ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第22話 トラのバカヤロウ!


ーーーーーー

  
  やべぇ、変な汗が止まらねえ......。


  俺は、目の前に広がる大森林を進む上で、同じクラスで青髪でメガネの優等生、フィールズという青年が、グリミナンテ直々にリーダーを任された。
  グリミナンテが彼の名を呼んだ事で、初めて俺は彼の名が『フィールズ』と知った訳で。


  三ヶ月も同じクラスにいたにも関わらず......。
  
  ほぼ当てる事なく淡々と進む授業のお陰で、俺は彼らの素性を一切知らなかったのである。


  そんな抜擢を受けたフィールズは、事前の会議でリーダーシップを発揮して、十人いるクラスメイトのフォーメーションを手際良く決めていった。

  去年もこのクラスだった七名は、半年間の戦闘経験があり、その中で、なんだかんだ彼の的確な指示に絶大なる信頼をしている様子が伺えた。

  まあ、どちらにせよ、みんなポーカーフェイスでつまらないのは変わらないんだが。


  そんな風にスムーズな打ち合わせで決まったフォーメーションがこうだ。

  前衛、つまり、先頭を歩いて魔物の退治に備える三名は、リーダーのフィールズ、それに、茶髪で百七十センチ程ある高身長の女。メルン、後は、短髪で如何にも生意気そうと言った表情の男、クリスである。


  続いて、彼らのすぐ背後で神殿にお供えする品を守る護衛には、フリとフラという金髪の双子に、頭からつま先まで筋肉で出来ているのでは、と疑ってしまうほどに体格の良い、スミナフである。

  そんな三人の間で囲まれる様にしてお供えの品を手に持つのが、まだ何も開花していない為に戦闘不能な美優紀であった。

  一方の、後衛は、防御と攻撃の比率を考えて『無痛のスキル』持ちである俺と闇の魔法を自在に操るピピィ、それに、美少年とも形容できる顔つきのイルが抜擢されていたのだ。


  そんなフォーメーション中で後衛を任された俺は、森に入ると一番背後で相変わらず無愛想な彼の指示に従って俯きながら冷や汗をかいて考え込むのであった。


  どのタイミングで話せば自然だろうか......。


  グリミナンテも、俺達だけで森の演習をしろとか言って、校舎に戻っちゃったし。
  出発前に相談しておけばよかった......。

  
  それに、流石に一ヶ月の時間を要して辿り着いたその場所に目標の物が綺麗さっぱり無くなっていたとしたら、みんな呆然とするだろうな......。

  下手したら、俺が全員から袋叩きを受けるかもしれないし。
  男混ざってる時点で、全然全く嬉しくないし。

  しかも、こいつらかなり強そうだからなぁ。半年間、兵士として働いて、無事に帰ってきている時点で、間違いなく強いだろう。

  ピピィの奴は、都合良く耳を塞いでたし。
  なんか、「あたしは悪くありません」みたいな顔しやがったな。

  それに、この場合、保護者責任は俺にある訳で、彼女を悪人に仕立てるのは、あまりにも可哀想だよな。どちらにせよ、後でお灸を据えなければ。


  いや、待てよ......?


  それなら、黙ってれば良いんじゃないか?

「行ってみたら、神殿が完全に無くなってました! 誰が何の為に......」とか、適当に演技すれば、バレないだろ。

  むしろ、こいつらは俺がこの森の中に落ちた事なんか知らない訳で。言わぬが仏。それが、間違いないっしょ。

  だったら、それが一番良いじゃないか。


  って待てよ!


  それじゃ、俺、めちゃくちゃ悪者じゃねえか!
  流石に隠すなんて選択肢は選べない! 良心が痛むわ! 
  だって、あの学校の生徒達にとっては、物凄く大事な神殿な訳だし。戦いの神とかそんな名称つけてそうだし。
  
 
  ならば、傷が浅い内に打ち明けてしまった方が......。


  俺はそう決心すると、思い切り息を吸い込んだ後で、「あのさ......」と皆に言いかけた。


  だが、そんな時、俺と共に後衛を任されていたイルが、

「佐藤幹雄、危ないぞ! 」

と、大声で怒鳴ったのである。


  そんな彼の叫び声を聞くと、俺は慌てて正気を取り戻した。


  すると、二頭のトラが、俺を噛み砕こうと両腕にしがみついて鋭い眼光を光らせていたのである。

  まあ、相変わらず全く痛くないからこそ、奴らの攻撃に気がつかなかったのだが......。

  俺はそんなトラの攻撃によって、何も言えなかった事に怒りを感じ、当てつけの様に怨念を滲ませて、思い切り殴りつけてすっ飛ばした。


  それと共に、一安心したメンバーは胸をなで下ろす。


  だが、考え込み過ぎて何も気がつかなかった俺に、フィールズはこう注意をしたのである。

「ぼーっとしてるな! ここが危険な地である事は、分かっているだろう! もっと気を引き締めろ! 」


  俺はそんな風に怒る彼に、「すみません......」と、力なく謝罪した。


  また、機会を失ってしまった。


  打ち明ける絶好のタイミングだったのに。


  トラのバカヤロウ......。
  お前さえいなかったら、気が楽になれたのに......。

  俺はそう思うと、再び俯きながら、彼らの後ろをついて行くのであった。
  
  

「ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く