ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第15話 自分を見失ったんだ!


ーーーーーー

  俺がペニャを殺そうとした寸前、背後から嘆願の声がが聞こえた。

  その張本人が、ピピィである事はすぐ分かる。

  だが、俺は彼女の方を見ようともしなかった。
  もう、誰に止められようと、俺はこの女を殺すと決めたから。
  
   残虐な形で傷つけようとする人でなしなど、この世には必要ないと判断したからだ。

  別に、俺自身なら、幾ら否定しても良い。

  しかし、魔族を殺す行為を『駆除』と言った事、それに何よりも美優紀とピピィを惨殺しようとしていた事実こそ、俺にとってどうしても許せなかった。

「何故、クズを庇う必要がある、ピピィ。こいつはお前の事だって、考えられる限りで一番悲惨な形で殺そうと企てていたんだぞ。『魔族』だからと言うだけで......。そんな思想を持った奴など、生かしておいて良い訳がないだろ」

  俺がピピィの方へ振り向く事なくそう告げると、彼女はこんな風に発言を否定した。

「そんな訳ないのじゃ! 実際にあたしが呪われた魔族であるのも事実! 魔王軍はそれ程に恨まれるだけの事をしてしまったのじゃよ! だから、ペニャには罪がないんじゃ! むしろ、悪いのはあたし達なんだよ! 」

  彼女が必死にそう説得をすると、俺は彼女と、胸ぐらを掴まれて俯くペニャと、背後にいるピピィを交互に見つめた。


  その後で、再び怒りが俺の心を埋め尽くして、こう叫んだのである。

「てめえらは、馬鹿なのか!! いちいち、自分の事を『呪われてる』なんてくだらねえ卑下をしたり、固定概念で種族ごと呪ってみたり......。たかが、人間か魔族かの違いで憎み合いやがってよ! 悪いのは全部、魔王軍なんだろ!? だから、ピピィだって逃げてきたんじゃねえか! だったら魔王を恨めよ!! 」

  俺がそう息を荒げながら、血管がはち切れそうなほどの大声で憤慨していると、ペニャは、小さく肩を震わせていた。


  すると、背後のピピィは優しい口調でこう呟いた。

「いいんじゃ、今は。でも、きっといつか、あたしはみんなに認められる様に頑張るって誓ったんじゃ。たとえ、命を狙われたとしても......」


  彼女が言った発言を聞くと、俺は少しだけ力が抜けた。


  それを確認したピピィは、更にこう付け加えたのである。

「そう思わせてくれたのは、誰でもない、幹雄のおかげなんじゃ。ずっと、魔王軍を辞めたかった。彼らの思想に戦慄を覚えて......。そして、たった一人で逃げてきたあたしなんかに手を差し伸べてくれたのは、幹雄だった。貴様がいたから、あたしは変わろうと思えたんじゃよ! 」


ーーピピィが口にした、『幹雄のおかげ』という言葉を聞くと、俺はハッと冷静になった。


  今、俺がやろうとしている事も、同じなんじゃないかと。

  ここで、ペニャを殺してしまったら、俺も魔王軍や、死ぬほど魔族を憎んでいる人間と変わらないのではないかと......。

  俺は恩人を殺そうとしているのだ。
  あれだけ、もっと努力して、いつかもう一度、仲良くしたいと思っていたのに......。


  いっときの怒りで、その機会を永遠に叶えられるものにしようとしているのだ。


  そう思うと、自分の浅はかさに打ちひしがれて、ペニャをゆっくりと地面に降ろした。

  彼女は降ろされると同時に、彼女は大きく咳き込みながら地面を震えながら握りしめていた。

「俺は、なんて事を......」

  そう呟いて、呆然としていると、ピピィは走って駆け寄り、背後から俺の足元へ抱きついた。

「ありがとう、幹雄......」

  俺はそれを聞くと、歯軋りを立てて自分に対する悔しさを滲ませた。


  だが、そんな時、地面に両腕をついて震えているペニャは、こう怒鳴り声を上げたのである。

「だったら、どうすれば良いんだよ!! 」

  彼女は、そう慟哭とも似た叫び声を上げると、勢い良く立ち上がり、俺に詰め寄って胸ぐらを掴んできた。

「ウチの両親は、五年前、魔王が率いる兵士によって殺された!! 村の人々も全員だ!! 奴らは殺しを楽しんでいた!! 考えつく残虐の限りを尽くして惨殺された!! ウチは、只、恐怖に怯えて逃げる事しか出来なかった......。そして、全ての村民を殺した時、魔王は腰を抜かして動けなくなったウチに対して、なんと言ったか分かるか......」


  それからペニャは、嗚咽を漏らしながらそう問いかけると、只、見つめる事しか出来ない俺に対して、こう言ったのである。

「『今日は、実に楽しませてもらったよ。これから君は、地獄を味わいながら生き続けると良い......』その言葉を残して去って行ったんだ......。あの時、殺してくれればどれだけ幸せだったか分かるか!? 今更、魔族の何を信用すれば良いんだ!! 出来るわけがないだろう!! 」


  彼女がそう言い終えた時、俺はどんな言葉を返せば良いか分からなくなった。


  目の前で、魔王軍の本当の恐ろしさを目にしている訳だから......。


  だからこそ、何を伝えれば正解なのかも、導き出せなかった。

  全てを話し終えたペニャは、再び間合いを取ると、手元に魔法陣を作り出した。

「だから、ウチはお前らを倒す!! たとえ、自分の息が絶えたとしても......」


  彼女はそう宣言すると、全力で呪文を唱え始める。
  今まで溜め込んだもの全てを放出する様に......。


  俺は、そんな彼女を咎める事も出来ず、只、呆然とする事しか出来なかった。


  それから、彼女が詠唱を終えた時、俺はゆっくりと目を瞑った。

 
  責めて、彼女の思いを受け止めなければならないと思ったからだ。
  今は、マゾヒストな気持ちなど、一切ない。   
  真摯な気持ちで向き合おうと思った。


  そして、彼女は、黒みを帯びた炎を放ったのである。


  同時に、俺とピピィの視界は、真っ黒に染め上げられた。
  
  ピピィは少し息苦しそうにしているものの、同属性の魔法で効力を打ち消している。

  対して俺は、只、その哀愁とも似た黒炎を受け止めている。それが、責めての罪滅ぼしなのだから......。
  だが、皮肉な事に、全く痛みは感じなかった。見事なまでに......。


  きっと、今の大技は、彼女にとっての必殺技であったのであろう。

  俺はすっかり消えてしまった黒炎から姿を現わすと、ペニャは膝をついて諦めとも取れる眼差しを向け、泣き面の中で小さく微笑むと、こう呟いたのである。

「やはり、ウチでは何も変えられなかったんだな......。うん、この勝負、ウチの負けだ。最後にトドメを刺してくれ......」


  それを聞いた俺は、どうして良いのか分からなかった。
  先程の怒りとは打って変わって、彼女を殺すという選択肢など見出せなかった。


  いや、絶対に生きて欲しかった。

  それが、幾ら辛い選択だとしても......。


 だが、そんな時、激しい足音と共に、ニルンヴァースが現れた。

  彼女は感情を押し殺すかの様な仕草を見せると、そのまま俺やピピィに脇目も振らずにペニャの元へ駆け寄り、そのまま勢い良く彼女を抱きしめたのである。


  そして、こんな事を訴えた。


「私は、あなたがどれだけ辛い思いをして来たか、良く知っています! あなたがどんなに廃れようと、悲しもうと、絶対に見放しません! だから、死ぬなんて考えは、やめて下さい! 私にとって唯一の大切な親友なのだから......」


  彼女は、ペニャに向けて精一杯の愛を口にする。

「何を言っているんだ......」

  ペニャは表情を歪ませながら、そう呟く......。


  それから、ニルンヴァースは悲しみに打ちひしがれた彼女を更にキツく抱擁した。


  それに対して、ペニャは体の力を全てニルンヴァースに預けたのである。


  俺は、彼女達を見つめながら、改めてこう決意する。


  もう二度と、自分を見失う事はやめようと。

  
  そう決め込むと、俺は無言でピピィの手を繋ぎ、ゆっくりとその場から離れて行くのであった。

  とりあえず、戻ったら過去の清算を込めて、愛しの息子レオンを愛でようと決め込んで......。

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