ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第18話 学長にハメられた!


ーーーーーー

「やっぱり、怒られるんだろうなぁ......」

   すっかり夕方になった時間帯に、学長室の前で俺は、そうため息をついて呟いた。


   「見損なったぞ」とか、「よくも期待を裏切ってくれたな」などと、罵声でも浴びせられそうな気がする。

  今日一日のカリキュラムに関しては、ノートを取る事すら出来なかったから。
  せっかくわざわざグリミナンテが用意してくれたのに、それは全く意味を成さなかった。


   自分の馬鹿さ加減に、苦笑いを浮かべるしか出来ずに......。

  そう思って落ち込むと、美優紀は能天気な表情で俺を見つめ、こんな事を口にしたのである。

「もう今更、気にしても仕方がないじゃん。私達が人より少しだけ勉強が出来ないってだけの話だし、怒られても反省すれば良いだけだよ! 」


  美優紀は、先程の落ち込んだ様子から態度をコロッと変え、物凄くポジティブな口調で俺を励ました。

「そうじゃ! まだまだ挽回できるから、問題はないぞ! 」

  ピピィは美優紀の前向きな発言に、そう続けた。

  そんな彼女を見て、俺は素直に思った。


  いや、ちょっとだけ追いつかないんだったら、こんなに落ち込まないだろ。
  むしろ、スタートラインにすら立ってないからな、俺達。特にお前。


  心の中でそう彼女をツッコむと、とんでもないアホっぷりを見せた美優紀によって、俺の心は少しだけ落ち着きを取り戻したのである。


  何にせよ、まずは直談判しよう。

「俺達は、あんなエリートの寄せ集めみたいなところでは、とても追いつけません」と。

  もし出来るならば、恥ずかしさなど脱ぎ捨てて、まだ読み書きを習いたてである小学校低学年レベルの授業を受けさせてくれと。


  相当学問が進んでいるピピィには悪いが、そうすれば、俺と美優紀も安心出来るものだ......。

 
  俺はそんな事を思うと、深呼吸をした後で学長室に足を踏み入れたのである。


  すると、ソファに腰掛けるグリミナンテは、両肘をテーブルの上に着いて、神妙な面持ちをしている。

「まあ、座りたまえ......? 」

  彼は、今すぐにでも胸ぐらを掴むのではないかという程に低いトーンで、俺達にそう促した。


  いや、この爺さん怖すぎでしょ。

 
  絶対に怒られるじゃん。下手したら、ぶん殴られるじゃん。
  すぐ分かりますわ。怒りのオーラハンパないし。
 
  そういえば彼、『無痛のスキル』を無意味なものに出来るとか言ってたよな。

  普段は痛みには慣れてるけど、彼からの暴力は、快楽とは別物だよなぁ。
  男に殴られるのなんて、只、痛いだけだし。

  徳がなければ、苦しいだけだよ。
  気持ち良くなんて、一切ないとも。

  改めて怒られるのって、本当にやだなぁ。辛いなぁ......。

 
  てか、そもそも、何で言葉は通じるのに文字は読めないんだよ。
  どこの誰が俺達を転移させたのか知らないが、そんなの余りにも不親切じゃないか?

  ライトノベルやアニメだったら、普通に異世界では天才だったりするでしょ。

  授業初日でいきなり、誰も解けたことがない暗号とか解読しちゃったりするでしょ。
  習った事もないのに、いきなり最強レベルの魔法使えたりとかもあるじゃん。

  
  責めてもの『無痛のスキル』。
  
  でも、それだって結局、この爺さんには通用しない訳だし。


  まあ、それが未完成なお陰で、俺は美女から『痛み』を賜れると感涙した訳だが。

  それにしても、この世界に転移させた張本人、今すぐ俺のところへ来い!

  おかげさまで、俺は今から、このおっかないジジイに絞られるんだから。


  俺がそんな葛藤をしていると、グリミナンテはギロッと俺の事を睨みつけた。

「お主達......」

  彼の恫喝とも取れるトーンの声を聞くと、俺は生唾を飲み込んだ。


  嗚呼、やはり大人に怒られるって、本当に嫌だなぁ......。
  泣きそうになる......。

  
  俺がそう思って涙目になっていると、グリミナンテは予想とは裏腹に、こう言ったのである。


「グハハハ!!!! 傑作だったのお!! お主らが目が点になって授業を受けている様子!! 」


  彼はそう腹を抱えながら爆笑しているのを見ると、俺は狐につままれた様な顔をした。

「えっ......? 」

  そんな風に目をパチクリさせる俺に対して、彼はもう一度、ゲラゲラとテーブルを叩いて笑っていた。


  何これ......。


  まだ状況を把握出来ずにポカンとしている俺を見ると、彼は泣き笑いしながらこう返答した。

「実はな、本来ならば、ワシの言語変換魔法を使えば、お主らは簡単にこの世界の言語が読み書きが出来るようになったのだよ......。でも、佐藤幹雄と南美優紀は、あまり賢くなさそうだったから、どうしても様子が見たくての! 結果、面白いものを見させて貰った! あの表情は、まさにアホそのものだった! 」


  俺は、そんな風にまだ笑いに余韻を残しているグリミナンテを見ると、こう思った。


  わざと俺達のリアクションを見るために困らせてたのか。

  やべえ、このジジイ、ぶん殴りてぇ......。

  俺の心配と不安、利息つけて返せや......。


  そんな風に、俺と美優紀の心を弄んでいた彼に怒りを感じると、思い切り睨みつけた。

怒られなかった事に、ほんの少しだけホッとしながら.....。


  すると、隣にいた美優紀は、俺の気持ちを察してか、こんな風に俺の気持ちを代弁した。

「幹雄は、あなたに怒られるかもしれないって、物凄く心配してたんだよ?! なのに、そんな彼のリアクションを楽しんでいただけなんて、あまりにも可哀想だよ! 」


  美優紀、俺の為に怒ってくれるなんて、本当に優しいな......。本当にありがとう。

  でも、お前自身も同様に馬鹿にされている事に気がついてないのか......?


  俺は、そう思うと、彼女の天然が本物である事に気がついて、頭を抱えた。


  そんな中、グリミナンテは彼女の言葉を聞くと、「すまん、すまん」と謝罪をした後で、一つ咳払いをすると、こんな事を言い出したのである。

「では改めて、賢くもないお主達を、何故、初っ端から最上位である『特級クラス』に入れたか、説明させてもらおうかの」

  俺はそれを聞くと、彼が別の理由で俺達をあのクラスに入れた事に気がつく。


  それは一体、何だろうか?


  もしかしたら、俺のスキルがあまりにも秀でているが素直になれない学長は、その事実をツンデレ的な思想で言いたくなかったとか?

  まあ、ペニャが出会って一番最初に、「今、このスキルを使える奴はいない」と言っていたから。

  そう考えてると、学長は実のところ、この物珍しい最強のスキルに驚いていたのではないか?
  加えて、離れ離れにならない様に、転移した美優紀と、山から連れてきたピピィも敢えて気を遣い、同じクラスにしてくれたのではないかと。


  そんな予想を重ねれば重ねるほど思う。

 まさにわ超のつく優遇だと。


  だとしたら、錆びついた中二心が再燃されるぜ。

  異世界で、俺は最強的な、まさにチート系ラノベの通りに話が進む。

  そう思うと、俺は少しだけ優越感に浸った。

  つまり、魔王軍と戦う世界中の兵士達は、俺を欲しているのだと......。


  まあ、そんな事はあり得ないと思うが、そうだとしたら、超カッコ良くないか?!

  謎の異世界人が、世界を救う為に勇敢に戦うとか。

  まあ、現実にはあり得ないだろうけど。


  そんな風に中二思想丸出しでニヤニヤとする俺を見たグリミナンテは、途端に真面目な表情に変わり、こう告げたのである。

「我が『モールスタイン英雄学校』は、その名の通り、英雄として魔王軍と戦う事を目的として創られた教育機関。それが故、秀でた実力が認められた者に関しては、『特級クラス』に在籍し、将来、より屈強な兵士として活躍してもらう為に戦地にて実績を積んでもらう。これを、『実戦特別授業』と呼ぶ。それに選ばれた精鋭は、通年の半期を戦場で過ごす事が義務付けられているのだ。つまり、あのクラスに籍を置く事が決まった時点で、お主らは既に、ワシに認められていたのだよ」


  それを聞いた俺は、少しだけ動揺した。


  先程までのお花畑な思想を忘れて......。


  何故なら現実問題、彼が言っている事を要約すると、つまり、「実績が認められた場合、即刻、戦争に参加する事を強制される」と解釈出来るのだ。

  確かに、俺は世界でも扱う者がいないと言われる『無痛のスキル』を持っている。
  それに、ピピィだって、元魔王軍大幹部である実績があるが故、二人が選ばれたのは、多少は理解出来る。


  だが、美優紀はどうなんだ。

  彼女は今現在、何の秀でた才能も開花させていないではないか。

  それに、彼女は臆病である。
  
  ならば、何も持っていない美優紀を戦場に送るなど、殺すに等しい行為なのではないか?
  もし仮に、それが共に転移してきた俺に気を遣ってという事ならば、全力で否定しようと思う。
 
  だって、そんな危険な戦場に何も持ち合わせていない美優紀を連れて行くなど、命を棄てるのに等しいから。


  加えて、ピピィに関しても、元魔王軍大幹部の実力が認められたのは分かるが、やっとの思いで魔王軍から逃れた身。

  にも関わらず、まだ人間との交流を始めて間もない彼女に、すぐトラウマの元凶と戦わせるなど、余りにも酷な話ではないか。


  俺はそう考えると、ふと、彼の構想を否定する様に、こんな事を呟いた。

「美優紀は何もスキルを持っていない。それに、ピピィを魔王軍との戦争に巻き込むなんて、あまりにも酷な話なのではないか......? それに、今すぐ戦いに参加させられるなど、聞いてないぞ! 」

  そんな風に、俺は真剣な口調で問い詰める。

  すると、グリミナンテは勝ち誇ったかの様に口を緩ませながら、こう答えたのだ。

「ワシは最初にも言ったはずだ。『お主らは戦力になる』と......。その提案をお主は同意した。つまり、この学校に在籍した時点で、お主らの未来は、決められていたのだよ」


  彼が放ったそんな発言を聞くと、俺は歯を食いしばった。

  確かに、グリミナンテは入学させる際、そう説明したのは事実であったから。

  それと共に、自分の選択した結論が、これから先、どれだけ二人を苦しめるかを理解した。


  何故なら、彼は最初から俺達三人を早々に戦地へ送る事を考えて、敢えて『モールスタイン英雄学校』に迎え入れたのである。


  そこで、俺は初めて、先の事を『結局、何だかんだで平和に生き、みんな幸せで終わる未来』くらいにしか考えていなかった浅はかさに気がつく。

  同時に、平和な日本で生まれ育った自分の甘い考えなど、この世界では全く通用しない事を痛感したのであった。

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