ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

第3話 俺のレオンが収まらない!

ーーーーーー

  すっかり泣き止み正常な思考回路を取り戻した俺は、美優紀と共に街を歩いて情報収集をする事となった。

  それと共に、新たな仕打ちを求めている自分がいる。そう、俺は最高にポジティブなマゾヒストなのだ。

  どうやら先程の一件により俺と美優紀はすっかり街の有名になってしまった様で、すれ違う人々はヒソヒソ話をしながら軽蔑の眼差しを向ける。

  俺はその一つ一つを頭のメモリー容量の限界までインプットするのだった。

  今にも朽ち果てそうな老女から、まだ年端もちかない幼女まで、バリエーションは豊富である。


  oh......何て、羞恥プレイだ......。街をあげての仕打ちなんて......。


  だが、やはり最高のご褒美というのは、嗅覚、味覚、そして、痛覚を伴って初めて快楽へと変わる物だ。

  青春だってそうじゃないか。

  彼女と海辺で夕焼けを見つめた時、仄かに香る潮の香り、思いの外小さかった手の温もり、静かにさえずる波の音、そっとくれたミルクティーの優しい味わい。

 そんな風に思い出とは、人間に兼ね備えられた多くの感覚から生み出されるものだ。


  つまり、それを五感全てで感じられれば、思い出は膨らんで行くのである。

  そこに、俺の超変質的ドMスキルが発動する事で、思い出は鮮明なアートに変わって行く。
  何もないキャンバスを色鮮やかな風景画へと変えて行く。記憶のアートデザイナー。

  まさに、キング・オブ・マゾ。
  某キングオブポップスさんもびっくりな程に。


  それに比べて何なんだ、この女は。


  容姿端麗、整えられたロングヘアーに、校則通りしっかりと着こなした服装。潤んだ褐色の瞳。

  その中でも一番気に食わないのは、先程見せた突き抜けた優しさだ。
  何で、会ったばかりの俺に対して、ここまで真摯に向き合えるのだ?
  
  もしかしたら、一目惚れ......?
 
  そんなあらぬ自意識過剰を見せつけたものの、もし仮にそうだとしても、俺は丁重にお断りします。


  だって俺のタイプは、常に命令口調で、粗暴で、気の強そうな女だ。

  ベネツィアの仮面にボンテージなんか付けてくれちゃったりしたら、それこそ極上の贅沢であろう。ナポレオンのブランデーもびっくりだ。

  そんな事を考えながら、美優紀の暖かい手の温もりを感じていた。

  俺はその手をすぐにでも解きたい衝動に駆られて、美優紀の方に目を向けている。飽くまでも紳士な表情で。
 
  すると、そんな俺の視線に気がついたのか、彼女は頬を真っ赤に染めて俺の手を離した。

「ご、ごめんね。まだ、落ち込んでるのかなって思ったから。少しでも力になれたらって、思わず手を握っちゃった...... 」

  彼女から感じる可愛らしい照れを見た時、俺は静かに目を逸らした。先程考えていた事を忘れて、一瞬だけドキッとしたのは事実ではある。

  だが、その感情は街を流れる風に乗って、宙へと舞っていったのである。

  ごめんよ、実は俺、相当やんべぇ奴なんだよ。痛みや恥じらいを快楽とする変態なんだ。


  そう思うと、今起きているテンプレの様なラブコメ展開にすら罪悪感を感じるのであった。


  そんな時、女の叫び声が聞こえた。


「おい!! 貴様、待てっ!! 」

  俺達のいる路地の少し先で聞こえた叫び声は、どんどんと近づいてきた。

  どうやら口調から察するに、女はかなり怒っている事がすぐにわかる。
  しかも、憤慨レベルで。

  それと同時に、俺達の横を、一人の少女が息を切らしながら走り去って行った。


  周囲では悲鳴が聞こえる。
  何が起きたのか分からないが恐怖に怯えているのは事実である......。


  何と無くではあるが、この街の人々は、あの少女を知っている様な気がする。
  それを象徴する様に、今歩いている大通りからは、俺達を除く多くの人が一目散に逃げ去っていたのだから......。
  
「なんか危なそうだし、私達も逃げるよ! 」

  美優紀はそう言うと、再び俺の手を引っ張り、近くの裏路地へと逃げて行くのであった。

  そして、先程の叫び声の主が、物凄い勢いで少女を追いかけている。


  俺は、建物の影からその女の容姿を見た時、思わず見惚れてしまった。


  何故ならば、彼女はタイトな軍服に身を纏い、如何にも気の強そうな巨乳のお姉さんだったからである。

  走るたびにけしからん胸は揺れ、何よりも、鬼の様な形相を浮かべているのが、たまらなく良い。

  その素晴らしきプロポーションのお姉さんは、周囲の人々がいなくなった事を確認すると、俺達のちょっと先に立ち止まり、少しずつ遠くなって行く少女に向けて小さな声で呪文らしき言葉を詠唱し始めた。


  すると、彼女の周りからは青いオーラが湧き出す。
  周囲を巻き込み、これでもかと言いたい程に、真っ青な......。


  俺はそれを見ると、衝撃を受けた。

  どうやらこの世界には、魔法の類が存在するらしい。空想の産物であった筈の物が、この世界にはあるのだ。

  さりげなく中学時代に中二病を患った経験のある俺からしたら、それは理想であった。
  
  超カッケー......。しかも、あんな淫らなお姉さんが魔法を使うなんて......。

  そんな事を考えていると、俺の中で最高のアイデアが浮かんだ。


  逃げる少女を助けるという名目で、あの魔法を受けてみるというのはどうだろうか......?

  強気な顔つきの巨乳美女が放つ魔法。

  下手したら死ぬが、めちゃくちゃ痛気持ち良さそうではないか!
  我が人生に一片の悔いなしである。

  しかも多分ではあるが、彼女の服装から察するに、この世界にある国家の軍人であろう。

  ということは、もし仮に生きたとしても、俺は少女を助ける事によって、共謀などの罪に掛けられる筈だ。

  そして、その結果、自白させる為の拷問を受ける事になるだろう......。

  あわよくば、あの巨乳のお姉さんから......。


  あゝ、神よ。この機会を与えて下さって、感謝の言葉しか出てこない。


  そう考えると、俺は隠れていた裏路地から身を投じ、魔法を放つ寸前まで来ているお姉さんの前に大の字で立ち塞がった。

「幹雄!! 危ないから、行っちゃダメだよ!! 死んじゃうから!!  」

  そんな美優紀の注意の言葉を軽く横に受け流し......。

  そして、お姉さんは一瞬慌てた表情を見せたが、時すでに遅し、狙い通り。

  彼女の両手からは神々しいまでに真っ青な水のビームが放たれた。


  俺は思う、この世界に来て良かったと。

  今丁度、俺の体には大量の水属性の魔法が俺を襲っている所である。


  こ、呼吸が出来ない......。

  これが俗に言う、『水責め』ってヤツか......。

  だが、あれだけの攻撃だ。


  少しは痛みを感じても良いのではないか?


  否ァ!! これはきっと、痛みを通り越した何かなのだ!! 
  そう、マラソンランナーが疲れを通り越して気持ち良くなるのと一緒。


  そう考えると、反り立ってくるぜ!!


  後からジンジンと俺の体を痛みが支配してくれるであろう......。むしろ、死んでもいい。


  俺はそんな風にあらぬ妄想と共に、ギンギンになるのであった。


  そして、巨乳のお姉さんの攻撃は収まった。


  俺はそれを確認すると世界で一番幸せそうな笑みを浮かべる。


  さあ、間も無く激痛と言う名のご褒美が俺をお待ちかねですっ!! 


「さあ、来いっ!!!!  」

  俺は周囲など全く気にする事もなく、高らかに両手を広げ、そう叫んで見せた。


  すると、目の前の巨乳お姉さんは、その場に崩れ落ちる様にして膝をついた。


「突然の事故とは言え、あなたは何故、無傷なのですか......? 」


ーーハッ......?

  この女、一体何を言っているんだ?

  今、お前が与えたダメージはしっかりと俺が受け入れたではないか。

  そう思いながらも、呆然とする彼女を横目に自分の体をさすってみた。

「って、えっ!? 」

  あんな大層な水責めを受けておいて、俺の体は全くの無傷だったのだ。


  しかも、濡れていた筈の体も綺麗に乾いていて......。


  俺はポカーンとしながら、美優紀の方を見た。

  多分、俺が死んだと思い泣いていたのであろう、目を真っ赤にした美優紀も、狐につままれた様な表情を浮かべてこちらを見つめている。


  そして、美優紀と俺は同時に首を傾げた。


「えーーーーっ!? 」

  俺と美優紀は驚きを隠せない。

  だって、痛くも痒くもないんだもの、俺。

  そんな風に二人で顔を合わせて驚きを前面に出していると、先程まで逃げていた小さな少女が、神妙な表情で俺達の近くにやって来た。

「お前、もしかしたら『無痛のスキル』持ちか?! 」

  俺はそんな彼女の言葉に、再び首をかしげる。

「『無痛のスキル』って......? 」

  俺の問いかけに失望したのか、彼女は小さくため息をついた後で、こう答えた。

「何も知らねえんだな、そのスキルは、如何なる攻撃も全て無効化にするんだよ。しかし今、それが使える奴って誰もいねえ筈だが......。」


  俺はそんな彼女の困惑の表情を見ると、一瞬で現実に引き戻された。

  少女の発言から察するに、俺はもう、痛みを感じる事が出来ない体になってしまったって事か......?


  いや、でも、まだそれが『無痛のスキル』たる物と決まった訳ではない。

  そんな風に俺が冷や汗で苦笑いを浮かべていると、少女と巨乳のお姉さんが俺達に近寄って来た。

「先程は、ご迷惑をお掛けしました。私、ニルンヴァースと申します。」

  巨乳のお姉さんがそう自己紹介をすると、隣にいる小さな少女も続ける様にして、

「あたしは、ペニャ!! 詫びも兼ねて、うちの施設まで来てくれねえか?! すまねえが、あなたには少し聞きたいこともあるしな」

と、俺達に謝罪を口にした後で彼女らの施設に来る様に促された。


  てか、この二人、仲間だったのかよ......。


  俺はそう考えながらも、飽くまでも常識人を気取って、

「まあ、こちらも色々と詳しい話も聞きたい。とりあえず伺いたい所ではあるな」

と言った後で、美優紀の方を見た。


ーーだが、美優紀は顔を赤らめて俺から目を逸らしている。


「いきなりどうしたんだ......? 」

  俺がそう彼女に疑問を投げかけると、美優紀は小刻みに震えながら、低いトーンでこう呟いた。

「そ、その......。生と死の瀬戸際での条件反射だから仕方ないとは思うんだけど、その下半身、なんとかしてくれないかな......? 」

  俺はそんな彼女の発言の後で自分の下半身に目をやった。

  すると、俺の可愛い息子、レオンが、ズボンの上からも確認できる程、禍々しくいきり立っていた。


  俺は、それに気がつくと、一瞬だけ慌てた素振りを見せた後で、腰をかがめた。


  そして、一言呟く。

「すまん、条件反射だからな......」


  ただ、美優紀が俺のレオンを見た後の口調は、なかなか悪くはなかった。

  これからは俺から鎌をかけるのも悪くないかもしれんな......。

  そんな風に思いながら、先に歩いているニルンヴァースとペニャの後をついて行くのだった。


ーー繁殖期が到来した可愛いレオンを気遣って、腰をかがめつつ......。

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