ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第4話 浮遊霊にはなりたくない!


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「まあ、とりあえず見るが良い! ここが我々の本拠地だ」

  何かを疑ってか殆ど会話のないまま、約三十分程かけて郊外の方まで歩いて行くと、得意げにペニャが指差したその場所を見た俺と美優紀は、衝撃を受けた。


  何故なら、目の前に飛び込んできた巨大な門を通り抜けると、某野球ドーム数十個分はある広大な敷地が広がっていたからだ。

  遠くでは多くの騎士や魔法使いと思われる者達が訓練に勤しんでいるのが見て取れる。

  俺は、この場所が軍事施設である事を理解する。

  更にその中心には、十階建てはあろう、巨大な建造物が俺と美優紀に挨拶せんと言わんばかりに堂々と聳え立っていた。

  まるで、如何に自国が強大な力を持っているか見せつける為に造られたのでは、という印象を受ける。


  俺は、そんな日本における非現実的な光景を目にすると、圧倒されて言葉を失った。
  普段、煩悩と中二病が混沌とする十六歳の童貞にとっては、余りにも衝撃的なものであった。

  さっきまで、暴れん坊な将軍様となってしまい、主人である俺ですら手を焼いていた我が愛しの息子レオンも、そんな景色を前に、すっかり大人しくなっていた。

「こんな場所があるなんて......。私、びっくりだよ。軍隊なんて、非現実的過ぎて......」

  美優紀が呆然としながらそう呟くと、ニルンヴァースは腕を組んでフフっと笑いこう言った。

「顔つき、髪の色からして異国の方とは思っておりましたが、あなた方は随分と平和な国家で生まれ育ったのですね。もしかしたら貴族か何かですか? 」

  彼女がほんの少しだけ小馬鹿にしたように発言したその一言に、俺は息を荒げた。


  やはり、ニルンヴァースお姉様の資質はピカイチみたいだな。これは、かなり期待できそうだ。ナチュラルドSの可能性を感じる。

  まさに、ダイヤモンドの原石だ。貴方は真っ黒に輝くブラックダイヤモンドだ。


  そんな風に妄想に妄想を重ねて興奮していると、彼女は続けてこう言った。

「でも、私達はまだ正式に軍に入った訳ではありませんよ。将来、立派な軍人になる為にも、ここで勉強をしておるのです」

  ニルンヴァースが発言したその言葉から、どうやらこの施設は軍事学校の類である事がすぐに理解出来た。

  つまり、彼女達は俺と同年代であろう。
 
  ならば、そんなに気を使う必要は無さそうだし、気兼ねなく失礼な事を言えば、割とあっさり怒ってくれるだろう。

  それに、俺達の事を異国人と呼んでいた辺り、上手く立ち回れば他国のスパイだなんて思って下さるかもしれない。そうすれば、拷問なんていう選択肢すら生じる。

  ニルンヴァースお姉はんの様な美しい方に鞭で打たれ、足蹴にされ、挙句、三角形の鋭利な椅子なんかにも座らされるかもしれない。

  それから、人以下の扱いを受ける。

  両手両足にはロープを縛られて奪われた自由の中で、流れる怒号。
  日々、増えて行く生傷に、痣。


  んー、想像するだけでたまらん。酒など飲んだ事はないが、そんな想像だけで一晩飲み明かせそうだ。


  まさに、リア充。リアルの充実。理想の生活。
  多くの人々が夢のマイホームと言う理由が今はよく分かる。

  思い立ったら吉日だ。
  まずは早く相手に不信感を抱かせねば......。


  そう考えて、作戦を行動に移す為、口を開こうとすると、ペニャは真っ赤な髪を少しつまんだ後でこんな事を呟いた。

「まあ、我が国家、『キュリル王国』は魔王軍との小競り合いが絶えないからなぁ......。自ずとこの学校にも、世界中から優秀な英雄候補が集まって来るんだよ」


  ペニャからの発言を聞いた俺は、一度考え直した。

  何故ならこの世界では、人と人との戦いではない事がよく分かったからである。

  つまり、彼らにとっての敵は、RPGなどで良く見る魔王なのだから。

  ということは、俺のスパイ作戦は、どうやら何かの冗談と捉えられ、失敗に終わってしまうであろう。

  だから、彼女達は俺と美優紀の事を簡単に受け入れたのだ。


  ペニャは赤髪に真っ赤な瞳。ニルンヴァースお姉様も同様に。

  まあ、普通に考えれば、目の色も髪の色も顔つきも違う、異国人丸出しな俺達に疑惑を持たない時点で察するべきであった。

  なんだろう、肩透かしを食らった気分である。


  それに、魔王となんて絶対に関わりたくない。

  強大な力を持ってしてこの世の掌握かなんかを企てたりしてそうだしな。


  何より、どうせ男だろ。
  男に傷を負わされて、挙句殺されるなんて、考えただけで虫唾が走る。何の得もない。誰得だよ。

  きっと頭にはツノなんか生えてるんだろうな、通販でしか売って無い様なカッコいい真っ黒なマントとか着ているんだろうな。

  『漆黒の闇へ堕ちるが良い!! 』なぞという決め台詞なんか我が物顔で言うんだろうな。それは、結構カッコいいけども。

  まあ何にせよ、腹立たしい。

  どうせ毎晩、美しいレディを無理やり抱いたりして、高笑いを決め込んでいるんだろうな。

  まさに、俺と対照的。
  男のドSなんて、需要が無いんだよ。もう一度言おう。だからそれは、一体、誰得なんだ。

  そんな奴に殺されてしまったら、俺は無念の気持ちから、浮遊霊として永遠にこの世を彷徨って成仏出来ないだろう。

  それから伝説になるんだ。
  あの霊は、常にニヤニヤとして気持ちが悪いと。

  村と村を行き来している途中の女性と遭遇した場合、俺のR指定スマイルに対して「この、変態お化け!! 」なんて罵詈雑言を浴びせられるんだろうな。体の感覚が無いのが問題なんだが......。


  まあ、それはそれで悪くないなぁ......。
  卑猥霊とか、変質霊などの造語がこの世界の辞書に載るかもしれない。

  うん、それはそれで悪くないかも......。


  いや、待て!!
  何を考えているんだ、佐藤幹雄、十六歳、乙女座、童貞万歳!!

  生身の人間であるからこその快楽であろうが!!


  そんな風に葛藤を繰り返していると、美優紀は俺の事を見つめて苦笑いをしていた。

「いきなりどうしたの......? なんか、物凄く深刻な顔をしていたよ」

  俺は美優紀の質問で我に帰ると、一つ咳払いをした。

「いや、本当に魔王なんてものが存在するなんて、驚いたもんだなって思っただけだよ......」

  それを聞いた彼女は、あからさまに弱々しい表情を見せた。

「うん......。なんか、本当に危ない世界なんだね。私、なんか怖いよ......」

  先程まで俺を励ましていた筈の美優紀の目元は潤んで、ほんの少しだけ長いまつ毛は湿っている様にも思えた。
  まさに、不安のふた文字がピッタリな雰囲気である。

  普通の高校生が突然、魔王の存在する危険な世界へ転移すれば、大概の人が同じ反応をするだろう。

  それにしても、そんな美優紀の顔を見ていると、気が引けた。

  彼女から感じる恐怖や哀愁には耐えかねた。
  俺を励ます為に無理をしていたのも良くわかっていたから。
  きっと、本当は弱気な子なんだろう。

  電車の中で俺を庇った時だって、彼女の手が震えていた事を見てしまったからこそ余計に......。

  だからこそ、俺はニコッと笑うと小さな声で、

「俺だって怖いのは事実だ。だけど、こうなった以上、仕方がない。危機に遭遇する前にとっとと元の世界に帰る方法を見つけ出そうぜ」

と、子猫の様に体を丸める彼女を元気づけた。

  すると、俯く美優紀は、一度深呼吸をした後で、力強い表情へと変化して、俺の両手を掴んだ。

「そうだね! 私も一人じゃないし、幹雄だっている! 早く元の世界へ帰ろう! 」


  そんなやり取りをしていると、気がつけばニルンヴァースとペニャの二人は既に少し先にある巨大な施設の入り口の方まで進んでいた。

「まあ、何にせよ、詳しい話は腰掛けてゆっくりとしようではないか。入りたまえ! 」

  ペニャが明るい口調でそう言うと、俺と美優紀は慌てて二人の後を追うのであった。

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