ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第16話 バレたかもしれない!


ーーーーーー

  すっかり決闘に決着をつけて部屋に戻ると、美優紀は、案の定、めちゃくちゃ怒っていた。


  それも、腕を組んで俺を今にも怒鳴り付けるのではないかと憶測を立てられるほど強い目力で睨みつけているのである。


「なんで、決闘なんか受けたの? どちらにせよ傷つく事なんて、分かっていたはずでしょ......? 」

  彼女の愛情と心配が混同する口調を聞くと、俺は少しだけ興奮する。


  彼女は、愛する息子を叱りつけている様な錯覚に苛まれる発言をしている。


  それはつまり、赤ちゃんプレイ的なやつか......?


  俺はそう考えると、小学校低学年当時の俺を憑依させると、それになり切ろうとした。


  うわ〜ん!! ママァ......。ハァハァ......。

  とか、言い出そうかなと衝動的に思う。

  生憎、オムツの類は持ち合わせていないが、代わりに俺は物凄い、誰もが驚く武器を装備しているのだ。

  何を隠そう、今、秘密裏に履いているパンツは、そいちょそこいらの低クオリティな物とは違う。

  たった一人で何ヶ月も試行錯誤を繰り返し、やっとの思いで作り上げた超大作、その名も『強制禁欲パンツ』なのだ。


  今こそ、その宝とも思える芸術作品を、お披露目する絶好の機会だと感じた。

  俺の愛して愛してやまない、可愛くて仕方がないレオンが何かの拍子で反応をする度に、精巧に細工されたバンドが勢い良く締まるという構造だ。日本の伝統技術であるからくり人形とびっくりするであろう。


  しかも、不意に発動すると、常人では理解出来ないほどに、レオンは千切れてしまうのではないかという位に締め付けられる。


  その痛みと背徳感たるや、常人ではとても耐えられない。下手すればショック死してしまう可能性すら生じる。


  つまり、俺の勝負パンツは、突き抜けたマゾヒストにしか履く事が許されない、まさに、国王が被る王冠と等しい代物なのである。

  
  これを見せれば、世界中に混在するマゾヒスト達は、俺を崇め奉ること、間違いなしであろう。


  今は、痛みすら感じないが、その間も俺の『強制禁欲パンツ』は働き続けていたのだ。


  それでは、お尻にプリントされたボコボコに殴られてピースをする俺の自撮り写真から見せるとするか。


  そう考えて、怒った表情を浮かべる美優紀にそれを披露しようとした時、ふと、思った。


  だから、ダメだろ! それは......。

  絶対に引かれるだろうし、ここ二日で積み上げてきた『善人』というイメージが全て崩れ去るのが必至だ。


  下手したら、彼女は俺を訴えるかもしれない。
  猥褻物陳列罪になど問われたら、佐藤幹雄容疑者だとか言われてしまう......。


  それから、世界中の新聞にデカデカと一面を飾ってしまうんだ。


『世界一のマゾヒスト、少女に向けて赤ちゃんプレイを強要!! 』なんて、目も当てられない程に無残な見出しと共に......。


  だが、共に、俺のドMっぷりは世界中に一斉に知れ渡る。
  それを知った有志達が集って、俺の無実を主張するのだ。

  
  なんだかんだで俺は顔も知らない多くのマゾ仲間の署名によって、禁固刑を免れる。


  そして、山奥を開拓して、一つの大国を作り上げ、気がつけば、俺は『キングオブマゾヒスト』と崇められ、王として君臨する。

  亀の頭の様な形の王冠を被り、衣服の上から亀甲縛り。その姿は、余りにも神々しい。


  故に、国民は俺を尊敬し、ひれ伏す。
  

  更に、毎夜の様にドSなお姉様が俺に愛の鞭を繰り出す。各国の高飛車な貴族という貴族が、俺の権力に縋るように自分のサディストっぷりを見せつける。


  その中でも、飛び切りな一人を見つけると、俺は五人の子供と共に、幸せな生活を送るんだ。


  彼らは全員、男の子。
  
  国内に作り上げた『インターナショナルマゾヒストスクール』で、ドMになる為の英才教育を受けるんだ。


  気がつけば、彼らは親父である俺を越えるほどの存在になり、国家は更に繁栄する。


  そう考えれば、ここで『強制禁欲パンツ』を見せつけるのも、悪くないのでは......。


  だから待てって!!
 

  そんな簡単に自分の妄想の様に行く訳がないだろうが!!


  むしろ、現実は真逆なのだから......。

 
  俺がそんな風にズボンを握りしめて葛藤していると、美優紀は怒りの表情から打って変わって、首を傾げていた。


  そして、こんな事を言い出したのである。

「てか、さっきから、なんでそんなに嬉しそうな顔をしているの......? 」

  彼女が発言した一言に、俺は冷や汗をかいた。


  もしかして、バレたのか......?

  俺が生粋のマゾヒストだという事が......。


  そう思うと、全身の身震いが止まらなくなった。

  バレた? それは、まずい。
  思わず、興奮しすぎてしまった。

  美優紀、お前は、なんて誘導尋問が上手いんだ。

  
  ドMステルススキルを持ち合わせた俺の本音を、曝け出そうとするなんて......。


  俺がそう思いながら分かりやすく慌てふためいていると、美優紀は暫く考えた後で、こう返答したのである。

「全く、きっと安心したんだね......。まあ、表情を見る限り、ペニャとの事、上手くいったみたいだし、今回は許してあげる! 」


  俺は、美優紀の的外れな発言を聞くと、ホッと一安心して。


  せ、セーフゥ......。


  そして、すっかり胸を撫で下ろした俺は、こう謝罪をしたのである。

「いきなり無謀な戦いに巻き込まれちゃってごめん。これからは気をつけるよ! 」

  
  その言葉を聞いた美優紀は、フフッと笑うと、

「じゃあ、もう夜も遅いし、明日の授業に備えて寝よっか」

と、優しい口調で俺とピピィに言うと、ゆっくりと明かりを消したのであった。


  それから俺は、二人がすっかり寝静まったのを確認すると、風呂場で静かにレオンを愛でた。


ーー黒ひげ危機六発という結果になった......。


  気持ち良すぎて気を失いそうになった......。
  

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