ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第7話 神殿に幼女がいるぞ!

ーーーーーー

  俺は、この捌け口のない絶望から逃れる為に、森を彷徨い続けた。

  ところが、先程、俺が心の叫びを思い切り声に出した事によって、森の中にいる魔獣達が続々と現れて来るのであった。

  それはまさに、一歩進めば、別の、また別のといった形で、大蛇とか、猪とか、熊など、バリエーションは豊富であったのだ。


  奴らの食に対する貪欲さには、感銘すら受ける。
  俺が貪欲に虐められようとするのと、同じだ。
  ある意味、拍手を送りたい事案ではある。


  どちらにせよ、早く逃げれば命だけでも許してやろうとは思うのだが、魔獣共は意地でも俺を食べてやると言った雰囲気で、何度も何度もしつこく纏わり付いて来るのであった。


  ハッキリ言って、めちゃくちゃ邪魔くさい。
  まるで、夏の暑い日に誰もいない自宅の窓を全て閉めて、SM情報誌を読みながら熱中症ギリギリごっこをしている時にハエが入って来てしまった様に......。

  だからこそ俺は、奴らをボコボコに殴る事で、その鬱陶しさから逃れるのであった。

「どうせ、何をやっても死ねないんだ......。じゃあ、俺はこれから、ゆっくりと枯れていくだけなのかな......」

  そんな事を呟きながら歩いていると、真っ暗闇の森の先にはやけに開けた場所がある事に気がつく。

  俺は何となく気まぐれで、そこへと進んで行ったのだ。

  
  すると、目の前には、随分と前に朽ち果てた事がすぐに分かり、緑色の植物が所々侵食している古い神殿が現れたのである。

「なんだ、ここ......」

  俺は、そんな事を考えながらも、ぼんやりとした意識の中で、一歩、また一歩と、その神殿の方へと近づいて行ったのである。


  だが、その時、俺の背後からはこんな声が聞こえたのである。

「貴様、よくも我が下僕を倒してくれたな。この場所に足を踏み入れる事、それが何を意味するか分かっておるのか......? 」


  俺は如何にも悍ましい、まさに、悪意の塊で出来たかの様な不気味な声に、一瞬だけビクッとした。

  更に何が不気味かって、今さっき放った悪意丸出しの言葉とは似ても似つかない程に幼い声だったからである。


  そして、俺は薄暗がりの中、月明かりを頼りに声の主の方を振り返ると、思い切り苦笑を浮かべたのである。


ーーだって、目の前にいるそいつ、何処からどう見ても、小学生にしか見えないくらいの幼女なんだもの。


  全身サイズオーバーである真っ黒なマントに身を包み、金髪のショートボブに、紫色の瞳、頭部には作り物っぽい二本のツノが生えていて、俺が先程まで妄想していた魔王像をより幼くした様な感じだ。

  しかも、なんだか滑稽に思える。
  まるで、一生懸命に間違った大人の姿を演じ、無理に頑張ってる感丸出しの、正直こちらが恥ずかしくなってしまう程に中二的な痛々しい雰囲気を醸し出しているのだ。

  昔、組織の一員という設定に基づいて一人で深夜に廃工場へ忍び込み、足を思い切り捻挫して苦しんだ心の古傷が、鮮明に蘇って悶絶しそうになった。

  俺は、その痛い幼女が何かの冗談でも言っているのだと思うと、ゆっくりと近づいて行って頭を撫でた。

「おいおい、拗らせてしまうのは、お兄さんも経験あるからよく分かるよ。でも、こんな夜に子ども一人で森の中へ出歩くなんて危険だよ。早くパパとママのいるお家へ帰りなさい」

  俺が優しい口調でそう諭すと、幼女はサイズオーバーで余りに余った袖を思い切り振り回しながら顔を真っ赤にして、

「な、何を言っておる! 貴様、あたしを見て、恐怖に慄かないのか?! 私は魔族だぞ! 人間の敵なんだぞ! 」

などと、相変わらず痛い発言を繰り返しているのであった。

 
  かわいそうに、これはだいぶ重症だ......。


  俺は、自分が痛みを失い絶望を味わっているだけに、これから先、他人には悲しんで貰いたくないという親心とも似た良心が芽生えたのである。今ならまだ黒歴史にならずに済むのだから。
  だからこそ、その幼女の腕を優しく掴んで、こう促したのである。

「うん、分かった。それは大層な事だな。じゃあ、お兄さんが一緒に付いて行ってあげるから、早く帰ろうか......」


  しかし、俺がそう言って足を進めようとすると、彼女の全身からは、先程の魔獣など比にならないくらいの闇のオーラを、神殿の先の森まで包み込む規模で展開したのである。

「貴様......。あたしはもう許さないぞ......。こんな屈辱は初めてじゃ......」
  
  幼女は激しく怒りを露わにすると、紫色の瞳を妖しく光らせながら、俺を思い切り睨みつけていた。


  もしかして、こいつ、本当に......。


  俺がそう思うのも束の間、幼女は萌え袖から両手を出すと、小さな声で呪文を唱え始めたのである。

  同時に、彼女の手元からは紫に煌めく魔法陣が現れたのだ。

  そんな彼女は、きっと俺に向けてかなり強力な詠唱魔法を繰り出してくる事を、すぐに理解した。


  ならば、受け止めてみようと思う。
  俺は今、残念ながら『無痛のスキル』によって、痛覚を失った。

  でも、どうやら先程の魔獣より、遥かに強い攻撃が来るのは本能的に分かる。
  もしかしたら、あの幼女が放つ魔法ならば、俺は痛みを感じられるかもしれないのだ。


  だったら、試す価値ありだ。

  俺はそう思うと、逃げる素振りを一つも見せずに、まるで闇に飲まれるかの様に両手を広げたのだ。

「やっと、自分の浅はかさに気がついたようじゃな! ならば、死ぬが良い! あたしが闇に葬り去ってくれるわ!! 」

  幼女は、そう高らかに笑いながら叫び声を上げると、両手から大規模な闇のフレアを俺に向けて放ったのである。
  それに伴い、激しい轟音が響き渡る。


  しかも、彼女の放った魔法勢いは凄まじく、半径百メートル程の森林や神殿は、闇の中に飲まれて行き、その場所は、まるで最初から何もなかったかのように綺麗さっぱりと更地へと変化したのである。

「人間風情の雑魚が。あたしを子ども扱いするからじゃ......」

  幼女はそう呟くと、小さくため息をついた。
  
  それから彼女は、一つ伸びをした後で、その場から立ち去ろうとした。

  
  だが、そんな時、俺は彼女に向けてこう言い放ったのである。

「まさか、本当に魔族の類だったとはな......」

  幼女は、俺の放った一言に対して慌てて振り返る。

  そして、こんな事を呟いた。

「あれは、あたしの必殺技だぞ......。それだけの攻撃を受けて無傷など、絶対にありえない......? 」

  幼女が驚愕といった表情を浮かべているのを見た俺は、震えている彼女の元へとゆっくり近づいて行った。

  ほんの少しだけうすら笑みを浮かべながら......。

  俺が一歩、また一歩と近づく度に、幼女は後ずさりして行く。戦慄に怯えながら。

  そして、恐れる幼女の目の前まで辿り着くと、俺はこう言い放ったのである。

「本当にありがとう。俺に生きる希望を与えてくれて......」

  俺が涙を流しながら呟いた感謝に対して、彼女はまるで狐につままれた様な顔をしていた。

「えっ......? どういう事? 」

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