作者ネタ切れにより「俺、幼なじみ(男の娘)と同棲します」は思いついた日常を季節関係なく書きます

煮干

4月4日(2)

「ルールは簡単、ボールが当たったら退場。ジャッチは体操着を忘れた私がします」


 堂々と胸をはるのはクラス委員長。普通なら見学プラスレポート用紙だが、今回は鬼頭先生がいない。どこか誇らしそうだが、忘れ物をしてる時点で誇れることではない。そんなこんなで試合が始まった。


 ボールを最初に手にするは、明希非公認のファンクラブ。投げる人は、巨漢の男。だが、ただの巨漢ではない。並々ならぬ重量を球に乗せ、投げる姿はまさに大砲。その威力は想像を絶する。


「では、スタート!」


 雉尾先生の合図で試合が始まる。瞬間、すぐさま大砲の主砲が炸裂した。右腕がふり抜かれるとほぼ同時に、破裂音のような音が体育館に響く。雉尾先生ファンクラブは後ろを見る。球はすでにそこにあった……。


「おい……あんなのくらったら……」


「俺ら生きて帰れるのかよ……」


 不安の声があちらこちらから聞こえる。大樹は満足そうだ。


(恐れ慄け。お前らは俺たちを相手にしたことを後悔しろ……)


 瞬間、大樹の不気味な笑いが体育館に響く。


「どうした!   お前らの愛はそんなものか!?」


「……大樹、イキっているとこ悪いが、お前たちのシンボルはそこにいる。つまり、何が言いたいかわかるか?」


 指を指す方向には明希。大樹は動揺隠せないでいた。


「おい!  死守しろ!  ボールを掠めることも許すな!」


「やれ!  竜岡!」


 ステップからのスローイング。球の威力は倍増。加速する球、狙うは敵将。


 明希は動けないでいた。もとより運動は得意としてないからだ。明希は目をつぶる。恐怖から逃れるために……。だが、球はいっこうに当たらない。それもそのはず、本部が立ちはだかった。


「命に変えても守る……」


 本部の腕の中には球。体育館にどよめく歓声の声。振り上げられる左腕。放たれる球。


「ヘナチョコだなぁ!!」


 余裕だと言わんばかりに竜岡は手を広げる。その時、本部は口角をつりあげた。


「ただのストレートだと思ったら痛い目を見るぞ……」


 メガネをあげ、勝利を確信する。瞬間、竜岡の手元で球はシュートした。


「なっ!?」


 予期せぬ変化に、竜岡は反応できない。


「竜岡!  アウト!」


 竜岡は四つん這いになり動揺する。無理もない、彼の傲慢の結果がこれなのだから。


「竜岡、お前の仇は俺がとる!」


「横島……」


 横島が差し出した手を竜岡はつかむ。この時、この二人の間で強固たる絆ができた。


「本部ェ!!  覚悟しやがれ!!」


 横島は本部を指さすと、球を投げる。サイドからの球は、斜めに進行する。的外れ、かと思いきや球は変化する。サイドからのスライダーはまるで、壁にバウンドするかのように屈折した。


「バカな!?」


 本部の予想を遥かに上回る変化。避けることは不能、体が動かない。


「本部!  アウト!」


 本部は膝から崩れ落ち、天井を仰ぐ。メガネの隙間から涙がこぼれ落ちふ。


「俺もここまでか……大樹、あとは託した……」


「わかってる。お前は休んでろ」


 大樹は本部に肩を貸し、本部を場外へと送った。


 そんな男の友情を嬉しそうな表情で見る者が一人。雉尾先生だ。今、頭で何が繰り広げられているかは触れないでおこう。


 戻ってきた大樹の目には涙。だが、ただ悲しみにくれているわけではない。仲間を失いながらも、奮然と立ち向かう意志が見れる。


「横島……俺はお前だけを許さない……!」


 助走プラス跳躍。ラインギリギリから投げおろされる一球。それは、隕石の如く横島を狙う。


 横島は雄叫びをあげる。両手を広げ、大樹の決意を受け止めようとする。


 全てがスローに動き、雌雄を決する。勝るは大樹か、横島か……。


「……横島、アウト!」


 横島は膝から崩れ落ちる。空を見て、大きく息を吐いた。


「俺の負けか……」


 清々しい顔で、潔く場外を歩みを進める。


「お前ら頑張れよ」


 残された十三人に横島は後ろ手に手を振る。
「はい!」


 体育館に響く返事。男たちは涙を流し、別れを惜しんだ。


 その後、試合は雉尾先生ファンクラブの防戦一方。明希非公認ファンクラブの勢いは止まらない。だが、雉尾先生ファンクラブは諦めない。勇猛果敢に挑み続けた。


「アウト!」


 最後の一人を大樹は射止める。そして、拳を空高く突き上げた。歓喜の雄叫びをあげ、仲間が集まってくる。まるで、甲子園で優勝したかのような雰囲気だ。対する雉尾先生ファンクラブは、互いに寄り添い、悲しみを分かち合う。しばらくして、みんなが先生の元へと集まり始めた。


 三十分繰り広げた攻防に、各々思うことはあるだろう。だが、それでも今はやらなければいけないことがある。


「それじゃあ今日の体育はここまで。皆さんごち……お疲れ様でした」


 雉尾先生が頭を下げると、みんな一斉に頭を下げる。


 この得も損もない戦いに終止符が打たれた。

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