ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第24話 惚れてなんかねぇし!


ーーーーーー

「まだ、気持ち悪いな......」

  俺はここ数日、体調が優れない。
  
  何故、体調がそれだけおかしいかは言わずもがな、理由がはっきりしている。


  それは、美優紀の殺人的な鍋のお陰だ。


  あの後、薄れて行く意識の中で、彼女とフィールズが完食している所を見た。
  二人とも、それはそれは美味しそうにその『殺人鍋』を口に運んでいたのである。その姿を見て、俺はもう一度吐いた。


 欲求に負けて、あんなものを食べてしまったせいで、俺はこれだけ苦しんでいるというのに......。


  そんな風に腹を抑えて青ざめた表情を浮かべていると、フリとフラの二人は真横にいる美優紀の事なんか気にせずに俺の方へ振り返ると、

「やっぱり、ツレのお前もバカなのですね。匂いからして、絶対に食べちゃいけない代物なのは分かったはずなのですか! 」

「その通りだし! いくら南美優紀にいい顔見せたいとか考えていたにしても、あれに手を付けるとか自殺レベルだし! 」

  フラがそう口にすると、美優紀は何故か顔を赤らめていた。

「ふ、フラったら、何を言っているの?! 幹雄が私に超絶カッコいい姿を見せたがっているなんて......。そんなの、絶対にあり得ないから! 」

  美優紀が大袈裟にフラの発言に脳内補正してそう恥ずかしがっているのを見て、俺は更に気が滅入った。


  いや、そこかよと。
  作った料理けなされたのは良いのかよ。

  あの場面では、別に、カッコつけて無理やり食べた訳ではないしな。

  むしろ、誰も手を付けなくて悲しむ彼女が可哀想だったからってだけだし。

  まあ、最終的には俺の性癖のせいなのだが。


  あんな仕打ちを受けておいて、まるで俺が美優紀に惚れているみたいな展開になっているのは、なかなか納得がいかない。

  だって死にかけたし、俺。


  『無痛のスキル』とかいう未完成な能力すらをも軽く凌駕してたし。もろダメージ受けたからな。

  もしかしたら、この世界で一番の天敵って、彼女の作った鍋なのかもしれないな......。


  俺はそう思うと、大きくため息をつくのであった。


  だが、そんなどうでも良い考えよりも気になる事がある。

  美優紀が茶化されて恥ずかしがれば恥ずかしがる程に、先頭のフィールズはチラチラと不安そうな目で彼女を見ているのだ。


  しかも、頬はほんの少しだけ赤くなっている気がする。

  そんな普段見せなかった彼の表情から、俺は確信した。


  あいつ、美優紀に胃袋を掴まれたな。

  絶対に惚れてるやん。

  なんか、あの日以来、彼女の事を何度もチラ見しているし。

  確かに、美優紀は可愛いし優しいし、表裏が一切ないからモテるのは分かるが、落ちるの早すぎだろ、お前。童貞かよ。

  しかも、あの言葉通りの便所飯がキッカケとか......。


  俺はそんな風に冷静な視線で彼を見つめていた。頼れるリーダーの弱点を知った様な気がして。

  それに、何となく親近感を感じる。

  やっぱり、普段からポーカーフェイスな彼も、俺達と同じ少年なんだなと。


  まあ、それならば少しくらい恋路のサポートしてやるのも悪くないかな。


  俺がふと、そんな事を画策しながら巨大なムカデの魔物を殴り飛ばすと、ピピィはニヤニヤしながら小声でこんな事を囁いた。

「美優紀を取られない様に気をつけるのじゃ。まあ、最悪あたしが幹雄の奥さんになってあげても良いのじゃが......」

  ダボダボの制服を着て少し照れながらそんな事を口にする彼女の発言に対して、俺は苦笑を浮かべる。


  俺は、断固としてお前の様な幼女を嫁にもらう事など有り得ないわ。
  犯罪者になどなりたくないしだな。
  
  それに、何度も言うけど俺は美優紀に惚れてなど一切ないからな。
  甘酸っぱい青春なんて、求めておらんわ。

  南青山とかにありそうなお洒落なスイーツで「あーん」とかしたくないし。イルミネーションや花火にも興味がない。二人で仲良く登校とか、たまに黒板に目をやると相合傘に『佐藤幹雄 南美優紀』なんてクラスメイトに書かれて茶化されたくもない。二人で授業をサボって土手で何も喋らずにゆっくりと時が過ぎるなんてのも、退屈だ。


  つまり、俺にとって美優紀は恋愛対象外なのである。

  あまりエキゾチックな出来事もなさそうだし、彼女にベネチアの仮面は似合わない。ボンテージも同様だ。


  でも、なんでだろう。

  
  いざ、美優紀がフィールズと仲睦まじく歩く姿を想像すると、やけに胸が騒めく。
 

  でもきっと、その感情は可愛がっている妹が嫁入りする時に感じる寂しさと同じなのであろうな。三ヶ月もの期間、同じ部屋で寝泊まりしていれば、情が湧くのも当然の話であってだ。


  そう考えているうちに、俺はほんの少しだけ息苦しさを感じつつ、優しい笑顔を見せる美優紀を見つめたのであった。


ーーしかし、そんな時だった。


「ドカーン!!!! 」


  森の前方の方から、聞いたことのない程の爆発音が聞こえたのである。

  それと同時に、周囲には緊張感が走る。


  約五十メートル先からは、煙が上がっている。
  だが、鬱蒼と生い茂る植物のせいで、その正体はよく見えなかった。

「全員、構えろ! 」

  先程までの青春丸出しな表情とは打って変わったフィールズは、背中から剣を取り出すと、俺達にそう指示を出した。


  突然の出来事に緊迫した周囲とは裏腹に、その正体不明の物体は余裕とでも言わんばかりにガサガサと物音を立てながらゆっくりこちらに近づいてきているのが分かった。

 
  一体、なんなんだ......?


  俺がそんな風に少しの恐怖を覚えた時、それは姿を現した。


  えっ......?


  驚きと共にその人型の影に目をやると、背中に黒い羽根が生え、ピピィと同様の形をしたツノを拵えた、まさに『魔族』を具現化した一人の女が悠然とこちらに不敵な笑みを浮かべていたのだ。


  こんな状況で言うのもアレだが、めちゃくちゃスタイルが良くて、ヤケにセクシーな格好をしている。
  しかも、めちゃくちゃドSっぽいオーラが漂っている。


  その女は、こちらを見るとニヤニヤとしながら手に持ったナイフを舐めてこんな事を口にしたのである。

「やっと見つけたよ、エリート君達」

  彼女がそう呟くと、フィールズは全身に真っ青なオーラを纏いながら思い切り睨みつけてこう言ったのであった。

「何故、こんな辺境の地にいるんだ......? 魔王軍大幹部『叱責』のオグネスよ......」


  魔王軍の大幹部だと......?


  俺はそんな突然現れた強者を見ると、動揺が隠せなくなるのであった。

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