Restart to the Game

Code:6 Eternal castle #2

「………………………」

緊急事態。

両者沈黙。

思考停止。

驚愕のあまり単語しか俺の頭には浮かばなくなっていた。少し冷静になろう。

ちなみに、透明化インヴィジリティはぴったりなタイミングで切れやがった。“不運”がこんなところで発動したんじゃないかと思ったが、関係ないですよね、ハイ。

姫に至っては俺たち同様石化している。何が起きているのか、あまり理解出来ていないのだろう。

だが、このまま石化状態が続くはずも無い。仮にここで「侵入者!侵入者が!」とか叫ばれたら1巻の終わりだ。俺たちは衛兵に捕らえられ最悪牢獄行きになる。

完全に石になっている俺を横目に、半石化状態だが何とか動けているアヤメが、姫に必死の弁解を試みていた。

「あ、あのっ!えーと、私たちその……ま、迷子?でー…………」

俺は頭を抱えたい衝動に駆られた。いくら何でも迷子は無理がありすぎる。案の定、姫の顔がみるみる怪訝になっていった。

ヤバいどうする。

だが、姫の口から飛び出た言葉は、俺の予想から反対方向に地球三周分ほど離れたものだった。


「もしかして…………プレイヤーの方々ですかっ!?」


は?


さっきまでのポイ捨てをした人を見るような目はどこへやら、一転して輝いた目を向けてくる。ま、眩しい……。

しかし、姫は何を思ったか突然ハッとした表情になると、優雅な仕草で立ち上がり、小さな声で言った。

『すみません、私とした事が……取り乱しました。私は《永遠の城》の城主にして“リティ王国”の領主、ガレン・リティの娘のミリア・リティです』


『……って事は、シャドウさんとアヤメさんはやっぱりプレイヤーなんですね!』

俺たち二人と同じように、姫-もといミリアにも透明化ポーションインヴィジ・ポーションを飲んでもらった。これなら俺たち三人だけにはお互いに姿が見えたまま話しが出来る。

『ミリアはプレイヤー好きなのか?』

ちゃんと自己紹介は済ませた。

『はい、大好きです!身分上、幼い頃からあまり外に出れなかったので、プレイヤーの方々の事は話ししか聞いた事が無かったんですが……だからこそ、プレイヤーさんにすごく憧れていたんです』

『へぇー』

アヤメが感心し、ミリアがうっとりとした表情を浮かべる。意外とミリアの冒険心は強いのかもしれない。

『プレイヤーの方々はすごく強いと言っていました!大陸から大陸を渡り歩き、自らの鍛練を怠らず、悪魔やゴブリンはおろか邪神すら秒殺してしまう、と……』

それまでを感心して聞いていた俺とアヤメは、最後の言葉で同時に咳き込んだ。さすがに邪神秒殺は話を盛りすぎている。誰だよそんな事吹き込んだやつ。

『え、お父様ですよ?』

『……………………。』

この国大丈夫なのだろうか、と思う俺なのであった。


おしゃべりもそこそこに、そろそろ帰ろうかなというところでミリアがこんな事を言ってきた。

『あ、あのっ!私も、二人と一緒に冒険をしてみたいのですが……ダメですか?』

その言葉が終わると同時に、目の前に[リティ王国アナザー・クエスト:princess・longing を開始しますか?]とダイアログが出てくる。

(やっぱり…………)

ほぼ確信していたが、この「ミリア・リティ」という人物はNPCだ。

それでも疑問なのは、NPCというものは聞かれた事に対してだけ答えるもののはず、という事だ。街にいるNPCはそれに該当する。何か特殊なプログラムが組まれているのかもしれない。

とにもかくにも、このクエストを受けるほか確かめる術は無い。

『……やるよね?』

『当たり前だろ』

そしてミリアに向き直る。

『あぁ、もちろん。ミリアがいいなら大歓迎だ』

『……!本当ですか!?嬉しいです!!』

『よろしくー!』

こうして、俺たちのパーティーには新たに三人目-「ミリア・リティ」が加わったのだった。


とりあえず今日はログアウトする事にしたので、ミリアに別れを告げると宿屋に向かった。

向かっている途中、アヤメがやけにニコニコしながら話をしていたのが気になったが、まぁいっかと思い特に気にしなかった。

元いた宿屋に辿り着く。

「やったー、宿屋だー!早く泊まりたいなぁ」

「泊まるといっても泊まるのはお前じゃなくてアバターだけどな」

横からの睨みをさりげなくスルーしつつ、受付のおばさんNPCに声をかける。

「宿泊券、買います。……一日分で」

「まいど」

「私も、一日分買います。あと食事券も」

「まいど」

「あ、俺も食事券買います」

「まいど」

……このおばさん「まいど」しか言わないのか。ちょっと不安になる。


アヤメと別れ、部屋に入る。ログアウトの時には必ずここに来ているので馴れてしまったが、やっぱりここが一番落ち着く。

(またここに来るのも、しばらく後かもな……)

悲しいが仕方ない事だ。現実リアルからは逃げられない。

少し寂しさを感じながら、俺はログアウトコマンドを口にした。

「……コネクト・オフ」

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