ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第8話 魔族と仲良くなった!

ーーーーーー

  俺は今、生きる希望に満ち溢れている。
  今さっきまで感じていた絶望とは裏腹に......。

  何故ならば、先程、実は只の中二病ではなく、この世界の人々が恐れおののく魔族だった幼女が繰り出した闇のフレアを受けた時、俺は間違いなく『痛み』を感じたからである。この機能のみならば、感ドロイドとも言うべきであろう。


  彼女の膨大な闇に包まれた瞬間、俺の胸元にチクっと針で刺された様な微弱な痛みを、最高精度を誇る俺の悶絶センサーが見事に感知する結果となったのだ。

  つまり、これから先、この幼女よりもずっと強いお姉さん魔族に鉢合わせた時、俺はより一層、激しい屈辱を味わえるという訳だ。

  魔族相手ならば、取り繕う必要なんて何もない。
  解放感丸出しで喘ぎ倒してやるわい!!


  ガハハ!!
  たまらねぇ......。


  ザマァミロ、『無痛のスキル』よ!!
  貴様の未完成な性能に、俺の願いが勝ったんだからな!! 爺や、祝いの品を持って来なさい!!

  なんなんだ、この充実感は。爽快感は。達成感は......。
  今なら命の恩人である、この魔族の幼女を一生養ってもいいという気持ちにさせられる。

  それ程の恩を感じているのだ。

  何なら、今から普通二輪の免許を取った後で、アメリカンバイクの背中に彼女を乗せて感謝の意を込めつつ、温泉にでも連れて行ってやりたい。
  蟹だって、伊勢海老だって、好きなものを腹一杯に奢っちゃる。


  アイラブ苦痛! ビバ痛み! 今なら最高のリリックを書ける気がするぜ。


  俺がそんな事を考えながらニタニタとしていると、すっかり落ち着いてその場に座り込んでいる魔族の幼女は、こんな問いかけをした。

「何を、ニヤニヤしておる」

  彼女の発言でとりあえず冷静さを取り戻した俺は、さっきまでの事を思い出す。

  最初、幼女は俺に対してかなり怯えていた。
  どうやら、これまで人間を相手にあの技で殺せなかった事など、一度も無かったらしい。

  それが故、「どうしてこの男は生きているんだ」と、焦りを抱いたとか。

  しかも、俺は嫌がる彼女に「話が聞きたい」と、何度も頭を下げたのだ。

  それでやっと、その場に座り込んでくれた訳であり......。


「まあ、あれだ。痛みを感じた時、普通の人間に戻れた気がして、本当に嬉しかったんだよ」

  俺がそう発言すると、それを聞いた幼女は「ふぅん」と、無愛想に頷いた。

「どちらにせよ、貴様が突然、『無痛のスキル』が覚醒したという話は、よく分かった。あたしが繰り出した、全てを破壊する闇の詠唱魔法を受けても、ほぼノーダメージだったんだしな......」

  彼女はそう付け加えると、一つため息をつく。

  
  闇のフレアとは、相当強い魔法によって繰り出される代物らしい。
  それは、幼女が悔しそうに語った一言が物語っていたのだ。

  俺は、そんな幼女に対して、逆にこんな質問をした。

「ところで、お前は魔族だと言っていたな。それならば、やっぱり魔王とは何か繋がっていたりするのか......? 」

  何となく聞きたくなった事を口にすると、幼女は大きくため息をついて、不敵な笑みを浮かべながら、

「貴様、本当に何にも知らんのじゃな。まあ、あたしを知らない時点である程度は察していたが......。じゃあ教えてやるよ!あたしは、魔王デミオール様に仕える十三いる大幹部の一人、『屈辱』の肩書きを持つ、ピピィだ!! 」

と、勢い良く立ち上がってポーズを決めながらそう名乗ったのである。


  俺は、そんな彼女の発言に、悪寒がした。やはり、このピピィと名乗る幼女は、後戻り出来ない程の中二病なのではないかと。

  確かにそこら辺にいた魔獣よりは、遥かに強いのは事実だ。

  だけど、魔族に関して、俺はまだピピィとしか戦った事がない。

  つまり、通常の魔族がどれだけの能力を持っているかなんて、全く分からないのだ。
  もし仮に、子どもの魔族がこれくらいの力を当たり前に扱っているとしたら、彼女は凡人。

  凡人が背伸びをして、ある事ない事ベラベラ喋っている可能性の方が今は遥かに大きい様に感じられる。

「いや、全くそんな風には見えないんだけど」

  彼女は冷静に放たれた俺の一言を聞くと、苛立った顔をしながら必死にその偉大さと信憑性を説明し出したのだ。

「まず、これを見ろ! これは、あたしが大幹部である証を示すカードじゃ! 」

「いや、俺、まず字が読めないし」

「ならば、あたしの腕を見ろ! これこそ、魔王様自らが十三人にしか与える事が許されぬ、魔族ならば誰もが憧れる腕章だぞ! 」

「だから、まずその腕章の貴重性なんて知らんし」

「あたしの頭にツノが生えておるじゃろ! これは、屈強で由緒正しき魔族にしか生えない伝説のツノなのだぞ! 」

「へぇー、そーなんだ。初めて知ったよ」

  そんなやり取りを続けて行く内に、ピピィは心をポキっと折られ、その場に膝をついて地面に拳を打ちつけながら、絶望にも似た表情を浮かべていた。

「貴様は馬鹿なのか......? 何故、伝わらぬ......」

  俺は、そんなピピィを見ていると、少し不憫になった。


  まだ幼いのに、中二病を患うなんて、本当にかわいそうだ......。


俯く彼女の肩にそっと手を当て、こう励ましたのである。

「まあ、落ち込むなって。魔王軍の幹部っていう設定なのは分かったから。将来、自分のおかしな行動を思い出して悶絶する前に、そんなごっこ遊びはやめたほうがいいぞ。まだ間に合うから。」

  俺がそう労いの言葉をかけると、ピピィは激しく怒りを露わにしながら、こう叫んだのである。

「だから、本当なんじゃー!! 」

  彼女はそう雄叫びを上げると、その後に半ベソの状態から立ち直って、こんな事を言い出した。

「まあ、良いわ。どちらにせよ、あたしは魔王軍幹部をもう辞めようと思って、魔王城から遠く離れたこの場所まで逃げてきたのだからな」

  幼女のそんな強がりに対して、俺は心の底から哀れみを感じた。

「そうだったのか......。つまり、家出ってヤツだな。かわいそうに......。それならば、これからは俺と共に行動しないか? 一人寂しく生きているのなんて、辛いだけだろ? 」

  俺は先程、痛みを呼び起こしてくれたお礼を含めて、ピピィにそう提案をしたのである。

  すると、彼女は「くだらない事を言うでない」と、その場から去ろうとするのだ。

 
 「全く、困ったお姫様だぜ......」

  俺は、人生で一度で良いから言ってみたかったランキング第五位の一言を呟くと、ピピィの小さな体をお姫様抱っこした後で、そのままスタスタと歩き出したのである。

「どこへ向かうつもりじゃ! 早く降ろせ! 」

  そんな風に、俺の腕の中で暴れ倒す彼女に愛おしさを感じながら。彼女は、素直じゃないなぁ。子どもは、もっと正直に生きるべきである。

「うん、ちょうど、俺も人を待たせていてな。さっきまでの哀しみが消え去った以上、あいつに会わなければならないんだ。だからこれから、崖の上にある英雄候補の学校に戻るんだよ」

  俺がそう発言すると、ピピィは更に抗った。

「魔族が人間の、しかも、魔王討伐の為に作られた軍人学校に行ける訳がないだろうが! 」
 
  だが、そんなピピィの言葉は、悠然と夜の星へと消えて行った。

「はいはい、そーだね」

  俺は、恩人に報いたい。だから、まだ成長過程である彼女を精一杯養って、何処へ行っても恥ずかしくない程、立派な大人へ成長させると誓った。

  俺のマゾヒスティックヒストリーに終止符を打たずに済ませてくれたピピィの為に。

「今宵の月は、綺麗だぜ......」

  そんな、俺の言ってみたかった言葉ランキング第四位の一言を口ずさみながら、俺は美優紀の元へと足を進めるのであった。

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