ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第14話 俺はブチギレたんだ!


ーーーーーー

  俺はペニャに無理やり腕を引っ張られる形で外へ連れて行かれると、校門を抜けて人気のない荒野へ辿り着いた。

  彼女は、余程俺達を恨んでいるのか、体を震わせながら俺を睨みつけている。

  
  まるで、仇でも取るかの様に......。


  それを見た俺は、彼女の感情を止める方法などない事を悟った。
  出会った時とは全く違う、殺意を感じながらも......。


  だが、どうしても俺はペニャとまた、普通に話したいと思っている。
  何故なら、俺がこの世界に転移して、初めて話した現地人なのだから......。

 
  それに、恩だって感じている。
  何も知らずにこの世界を彷徨っていたら、俺達はどうなっていたか分からない。
  
  たったの一日で、俺と美優紀に拠り所を手に入れられたのは、他の誰でもない、ペニャとニルンヴァースのおかげであるのだ。

  故に、何回嫌がられようと、殺されかけようと、彼女を裏切るなど、考えたくもなかった。

  分からないなら、何回でも頭を下げようと思えた。
  
 
 だからこそ、俺は駄目だと分かっていても、こう本心から説得をした。

「なんでだよ......。やっぱり決闘なんてやめないか? ピピィは確かに魔族だが、決して悪い奴ではない! そこら辺にいる人間の少女と変わらないんだ! だから......」

  そんな一言を聞いた彼女は、小さく俯きながら両拳を握りしめていた。

「何が、人間と変わらないだ......。そんな事は、決してあり得ない......」


  憎悪にも似た表情を浮かべて息を上げているペニャは、俯きながらそう怒りを露わにした。

  そんな彼女の表情から、彼女は魔族によって余程、辛い思いをした事を痛いほど理解した。


  しかし、このまま彼女が分け隔てなく魔族を恨み続けて貰いたくはない。
  
  昨日の戦争で、彼女は魔族の事を「人の事をゴミくらいにしか思っていない」と言っていた。
 
  だが、ピピィは誰よりも愛情に飢えている、孤独な少女である事は事実なのだから。

  それに、もう既に学長のお墨付きを貰っている......。


  だからこそ、俺は彼女に向けてこう言い放ったのである。


「でも、それじゃ、お前の大嫌いな魔族と同じなんじゃないか......」

  俺がそう言い放つと、ペニャは意外にも冷静な口調でこう返答したのである。

「確かに、そうかもしれないな。ウチは、心の底から魔族を恨んでいる。それに、少しでも多く奴らを駆除しようと、この『モールスタイン英雄学校』に入ったんだ......」

  それを聞いた俺は、少しだけ悲しい気持ちにさせられる。

  何故なら、彼女が俺の『無痛のスキル』を見つけ出した時に見せた喜びは、「この力を利用すれば、沢山の魔族を殺せる」と思っていたのかもしれないなんて、疑惑すら持ってしまっている自分がいるからだ。
  
  確かに、学校の雰囲気やグリミナンテから聞かされた魔族に対する世間の評判は聞いた。


  だが、彼女からは、それすらも凌駕する程の、激しい憎悪を感じるのだ。


  彼女には、一体何があったのだろうか......?

  
  何が彼女をそうさせたのだろうか......。


  俺は、そんな疑問を胸に抱いていると、ペニャの体からは真っ赤な膨大な炎のオーラが現れ始めた。

「それに、この学校から追放するなんて言葉は嘘だ。まずは、全力でお前を葬る。そして、ウチの目的を邪魔する大幹部ピピィと、南美優紀をぶっ殺す。世界中の誰もが目を覆いたくなる程、無残にな......」


  そんな、ペニャの口から出た「ピピィと美優紀を殺す」という宣言を聞くと、俺の頭の中で「ブチッ」と、なにかが切れる音がした。

  どんなに擁護しても、彼女ら人間の意志は、決して崩れる事がないと悟ったから。
  同時に、もう、彼女には何を言っても無駄だと気がついた。

  先程まで抱いていた感謝や綺麗事など、どうでも良くなった。

 こんな人間が蔓延っているのならば、世界の全てを壊してやろうという感情が、理性を吸収していくのが分かった。


  そして、俺は彼女にこう告げた。


「もう、理由なんかどうでもいいや。てめえの考えはよく分かったし、今すぐ殺してやるよ......」


  俺がそう言うと、ペニャは目力を強めて詠唱を唱えた。

  すると、彼女の手元からは炎属性の巨大な魔法が現れたのである。

「死ぬがいい、佐藤幹雄!! 」

  彼女はそう叫ぶと、魔法陣からは俺の体を簡単に覆う程の炎が、辺り一帯を巻き込みながら大規模な爆発を起こしたのである。

  それと共に、爆風が吹き荒れる。


  だが、『無痛のスキル』を持っている俺にとって、そんな攻撃など、全くの無意味であった。

「そんな腐った性根で俺を殺そうなんて、のぼせ上がってんじゃねぇぞ......」

  周囲の木々が燃え盛る中、俺は全くそれを気にせずにゆっくりとペニャの方へと近づいていった。


  だが、ペニャはそこで、こんな事を言った。

「引っかかったな......」

  彼女がそう呟くと、俺の足元からは紫色の魔法陣が現れた。

  それと共に、紫色の毒が俺の全体を覆った。
 
  痺れを感じた俺は、その場で一瞬だけ立ち止まる。
  すると、ペニャは間髪入れずに、草属性の魔法によって巨大な蔦を現わすと、体に絡まり、四肢の自由を失った。

  「やはり、『無痛のスキル』だ。簡単に殺すのは無理だと思っていたよ。だから、ウチは部屋に戻って、スキルの弱点を徹底的に調べた。どうしても、お前を殺したかったからな」

  そう笑い声をあげると、彼女は光り輝く弓を手元に作り上げ、それを俺に向けた。

「魔族の仲間など、死ぬが良い......」

  彼女がそう呟くと、その矢を俺に放った。

  
  そして、その矢が俺に当たった時、激しい光が辺りを照らした。


  だが、閃光が止んだ時、ペニャは驚愕の表情を浮かべたのである。


  何故ならば、彼女の放った矢は、俺に突き刺さる事は無く、無残にも地面に落ちていたからである......。

  俺は、四肢に絡みつく頑丈な蔦に煩わしさを感じると、全身に思い切り力を込めた。

  すると、その鉄にも勝る植物は、簡単に鈍い音を立てて木っ端微塵になったのである。


  それから俺は、首を一つ鳴らすと、驚愕の表情を浮かべて震えるペニャの元へ走り出した。

「何故、効かない......。『無痛のスキル』の弱点を、全て捉えたというのに......」

  彼女がそう焦りを見せたのも束の間、俺は彼女の胸ぐらを乱暴に掴んだ。

 「俺は、お前を絶対に許さない。美優紀とピピィを侮辱した事、死をもって後悔してもらおうか」

  俺は怒りの感情に身を任せて右手の拳を握りしめると、思い切り後ろに引いて全力で殴る準備をした。

  ガタガタと全身を震わせて涙目になるペニャに向けて......。
  
  そして、俺が思い切り彼女を撲殺しようとした時、俺の背後からは、こんな叫び声が聞こえたのである。

「幹雄! もうやめるのじゃ!! 」

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