ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第13話 スッキリせねば!

ーーーーーー

  学長であるグリミナンテの少し強引なスカウトによって『モールスタイン英雄学校』の生徒になる事が決まった俺達は、その場で入学手続きの書類にサインをすると、急いで明日から始まる授業の準備を開始したのだ。


  全く字が読めないと謝罪を口にすると、グリミナンテが「異世界の字でいい」と言ってくれた事により、漢字明記の署名をした。

  
  俺は、昔練習したサインをやっとお披露目出来ると思い、したり顔で書いた。その方が格好いいと思って。もちろん、怒られた。書き直させられた。相手が男だから興奮しなかった。


  それから急遽、寮内の部屋の一室を充てがわれる。だが、相変わらずベッドは二つだった。
  もしかしたら、いつか石畳の床で寝れるかもと思うと、学校側は粋な計らいをしてくれていると感動した。

  だが、それをかき消すかの様に、ピピィは「それならば、これからは毎日、幹雄と寝ればいいだけの話じゃ! 」と、強引な口調で解決策を見出している。
 
  それを聞いた美優紀はフフッと小さく微笑むと、「幹雄は、すっかりピピィに懐かれちゃったのね」など、まるで仲の良い親子を見つめるかの様な暖かい口ぶりでそう呟いた。 
  ちょっとだけ残念だ。


  次に、制服の採寸や、必要な教書を受け取ったりと、慌ただしく時間は過ぎて行く。

  突然、転移させれたが故、生活用品を一切持ち合わせていなかった事を知ってか知らずか、学長の計らいで日常生活に支障が無い程度に一式揃えてくれた。


  なんだかんだで、至れり尽くせりだった。

  こんなにも献身的に扱ってくれている事に、感謝の気持ちしか無かった。
  これからは、その恩に報いれる様、精一杯学業に励む事を熱く誓った。


  そして、時間はあっという間に夕方になり、俺達にとって、最も憂鬱な時間が訪れるのである。


「幹雄さん、そろそろ夕食の時間ですよ」

  そう言って案内をしてくれたのは、この場所でメイドとして勤めているサイという女性であった。
  スラッと背も高く、胸も非常に大きい。やはり美女だった。
  鼻の下が伸びた。
  豊満な胸で往復ビンタして欲しいなとか思った。


  ペニャは、先程、俺達の入学が決まった瞬間に、勢い良く部屋を飛び出していったからである。
  そんな彼女を、ニルンヴァースは追いかけて行ってしまった。


  きっと、俺達の入学が受け入れられなかったのであろう。

  
  だからこそ、今、案内してくれているのは、別人なのだ。

「そんなに拒絶しなくても良いのになぁ......」

  俺が、すれ違う人々から嫌悪感丸出しの表情で見つめられながら廊下を歩いて、そんな事を呟くと、メイドのサイは、周囲を気にせずにこんな事を言い出した。

「まあ、ここにいる皆さんは、大なり小なり魔王軍によって被害を受けた事がキッカケで英雄を目指している人が多いですからね......」

  そう返答した彼女の言葉に、ピピィは俺の手をギュッと握りしめながらこう呟いた。

「まあ、確かにそうじゃな。五年前に、魔王は主要国家や都市を一夜にして攻め落としたからの。あたしは去年、突然に大幹部に抜擢されたから、その出来事の詳細を知らんが......」

  彼女がそう言うと、美優紀は少し考えた後で、苦笑いを浮かべた。

「なんか、そうやってピピィが話しているのを聞くと、やっぱり魔王軍の大幹部なんだなぁって思うよ」

「怖いと思うじゃろ」

「いや、逆だよ。私は、そんな悲惨な事件に、ピピィが肩入れしてなくて良かったって、ホッとしてる」

「全く......。貴様ら二人は、おかしいぞ......」

  美優紀は、少し照れているピピィを見つめてニコニコとしていた。


  俺は、そんなやり取りを見つめて、少しだけ口元を緩めた。
  半日の間、周囲の軽蔑の眼差しに少しは慣れたのか、あまり気にしていないで会話している二人に、ホッと安心したからである。

  
  食堂に辿り着くと、談笑しながら食事を摂っていた生徒達は一斉に、黙り込んだ。

  ヒソヒソと悪口を話す声も聞こえてくる。

「あいつら、正式にこの学校の生徒になるらしいぞ......」

「えっ......? 本当に嫌なんだけど......」

「魔族が英雄候補とか、どんな皮肉だよな」

「うちのクラスには来ないで欲しい......」


  嫌でも耳に入ってくる痛烈な批判に、佐藤幹ドロイドは恒例の脳内インプットを始める。

  そう言えば、ギャル様に殴られてから起きた、素晴らしき思い出の数々を、俺はまだ発散していない。
  まあ、常に美優紀やピピィが居るから、それは仕方ない事ではあるのだけれども。僕だって男の子なんだよ、一応。
  今朝からずっと感じているモヤモヤは、まさにそれが理由であったんだな。

  どちらにせよ、一度、スッキリしておいた方が良いな。
  じゃないと、愛しのレオンが誤発射してしまうかもしれんし。
  ベタベタするのやだし。栗の匂いするし。日本の季節はまだ春なのに......。

  まあ良い、とりあえず食事を摂ったら、トイレをお借りしよう。
  

  そう思うと、立ち止まった二人を心配して声をかけようとした。


  すると、美優紀はピピィの手を取って、笑顔を見せると、

「気にしないで良いよ! じゃあ、席に着こう! 」

と、自然な表情で告げた。

  ピピィは彼女の言葉を聞くと、少し勇敢な顔つきを見せて、

「そうじゃの。 いつか、みんなに認められる様にするから、今は仕方ないな! 」

と、美優紀に微笑み返して返答した。


  その後で、美優紀はチラッとこちらを見てウインクをした。

  まるで、「私達は大丈夫だから」とでも言ったかの様に......。


  俺はそんな彼女の姿を見た時、心から感謝した。
  ピピィを元気付けたその気遣いは、彼女にしか出来ないのだから......。

   
  それに、美優紀に励まされると、何故か心が癒され、安心する。
  まるで、無償の愛情を持つ母に子守唄を歌ってもらっている様な、不思議な感覚を覚えるのだ。


  考えてみれば、俺は美優紀の素性を何も知らない。

  強いて言うならば、同じ高校に通っている、心優しき女の子、その程度である。

  同学年なら、少なからず知っていてもおかしくないし、これだけの美少女。
  例え、学年が違かったとしても、その美貌から噂になり、友人伝いで耳に入って来てもおかしくない。あっ、一応、友達はいたよ。みんな俺の本性知らないからね。


  つまり、彼女は入学したての一年生だったとか......?


  俺は、不意に芽生えた謎に首を傾げると、贅沢に並べられた料理を楽しみながら、どこかのキッカケで素性について何気なく聞き出そうと思った。

  そう決意を決めると、貝類を小さな口で頬張る彼女をじっと見つめたのである。

「どうしたの? 」

  視線に気がついた美優紀がそう問いかけて来たのを、俺は何となく目を逸らしながら、

「別に、なんでもない......」

と、とりあえず黙ったのである。


  美優紀は、これから行動を共にする仲間だ。
  ならば、彼女の素性を知っておいて悪い事はない。
 
  俺はそう思うと、タンパク質が豊富に摂れそうなステーキを丁寧にナイフで切って口に運ぶのであった。


ーーーーーー

  すっかり食事を終えて部屋に戻ると、とりあえず備え付けの風呂に入るという話になった。

  ピピィは俺と入ると聞かなかったが、「流石に女の子だから」と、遠回しに断ると、美優紀が優しい口調で一緒に入ると言ってくれた。

  おかげさまで、俺が幼児性愛者の変態疑惑を持たれる事が回避されたのだ。

  
  それに、風呂があるのなら、わざわざトイレという閉鎖的な場所でアレに明け暮れる必要が無いからだ。
  だから、意地でも俺は一人で入りたかった。幾らピピィに駄々を捏ねられても、ここだけは絶対に譲れなかった。


  ギャル様、ニルンヴァース姉ぇ、生徒達による集団罵倒......。
  昨日から今日にかけて得た収穫だけで、五回位は行ける。
  その為の準備も欠かしていないからな。
  今日の晩御飯は、タンパク質を多く摂取したので。
 
  いや、むしろ、俺は元の世界からその為の体づくりを欠かしていなかった。
  適度な運動による疲れに、その為の食事摂取。加えて精神の統一に、ネタの収集。
  きっと、全国の同年代の中でも、トップクラスの努力をしていたのだ。まるでアスリートの様に。
  
  だからこそ、最高の快楽に辿り着ける事が出来る。
  俺にとっての生きがい。愛すべき我が息子レオンを愛でる時こそがその時。


  きっと、その瞬間の感動を歌えば、某CDチャートもびっくりな程の売り上げを見せ、あっという間にミリオン歌手になる事であろう。

  紅白の審査員もスタンディングオベーションで賞賛する程に......。


  そう考えると、やはり、ゆっくり入りたい。

  だからこそ、二人には、「先に入ってくれ」と、促すのだった。

  すると美優紀は、

「でも、私達は今朝、一回シャワーを浴びているから、幹雄から入っちゃっていいよ」

と、気を遣いながらそう返答する。


  だが、俺はそれに対して大きく首を横に振った。

「いいから良いから! 俺は少し考え事をしたいし、入っちゃってくれ! 」

  多少、必死の形相で俺がそう告げると、彼女はほんの少し首を傾げた後で、

「じゃあ、一番風呂貰っちゃうね」

と言って、ピピィと共に脱衣所に入って行った。


  よし、今の所は計画通りに進んでいる。
  ここからが本番だ。


  まずは、出来事を映像化する作業だ。

  やはり、一番最初は、高校生ギャル。
  俺を殴るあの強烈な目、怒りの言葉。

  OH......。思い出すだけでそそるのぉ〜。
  自然に体が震える。

  その後で、体に刻まれた感覚を呼び覚ます。
  今は、『無痛のスキル』によって、全て消えてしまったが、記憶を辿ればその時感じた痛みは鮮明に脳内で蘇る。

 
  いかん、限界かもしれん......。

  そう考えると、俺は風呂場から聞こえるはしゃいだ声を無視しながら学生鞄の中にあるティッシュを徐に取り出した。


  まあ、後でトイレにでも流せば問題ないだろう。だから、今、とりあえず一発......。


  しかし、そう考えた矢先だった。

  ドアからは、小さいノック音が聞こえる。


  俺は、そんな空気の読めない来客に怒りを覚えると、「はーい! 」と、急いで出るのであった。


  それからゆっくりとドアを開けると、そこにいたのは、相変わらず怒りを露わにするペニャだった。

 「な、何の用だ......? 」

  突然現れた彼女に驚いた俺は、たどたどしい口調でそう問いかける。

  ペニャは俺の質問を聞くと、何も言わずに俺の腕を力強く掴んだ。

  それから、無理やり廊下を歩き出そうとする。

  俺は彼女の強引な行動を振り払うと、

「一体、どうしたというんだ!! 」

と、多少声を荒げてそう反抗した。


  すると、ペニャは今にも殴り掛かって来そうな程に怒りを露わにすると、こう怒鳴ったのである。

「やはり、ウチはお前らがこの由緒正しき学校に入学する事を、絶対に認められん! だから、決闘をしろ! 」


  それを聞いた俺は、先程までの興奮を忘れて、只々、呆然とした。


  憎まれているのは分かっていたが、まさか、ここまでだったとはと......。

  廊下で佇み、呆然とする俺に対して、ペニャは更に続けてこう言い放った。

「そして、もし仮にお前が負けた時は、この学校を去ってもらう! これは、強制だ! 」

  そう宣言すると、彼女は拒否を繰り返す俺を無視して、無理やり学校の外へと連れて行くのであった。


  決闘なんて......。


  俺は、意図せず彼女と戦わなければならない哀しみから、心を痛めるのであった。

  

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