましたー! その単語、レコーダーに録音してずっと流していたいっす!

「強がっても無駄だよ。お前は余程力を過信しているみたいだな」

  その秘めたる力、私めに遺憾無く発揮してくだせえ、旦那ァ!

「ハエ以下の蛆虫が良く喚くもんだ。私は今、貴様をこの世で一番残酷な殺し方で眠らせる事を決意したよ......」

  ゴミ屑から蛆虫にレベルアーップ! 幹雄氏は、『ハエ以下』の称号を手に入れました!

「じゃあ、来いよ......」

  俺はポケットのベルトのバックル付近に可愛いレオンをさり気なく忍ばせると、人差し指をクイクイとさせた。


  舐め腐った態度を取った俺に対してオグネスは、全身に溢れんばかりの闇を纏って、目にも止まらぬ速さで俺の背後へ回り込んで来たのである。


  背後から感じる異様なまでの怨讐。

  同時に鼻を刺激する薔薇の香り。背中に感じる豊満な胸の感触。

「これで、貴様の人生は終わりだ......」

  吐息がかかる耳元で聞こえた彼女の声を聞くと、半端ないほどに恍惚の表情を浮かべた。た、たまらん......。


  同時に彼女は首元を鞭で締め付ける。
 
  彼女の纏う闇にも作用があるのか、全身は炭酸泉に入っているくらいのピリピリを感じる。


  首からは、マフラーを巻いた程度の圧しか感じられない。


  でも、十分だ。

  呼吸がほんの少しだけ息苦しいし、ドSな女性に耳元で吐息をかけられながらの窒息プレイ。


  いやあ、ビバラビダ。人生、万歳。


  このまま時が止まってしまえば良いのに。こんな最高のシチュエーションに巡り会わせてもらえるなんて、俺の日頃の行いが良いとしか言えない。
 
  勤勉に、ガムシャラに勤しんだドM道。
  青春さえも捨てて、真摯な気持ちでSMに向き合った約六年。

  その努力が昇華した瞬間こそ、まさに今。

  口元から溢れ出る涎さえも愛おしい。レオンは喜びから『がおー! がおー! 』と雄叫びを上げている。

  うん、やっと出会えた運命の時。

  それをこの手に掴んだ感動。涙が止まらない。嬉しい、楽しい、大好き。

  
  そんな風に感動に酔いしれながら首を締め付けられる俺を気にもせずに、オグネスは再び耳元でこう呟く。

「私に楯突いてしまった事を後悔しても無駄よ。貴様ごときに本気を出すなんて、余りにも馬鹿馬鹿しいわ......」

  彼女の言葉に対して、俺は全身を震わせる。


  後悔......?
  いや、この場合は満足の間違いだろ。


  絞め殺される事はまず無さそうだが、もしかしたらテクノブレイクすら考えられます。
  このまま死んでも良いんだがな。


  でも、やはり人間は欲深い生き物である。

  つまり、もっと強い刺激が欲しい。


  どうせなら、彼女の本気の攻撃も受けてみたい。
  それはきっと、夢の国にも匹敵する程の多幸感を感じられるであろう。


  こんな悪魔の様な女性だ。

  絶対にアブノーマルな殺し方をしようとするに違いない。

  魔法で虫の息にした後に四肢の自由を奪って殴打とかかなぁ。

  それはそれで有りかもしれない。見せしめ的なアレかな?
  うん、この変態さんが☆


  そう考えると、俺は更に煽る事を決意してオグネスの腕を振り払うと、すぐに間を置いた。

「バカ言っちゃいけないよ。この程度の攻撃で俺を殺せると思うなんて、お花畑にも程があるんじゃないか? 」

  俺は、微かに残る首元の感触を脳内インプットすると、わざとらしくため息をついてそう相手を誘い込んだ。


  すると、オグネスは一瞬だけ狐につままれた様な表情を見せた後で、怒りに震えていた。

「貴様......。ならば見せてやろうか。私の本気ってやつを......」


  彼女がそう宣言をすると、半径百メートル程の木々は、地鳴りと共に倒壊していった。

  同時に、地肌を露わにした大地を紫がかった闇が征服して行く。


  俺はその闇の中に飲み込まれ、視界を完全に失ったのである。


  多分、先程までの攻撃とは、打って変わり彼女から垣間見える『本気』が強く伝わって来たのである。


  うん、今度は目隠しプレイなんて、アンタは最高にいなせだな......。


  俺はそう思うと、その場に座り込んで彼女の攻撃をゆっくりと待つのであった。
  

  

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