ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第21話 あの事は言い出せない!



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  美優紀、ピピィとの約束以来、俺達の間で生じたギクシャクな関係は、見事に消え去った。

  むしろ、以前よりも会話は増え、夜になるとピピィのレクチャーでその日の講義の復習をするなど、『特級クラス』に籍を置く事に対して、前向きに捉えていた。


  まあ、どんなに努力したところで、俺と美優紀がこの世界の勉学を理解する事は、永遠にないと思ったのではあるが......。

  毎晩、美優紀の頭からは煙が吹き出していた。


  そんな調子で、あれから三か月の時が過ぎ去り、気がつけば半袖のシャツを着る季節に移り変わっていた。


  この世界にも四季があり、しかも、気候は日本と合致していたので、特に問題なく順応する事が出来た。


  今は、元の世界で言うところの、初夏である。
  俺が初めて『ドM』であると自覚した記念すべき季節なのである。

  
  それだけの期間が経過したにも関わらず、相変わらず、クラスメイトとは一切会話する事は無かった。
  しかし、真剣に勉学と向き合う彼らの姿勢に感心しつつ、そんな空間が日常に溶け込むと、案外落ち着くといったところである。

  ペニャやニルンヴァースとの関係も良好を保てていた。

  むしろ、異世界人と知っているからこそ、献身的にこの世界の基本的な儀礼やしきたりについて教えてくれるのである。


  彼女の説明の中で一番興味深かった事柄は、この世界には、階級があるという事だ。

  奴隷制度自体はないものの、土地を支配する貴族と市民は、完全なる主従関係で成り立っていて、その頂点に立つのが王。

  つまり、完全な身分制度がそこにはあったのである。


  ほぼ全ての国家が元の世界で言う所の国連の様な組織に属し、協議の上でその制度を推奨していると言う。

  まあ、俺は彼女達からその話を聞いた時、少しだけ残念な気持ちになったのだが。

  なんだ、奴隷制度無いのかよ。

  もしこの戦争が終わった時、兵士から奴隷に転職をして、快適な老後を過ごそうなんて思ってたのに......。
 
  冬の時期は、豊臣秀吉と同様に、パーティーの為に設えた靴を胸元で温める。
  だが、高飛車な貴族は身分の差から、その行為自体に腹を立てるであろう。
  するとその貴族は、『貴様の様な、人以下の者が私の靴に触るなど、以ての外だ! 』とか、怒鳴りつけながらその靴で何度も俺の頭を殴りつける。

  すっかり血まみれになった俺は、雪降る庭で裸にされた挙句、『お仕置き』といわれ、全身の自由を奪われながら野ざらしでご主人様が帰宅するまでの数時間を凍えながら待たされるのだ。

  良かれと思ってやった事に対して、怒りを買うその理不尽さはたまらない。

  理不尽という言葉を作った人間は、天才だと思う。


  それは、まさに俺の為に用意された様な言葉だから。

  
  まあ、そんな妄想は良いとして、遂に今日を迎えてしまった。

  約三か月の座学を終えた俺達は、これから兵士として魔王軍と戦う上で必要なスキルを身につける為にも、今日から一か月、みっちりと場外演習をするのである。


  快適に眠る事の出来る布団と、温かい食事からは離れ、崖下にある森の中で魔獣を相手に野営をする。

  これが、『モールスタイン英雄学校』における『特級クラス』のカリキュラムに組み込まれていたのである。

  食事も全て現地調達であり、夜は交代で見張りをつけながら眠る。しっかりとした陣形を取って、魔獣を倒す事で、実戦慣れを促す。

  最終的には森林の奥にある、雷に打たれても、焼き討ちされてもその形を変えずに残り続けていたという言い伝えのある、伝説の神殿にお供えをしつつ、先に待つ戦争に向けての祈りを捧げ、帰途に就くという流れであるらしい。


  俺はそんな説明を聞いた時、その特別授業が如何に、過酷であるかを理解する。


  以前、この森に俺は落ちた事があるが、その時の魔獣も、かなり強いのが手にとって分かった。
  もしかしたら、そんな魔獣すらも簡単に倒してしまう危険な生物も多く蔓延っているかもしれない。


  ならば、果たして神殿に辿り着けるのであろうか......。


  ってあれ......?


  もしかして、その伝説の神殿って、ピピィが壊したアレじゃないか......?


  いや、でもあれに関しては、簡単に彼女の闇魔法でぶっ壊れた訳で。

  もし言い伝え通りであるのならば、そんなに簡単に破壊なんてされる筈がないでしょうよ。

  雷に打たれても、焼き討ちにされても残ったって言ってたし。

  じゃあ、違うでしょ。
  それに、あの時は半日くらいでその場所に着いたから、見当違いかな。

  きっと、もう一つ廃墟と化した神殿があったんだよ。
  いや、そうに違いない。


  俺はそう思うと、出発準備の為、皆に挨拶をするグリミナンテから目を逸らした。


  だが、そんな俺の期待を裏切るかの様に、彼はこう言ったのである。

「実際に神殿まで直接向かうのであれば、半日もあれば到着してしまう。よって、この広大に広がる森林の最深部まで移動する事が、まずお主達に与えるミッションとする」


  それを聞くと、俺は血の気が引いた。


  やっぱり、『モールスタイン英雄学校』の人々から崇め奉られる神殿とは、あの時、ピピィが破壊してしまったそれだったのだから......。


  やばい、これは非常に......。

  俺がそう汗だくになりながら隣にいるピピィに視線を移すと、彼女は口笛を吹きながらそっぽを向いてシラを切っていた。


  お前、どうするんだよ、この状況......。

  俺はそう思うと、打ち明けねば、と思いながらもその場で言い出せず、ちっちゃくなりながら精悍な表情をするクラスメイトの後ろをついて行くのであった。

  

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