ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第9話 少し反省したんだ!

ーーーーーー

  俺は、小さなお姫様を抱えながら、「キラリ☆」と口元を光らせて颯爽と森を駆け上っていた。
 
  自分で言うのも何だが、めちゃくちゃイケメンな表情で。
  世間的に見たら、きっと平均レベルではあるものの、やはり、男気を見せると余計にカッコよく映るなんて話は、良くある事だ。

  それを象徴する様に、先程まで暴れ倒していたピピィは、すっかりと大人しくなったのである。

  きっと、俺という名の王子様に見惚れてしまっているのであろう。熱い想いを抱いちゃったりもしてるのかもしれんな。
  
  ククク......。人に好意を抱かれるっていうのは悪くない話だな。


だが、断る!

 
  俺は、幼女に恋をする様な変わった趣味など持ち合わせていないのだ。

  寧ろ、逆である。
  大人の色気をムンムンと感じるタイトなスーツを着た女性こそ、至高。
  残業終わりのストレス発散として、俺という愛玩具に向け、その溜まりに溜まった鬱憤を晴らして欲しい気持ちが強くあるのさ。
  出来れば、足は臭ければ臭い方が良い。押し付けるが良い。

  お分かり頂けたであろうか。

  まずそもそも、ベクトルが違うのだ。
  そんじょそこらの変態な幼児性愛者と同じ天秤に掛けてもらっては困る。


  何故なら俺は、それをも遥かに凌駕する天文学的な数値を持ち合わせた、宇宙的ド変態なのだからな! ハハハ! 跪くがいい!


  そう考えながら、幼くして叶わぬ恋に堕ちてしまったであろうピピィに向けて、遠回しにお断りの言葉を掛けようと、したり顔で彼女の方へ目を向けた。


  すると、ピピィは物凄くうんざりとした表情を浮かべていたのである。

「なんで、あたしが人間風情と行動を共にしなければいけないんじゃ......。どうせ、貴様には何を言っても無駄であろうし、もう諦めたよ」

  彼女が抵抗の放棄を宣言すると、俺は、更に走る速度を上げながら、大いに照れてみせた。

「そんなに褒めるなって!! 照れるじゃねえか!! 」


  きっと、彼女は俺のポジティブな所にも惚れてしまっている様だ。
 
  しかし、はっきりと好意を相手に感じ取られるのが嫌という、多感な年頃なのだろう。だからこそ、遠回しに俺を褒めるんだ。

  つまり、ピピィはツンデレ属性。

  「べ、別にあんたの事なんか、好きじゃないんだからね」的な、あれだ。

  全く......。素直じゃないぜ。この暴れん坊さんは。

  
  だが、断る!


  そんな事を考えている内に、気がつけば山の頂に差し掛かり、英雄候補の学校が遠巻きに見え始めたのである。


  そして、思う。

  きっと怒られんだろうなぁ。

  いきなり美優紀を残して施設を出て行った事。

  ペニャも、ニルンヴァース神からも、キツーくお灸を据えられるんだろうなぁ。

  堪らないなぁ。
  ストッキングとかで首絞めてくれないかなぁ。

  痛みはまだ少しお預けだが、風味だけでも感じられれば、今は充分に満足だ。


  気がつけば、俺とピピィは山を登り切り、英雄候補の学校の目前に差し掛かっていたのであった。


ーーーーーー

  星空しか明かりのない真夜中に見ても、立派としか言い様のない入り口の門に辿り着いた俺は、ピピィを地面に降ろすと、突然起きた出来事に言葉を失った。

「パチン!! 」

「幹雄! 何処に行ってたの! 心配したんだから! 」

  そう泣き叫びながら俺の頬を叩いたのは、紛れもなく美優紀だったからである。

  春先程の気温にも関わらず、彼女の手からは冷たさを感じた辺り、ずっとこの場所で待っていた事がすぐに理解出来た。

  それに加えて、暫く泣いていたのであろうか、目は真っ赤に充血していた。
  
  つまり、俺が絶望を胸に森を彷徨っている間、彼女は心配をし続けていたのである。

  同時に、俺は過去に感じた事のない『痛み』を感じた。

 
  だが、その『痛み』は、思い切り叩かれた頬からのものではない。
  罪悪感という名をつけた、心の痛みであったのだから......。


  それと共に、俺は自分が引き起こしてしまった余りにも浅はかな罪に気付かされたのである。

  
  最低じゃないか。
  自分の事ばかりを考えて、美優紀を一人にしてしまったのだから......。


  まだ出会ったばかり俺を、今まで感じた事のない包容力で励ましてくれた、優しい彼女。

  会話や表情から垣間見えた、この世界への不安。
  南美優紀という少女は、誰よりも臆病なのだ。

  分かっていた事は沢山あった。


  なのに俺は、わがままに行動した。


  そんな罪を痛感すると、俺は次第に俯き、精一杯の反省を込め、小声でこう謝罪を口にした。

「心配させて、本当にごめん......」

  俺が自分の犯してしまった事の重大さから自責の念に押し潰されそうになっていると、美優紀は勢い良く俺を抱きしめ、耳元でこんな事を囁いたのである。

「本当に、無事で良かった......」

  それを聞いた俺は、次第に表情を歪ませて行き、気がつけば彼女の体を強く抱きしめて、

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 」

と、何度も繰り返したのであった。


  そしてその時、誓った。

  もう、絶対に美優紀を一人になんかさせない。不安にさせてたまるか。
  何があっても、俺が守ってやると......。


  元の世界に戻れるまでの間は、絶対に......。


  そう決意するのも束の間、背後からは嗚咽を漏らした様な泣き声が聞こえてきた。

「ヒック、ヒック......。クソ、別に泣いてなんかいないからな! 只、ちょっと暑いだけだ! あたしは魔王軍の大幹部だから、人間風情に泣いたりなんかしないぞ! なんなんだ! 早く泣き止むが良い! あたしの涙腺! バカっ! 」

  ピピィは、俺と美優紀のやり取りを見て、強く感動を抱いた様で、訳の分からない事を口にしながら鼻水や涎を垂らし、周囲がドン引きするくらい痛々しい姿で号泣していたのであった。

  そんな彼女の姿を見た美優紀は、慌てて俺の胸から離れると、こんな問い掛けをする。

「ところで、そこにいるツノの生えた女の子は、誰なの? 」

  俺は、美優紀の質問を聞くと、目元をゴシゴシと拭った後で、得意げにこう返答をしたのである。

「この幼女の名前は、ピピィ。実は、遠い国から家出をしている最中で、崖下の森の中に迷い込んでしまったらしいんだ」

  美優紀は、俺の言葉を聞くと、再び目元を滲ませながらピピィに近づき、ハンカチで彼女の液体塗れの顔を丁寧に拭いてあげたのである。

「こんなに小さな子供なのに、可哀想......」

  ピピィは、美優紀からの施しを受けると、ジタバタと暴れながら、何度も俺の説明を否定するのであった。

「だから、違うって言っているだろうが! あたしは魔王軍の大幹部で......」

  再びくだらない妄想を話し始めたピピィに対して、俺は爽やかな表情を浮かべながら、

「おいおい、あまり美優紀を困らせるんじゃないぞ......」

と、諭す様にして宥める。

  すると、美優紀は相変わらず哀しそうな顔をしながら、こう提案をしたのだ。

「きっとこの子、独りぼっちで寂しかったのよ。誰も信用出来ない程に......。さっきニルンヴァースさんが手続きを取ってくれて、今晩は客室で一泊させて頂けるという事だから、ピピィ、あなたも暖かい布団で共に眠るといいわ......」

「だから、あたしは!!!! 」

  そんなピピィの心の叫びに全く耳を傾けない俺は、彼女をもう一度抱き上げると、

「ニルンヴァースには、お礼を言わなければならないな」

と、小さく呟き門の中を潜って行くのであった。

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