ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。

暗喩

プロローグ キッカケはいつも一つ!


ーーーーーー


  俺は、普通じゃない。


  そんな事実を痛々しい程に自覚させられたのは小学校五年生の七月、まるで日差しがコンクリートすらも溶かしてしまいそうな暑い日の出来事だった。

  まだ、胃の中に給食のコッペパンが残った体育の時間、俺のクラスでは男女混合のバスケットボールが行われていた。

  比較的運動神経の良かった俺は、同じチーム仲間からボールをパスされると、チラッと目の前を見つめた。
  その視線の先には、当時好きだったクラスの女の子が俺のリバウンドしたボールを奪おうと飛び込んで来たのである。

 すかさず俺は、彼女に少しでも良いところを見せようと、ボールを掴んだ後すぐにしたり顔を決めながら、悠然と着地をしたのだ。

  心の中では、「決まった!! 」なんて、決め台詞を吐いてみたりもした。
  「カッコイイ!! 」とか思われてる事を期待しながらも......。


ーーだが、そんな俺の独善的な振る舞いを一瞬で打ち消すか様に、彼女の体は制御機能を失ったまま勢い良く目の前に飛び込んで来たのである。


  これがもし仮に、漫画やライトノベルの類であるとするならば、彼女は俺を押し倒し、不意の接吻という結果になり、頬を赤らめていたに違いない。


  しかし、現実はそう上手くは行かなかった。


  俺の目が彼女の姿を鮮明に映したのも束の間、少女のか細い右肘は、見事に寸分の狂いもなく俺の、いや、全人類の急所である顔面へとクリーンヒットしたのであった......。


  それと同時に、左頬からは鈍器で殴られた様な強い痛みを感じたのである。
  痛い、苦しい......。


ーーだが、そんな状況の中で、俺の心の奥底からは全く違う感情が芽生えたのである。一瞬で大樹となって......。


  彼女の柔らかい筈の腕、真っ白な肌。仄かに香るシャンプーの匂い、少し汗ばんだ体操服。
  寸前に見たバスケへの情熱が伝わる真剣な視線、今現在感じている悶絶する程の痛み。

  俺はそんな風に今ある出来事を脳内で一つ一つ埋め込んでいった時、自分が出した結論に、こんな疑問を抱いた。


ーー「あれ......? めちゃくちゃ気持ち良いじゃないか......」


  それは、産まれてから今まで一度も感じた事のない『快楽』だった。

  不意打ちとは言え、好きな子から受ける叱咤激励がこんなにも素晴らしいなんて......。

  例えるならば、甲子園決勝、九回裏に逆転満塁ホームランを打った時の様な爽快感だ。

  我、ここにあり。我、覇者なり。
  そんな気持ちにさえさせられる。


  俺はそんな風に、初めて揺り動かされた快楽という名の感情に頭の上から爪の先まで支配されると、痛みなどすっかり忘れて、恍惚の表情を浮かべながら気を失ったである。

  周囲から聞こえる心配の声や、好きな子の謝罪の言葉が薄れていく中で......。


ーーその瞬間、俺は初めて自分が『ドM』である事を痛感したのであった。


「ドMな英雄候補者は、ダメージを感じづらい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く