Restart to the Game
Code:9 unknown player
《AFW》の大陸……いわゆるゲームフィールドは、端から端まで歩こうとするだけで丸3日かかるものから30分もあれば攻略出来てしまうものまで様々だ。
だが、どの大陸にも必ずその中央部には街が存在している。
街では主に武器防具の強化、ログアウトやHP・MPの全回復などが可能だ。それ故に俺は、暗闇の中を街に向かって歩いているはず……なのだが ─── 
着かない。それどころか明かり1つ見えすらしない。
歩き始めて1時間は経っているだろう。しかし現状は変わることなく、まるで終わりのない迷路をぐるぐると廻っているような気分になってくる。
何せずっと草しか無いのだ。人が1人くらいいないものかとも考えたがモンスターの気配すらしない。全てがデータで構成されているゲームに気配が存在するかは怪しいが。
するとその時。
極々僅かに、ほんの少しだけ、剣と剣の打ち合う音を俺の耳は捉えた。
条件反射的に索敵を使用する。索敵はかなり良い代物で、範囲内ならプレイヤー・モンスター・NPCの現在位置を正確に表してくれるのだ。
ウィンドウを呼び出してマップを一瞥すると、俺の通って来た部分だけが緑色になっている。それ以外の部分はグレーになっていて地形が分からないが、俺の索敵によって点が2つだけその上に浮かび上がっていた。
2つの点のうち、片方はノーマルプレイヤーを示すブルー、もう片方はモンスターを示す赤。点と点の距離は近い。俺からの距離はおよそ100メートル。そして点の方角はちょうど北側。
それらを一瞬で頭に刻み込んでウィンドウを閉じる。そして俺はすぐさまマップが示した方向 ─── 北に向かって駆けた。
果たしてマップが示していた通り、50メートルほど進んだところでプレイヤーとモンスターで戦闘が行われていた。
しかしどうやらプレイヤーの方は苦戦しているらしい。モンスターの攻撃を捌ききれずにHPが少しずつ減っている。
俺は助けに行こうかどうか迷っていたが、プレイヤーが一際大きく、弧を描いて吹き飛んだのをきっかけに助けに行くことを決断した。
猛ダッシュで残り50メートルを走り抜け、再びプレイヤーに追撃しようとしているモンスター《カダーバー》に鋭い斬撃を浴びせる。俺の相棒とも言える、ゲーム初期から限界突破をひたすら繰り返した剣『ライトビート・オブ・エミニル』はその高ステータスを遺憾無く発揮し、《カダーバー》を盛大にノックバックさせた。
そのたった一瞬で充分だった。俺の剣が青色のエフェクトを纏う。
片手剣カテゴリのLv3スキル【パニフィック・エンプレス】は、《カダーバー》の丁度首下にクリティカルヒットして残りのHPを消し去った。《カダーバー》は断末魔と赤色の光を残して消滅する。
俺の前に加算経験値とドロップアイテム ─── 『腐った肉』という不味そうな物だった ─── が表示されるが、即座にそのウィンドウを閉じて、襲われていたプレイヤーの方に向き直る。
「もう大丈夫で…………」
すよ、と言おうとしたのだが。
そのプレイヤーの顔を見た瞬間、自分でも気がつかないうちに声が途切れていた。
フードで隠れて見えなかったが、薄い月明かりに照らされた髪は何故か現実と全く同じである全体が赤っぽい黒色。瞳は深い桃色で、どちらかというと可愛い系な顔立ちのアバターに良く合っている。
それに考えてみると、髪に装備している『スカーレットリボン』は俺があげたレアドロップアイテムだ。
こうなれば、もう1人しかいない。
「…………夜空?」
問いかけると、プレイヤーもとい夜空がはっとしたように目を見開くのが分かった。
「……時雨?時雨……なの?」
「ああ」
頷くと、夜空は安心したように大きく息を吐いた。しかしすぐに恐怖に怯えたような表情に戻っていく。
「良かった……ログアウトしようとしたら、1人で、急にここまで飛ばされて……すごく、怖かった……」
こういう時の慰め方を俺は知らない。モテる奴はさりげなく手を握ったりして「安心しろ俺がいるから」的な事を言うんだろうが、もちろんそんな事が出来るはずも無く。
結局、俺が言えたのは「……街、いくか」という気遣いの欠片も無い言葉だけだった。
夜空も小さく頷いただけで何も言おうとはしない。重苦しい沈黙が辺りを支配している。
気まずい空気が苦手な俺が片足を上げた、その時。
突然背後から、ヴァーヴァーと気味悪い声が響いた。数も音量もさっき倒した1体と戦った時とは比べ物にならない。夜空が小さく悲鳴を上げた。
俺は夜空の手を掴み、そのまま後方にバックダッシュ。すぐさま前方に向き直ると、そこにはさっき倒したばかりの《カダーバー》の集団がいた。
「ちっ」
思わず舌打ちをする。何故なら ─── 
その数、10。
とてもゲームを始めて間もない初心者プレイヤーに倒せる数では無いからだ。
普通の初心者プレイヤーであれば、だが。
夜空に「少し下がってろ」とだけ告げると、俺は剣を構えてひしめくモンスターの集団に向かい殺気を迸らせた。
だが、どの大陸にも必ずその中央部には街が存在している。
街では主に武器防具の強化、ログアウトやHP・MPの全回復などが可能だ。それ故に俺は、暗闇の中を街に向かって歩いているはず……なのだが ─── 
着かない。それどころか明かり1つ見えすらしない。
歩き始めて1時間は経っているだろう。しかし現状は変わることなく、まるで終わりのない迷路をぐるぐると廻っているような気分になってくる。
何せずっと草しか無いのだ。人が1人くらいいないものかとも考えたがモンスターの気配すらしない。全てがデータで構成されているゲームに気配が存在するかは怪しいが。
するとその時。
極々僅かに、ほんの少しだけ、剣と剣の打ち合う音を俺の耳は捉えた。
条件反射的に索敵を使用する。索敵はかなり良い代物で、範囲内ならプレイヤー・モンスター・NPCの現在位置を正確に表してくれるのだ。
ウィンドウを呼び出してマップを一瞥すると、俺の通って来た部分だけが緑色になっている。それ以外の部分はグレーになっていて地形が分からないが、俺の索敵によって点が2つだけその上に浮かび上がっていた。
2つの点のうち、片方はノーマルプレイヤーを示すブルー、もう片方はモンスターを示す赤。点と点の距離は近い。俺からの距離はおよそ100メートル。そして点の方角はちょうど北側。
それらを一瞬で頭に刻み込んでウィンドウを閉じる。そして俺はすぐさまマップが示した方向 ─── 北に向かって駆けた。
果たしてマップが示していた通り、50メートルほど進んだところでプレイヤーとモンスターで戦闘が行われていた。
しかしどうやらプレイヤーの方は苦戦しているらしい。モンスターの攻撃を捌ききれずにHPが少しずつ減っている。
俺は助けに行こうかどうか迷っていたが、プレイヤーが一際大きく、弧を描いて吹き飛んだのをきっかけに助けに行くことを決断した。
猛ダッシュで残り50メートルを走り抜け、再びプレイヤーに追撃しようとしているモンスター《カダーバー》に鋭い斬撃を浴びせる。俺の相棒とも言える、ゲーム初期から限界突破をひたすら繰り返した剣『ライトビート・オブ・エミニル』はその高ステータスを遺憾無く発揮し、《カダーバー》を盛大にノックバックさせた。
そのたった一瞬で充分だった。俺の剣が青色のエフェクトを纏う。
片手剣カテゴリのLv3スキル【パニフィック・エンプレス】は、《カダーバー》の丁度首下にクリティカルヒットして残りのHPを消し去った。《カダーバー》は断末魔と赤色の光を残して消滅する。
俺の前に加算経験値とドロップアイテム ─── 『腐った肉』という不味そうな物だった ─── が表示されるが、即座にそのウィンドウを閉じて、襲われていたプレイヤーの方に向き直る。
「もう大丈夫で…………」
すよ、と言おうとしたのだが。
そのプレイヤーの顔を見た瞬間、自分でも気がつかないうちに声が途切れていた。
フードで隠れて見えなかったが、薄い月明かりに照らされた髪は何故か現実と全く同じである全体が赤っぽい黒色。瞳は深い桃色で、どちらかというと可愛い系な顔立ちのアバターに良く合っている。
それに考えてみると、髪に装備している『スカーレットリボン』は俺があげたレアドロップアイテムだ。
こうなれば、もう1人しかいない。
「…………夜空?」
問いかけると、プレイヤーもとい夜空がはっとしたように目を見開くのが分かった。
「……時雨?時雨……なの?」
「ああ」
頷くと、夜空は安心したように大きく息を吐いた。しかしすぐに恐怖に怯えたような表情に戻っていく。
「良かった……ログアウトしようとしたら、1人で、急にここまで飛ばされて……すごく、怖かった……」
こういう時の慰め方を俺は知らない。モテる奴はさりげなく手を握ったりして「安心しろ俺がいるから」的な事を言うんだろうが、もちろんそんな事が出来るはずも無く。
結局、俺が言えたのは「……街、いくか」という気遣いの欠片も無い言葉だけだった。
夜空も小さく頷いただけで何も言おうとはしない。重苦しい沈黙が辺りを支配している。
気まずい空気が苦手な俺が片足を上げた、その時。
突然背後から、ヴァーヴァーと気味悪い声が響いた。数も音量もさっき倒した1体と戦った時とは比べ物にならない。夜空が小さく悲鳴を上げた。
俺は夜空の手を掴み、そのまま後方にバックダッシュ。すぐさま前方に向き直ると、そこにはさっき倒したばかりの《カダーバー》の集団がいた。
「ちっ」
思わず舌打ちをする。何故なら ─── 
その数、10。
とてもゲームを始めて間もない初心者プレイヤーに倒せる数では無いからだ。
普通の初心者プレイヤーであれば、だが。
夜空に「少し下がってろ」とだけ告げると、俺は剣を構えてひしめくモンスターの集団に向かい殺気を迸らせた。
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