ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第19話 理由が分かった!

ーーーーー

  俺は、自分の考えが、如何に楽観的であったかを痛感する。

  グリミナンテは、すぐにでも俺達を戦地へ送ろうとしている。

  彼の言っていた『この学校の生徒を見返す』の本当の意味とは、『戦地で成果をあげる』事だったのだから......。


  それは、この『モールスタイン英雄学校』に入学する事を決めた時点で運命付けられていた事実。
  
  世の中は、そんなに甘くなかった。


  タダで授業を受けられ、自由に眠る事の出来る部屋をもらい、食事の保証もされている。

  普通に考えれば、幾ら右も左も分からない人間を保護したとしても、たとえ、保護した者がどんなにお人好しだったとしても、無償でそこまでの手厚い処置をする訳がない。


  多少なりの対価を求めるのが当然の話である。

  つまり、俺達は衣食住を得る代わりに、魔王軍と戦わなければならないのだ。
  あまりにも大きな対価を支払わなければいけないのである。


  でも、果たして本当にそれで良いのであろうか......?


  美優紀とピピィには、戦争になど参加してもらいたくない。

  同様に、俺だって戦いなど御免だ。


  現実的に考えて、どんなに強いスキルを持っていたとしても、ほぼ戦闘経験が皆無である俺が戦地に赴いたとしても、使い物にならないに違いない。

  むしろ、速攻で殺される未来が容易に想像出来るのである。
  加えて、俺はそんな悲惨な光景に耐えられる自信などない。


  幾ら頭の中でフィクションを重ねてカッコイイなんて思っていても、それが現実となった時点で、怯えるのは当然で、恐怖以外に何の感情も湧いてこないのは、すぐに理解出来るであろう。


  決闘の際、ペニャは言っていた。

「魔族は、想像し得る残虐の限りを尽くしていた」と。


  そんな言葉を聞かされれば、恐怖に体が震えるのは当たり前の話ではなかろうか?

  ましてや、戦いなどとは無縁の、平和な国『日本』で生まれ育ったのだから......。


  俺はそう考えると、グリミナンテに向けて俯きながらこう要望を伝えた。

「やはり、俺達は戦争へ行けない......。約三日間、世話になった事には感謝しているが、ここに籍を置く事によって、どうしても戦わなければならないと言うならば、やはり学校を去ろうと思うんだ」

  そんな消えかけそうな声でそう彼の提案を打ち消すと、美優紀は小さく頷いていた。

  悲壮感丸出しで小さく震えながら......。

  ピピィも、俺の表情を見て、泣きそうな顔をしている。賢いが故、その現実をすぐに理解したかの様に......。


  そんな二人の姿から、やはり、俺達はここに居るべきではないと思った。

 
  ここにいたら、多くの悲劇とめぐり合う事になってしまうのだから......。


  俺が三日の間で離れる事を決意したのは、二度目の話である。

  彼は、もし仮に『モールスタイン英雄学校』を離れたとしたら、人間と魔族の二つの脅威に怯える事になると言っていた。

  ならば、山奥でも、砂漠の果てでも、誰も人が踏み入れない地へ向かい、そこで安住しよう。

  いっときは悲しむ事になるかもしれない。


  しかし、逃げ切れればそこには幸せが待っていると信じて。


  だが、俺がそう思いながら発した嘆願は、脆くも彼の返答により、音を立てて崩れ去ったのである。

「もう何をやっても、遅いよ。お主らが契約書にサインをした時点で......」

  彼はそう言うと、契約書を俺に向けて差し出して、言語変換魔法をかけた。

  すると、先程まで暗号にしか見えなかったその契約書は、まるで暗闇から解放されたように意味を持って俺の頭の中へ飛び込んできたのである。


  そして、俺はそこに記されていた内容に絶句する。

  まず第一条件として、『主は、本校に忠誠を誓います』と記されている。

  加えて、注意事項には『いつ如何なる理由があるとしても、この契約に背いた場合、契約書に編み込まれた神経汚染魔法により絶命する』とも......。

  要は、俺達がこの場所から逃げた時点で、契約書に従い魔法は発動する。
  つまり、その時が最期の時になると言う事なのだ。


  既に契約した時点で、この学校から逃れられない事が決まっていたからである。


  もしかしたら、俺はこの『無痛のスキル』により、一命を取り留める可能性はある。

  だが、美優紀とピピィに関しては、彼の言う通り死ぬ運命は避けられないのである。

「お前、字を読めない事を知っていて、こんな馬鹿げた物に署名をさせたのか......」


  俺が怒りに震えながら、したたかな笑みを浮かべる彼にそう呟いた。


  すると、グリミナンテは俺の想像する返答とは反して、何故か一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべた。

「本来ならば、こんな騙し討ちの様な事はしたくなかったのだが......」


  そんな不意に見せた彼の表情を見ると、俺は少しだけ捲したてる衝動を抑え、彼の言葉に耳を傾けたのである。

  彼は俺の表情を見つめると、こんな事を問いかけたのである。

「お主ら、ワシの本当の目的が何であるか......? 」

  弱音とも取れる口調で問うたその質問に対して、俺は神妙な面持ちで首を横に振る。

  先程言われたあまりにも衝撃的な契約内容から、既に脳が追いついていなかったから。

  そんな余りにも突然の問いかけに呆然とする俺の反応に、彼は大きくため息をついた。


  そして、彼は意を決したかの様に真剣な眼差しを俺達に向けると、

「ワシの夢は、人間と魔族の共存なのだよ。だが、それを武力を持って否定し続けるのは、紛れもなく、魔王軍。つまり、奴らさえ倒せばその理想は飛躍的に現実味を帯びてくるのだ」


  彼が掲げた理想は、ある程度理解出来る。

  実際に、ペニャがピピィに向けた殺意を目の当たりにした時、俺は同じ感情を抱いたから。


  たかが、種族の違いがあるだけでいがみ合うのは、余りにも歪だと思ったからである。


  しかし、疑問は残る。

  何故、俺達にそれを話す必要があるのかと......。

  ピピィは別として、俺や美優紀はどう考えてもその余りにも大き過ぎる夢を達成させる事など、不可能だからだ。


  俺のスキルにも限界がある様だし、加えて、攻撃手段は少しだけ向上した素手による直接攻撃のみだ。


  だからこそ、戦地に行ったところで、足手まといになる事は容易に想像が出来る。

   そんな風に考え込む俺を見たグリミナンテは、物事の核心を突く様にして、こう答申したのであった。

「つまり、こうなる事は最初から仕組まれていたのだよ。佐藤幹雄、それに、南美優紀。お主らはまだ、自分に備わっている巨大な力に気がついておらんのだ。ワシは知っている。何故なら、この世界へ転移させた張本人は、紛れも無く、グリミナンテ、つまり、ワシなのだから......」


  俺と美優紀は、その言葉を聞くと、絶句した。


  この世界へ転移した事は、偶然ではなかった事を告げられたから。

  目の前にいる彼によって、俺達はこんな非現実的なファンタジーな世界に飛ばされたのだ。

  それは、グリミナンテによって最初から仕組まれていた必然であったのだから。

  全ては、彼のシナリオ通りに進んでいるのだ。

  この世界に転移し、『モールスタイン英雄学校』に入学する事も全て。

  もしかしたら、ニルンヴァースやペニャと出会った事も、森の中でピピィと遭遇した事も、全て彼の陰謀通りだったのかもしれない。そんな疑惑すら待たされた。

  そう考えれば考える程に、俺は自分が世界でも稀に見る、生粋のド変態マゾヒストである事もすっかり忘れて、底の知れないグリミナンテに只、恐れを抱くばかりなのであった。
  

「ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く