未解決探偵-Detective of Urban Legend-

神田尚成

屋上、灰色④

「腐っても世界トップレベルの捜査力をもつ日本警察が調査したわけだからね。僕も色々確かめたけど、現場だけみたら100%自殺以外ありえない。とはいえ、現代の闇として片付けるには違和感があった」

頭の中を整理するように、独り言のような口調で久我刑事は語る。

「だから君を呼んだんだけど…あてが外れたようだね。さすがに、素直に自殺だと認めて、そうせざるを得なかった理由を探った方がいいかな」

苦笑気味に言いながら、小指で眉の端を書いた。

長からぬ付き合いだが、それが弱っているときの仕草であることを知っている。

諦めているなら弱る必要がない。

―やれやれ。諦めの悪い刑事さんだ。

勇吾は喉の奥でため息をついた。

そして、「これは蛇足ですが」と前置きをして言った。

「たしかになにもありませんでしたけど、…それはそれで不自然なんですよ」

勇吾がいうと久我刑事は顔を向ける。

「どういうことかな?」

「自慢になりませんが、僕はこれまで今日を除いても両手で収まらないぐらいの自殺現場を見てきました。その一つはあの洗脳事件でしたが…それも含めて、どの現場にも当然あったものがここにはないんですよ」

そう言われて、久我刑事は少し考える。

そして、まもなくそのことに気がついたようで、確かめるように呟いた。

「仮に自殺だったとしても、飛び降りる瞬間の残留思念すらないのは不自然ってことか…」

「はい。一箇所だけならまだしも、六箇所まわって一つもないのはさすがにおかしい。どれだけ自殺することに対して強い決意があったとしても、足を踏み出す瞬間の恐怖ぐらいは残ってるはずなんですよ」

もし一件や二件だったら、すでに生に絶望仕切っていたとか、死ぬことへの恐怖が浮かばないほど感情がすり減っていたなどの可能性が考えられる。

しかし、6人全員がそうだと考えるのはあまりに不自然だ。

これまで見てきた自殺現場では、自ら死を選ばざるを得なかったものたちの怨嗟の感情が溢れていた。

あるものは恨んでいた。

あるものは悔やんでいた。

あるものは憎んでいた。

そして、最終的に死を目前にした瞬間、ほとんどの感情は恐怖に染まる。

突然命を奪われる殺人の現場に比べ、自殺の現場は病院と同じくらい、様々な感情に満ちていた。

それに比べて、今日訪れた6つの現場はあまりにも静かで、色がなかった。

まるで、ここではなにも起こらなかったかのように。

十数年生きた軌跡を、ここまで静かに終わらせられるものだろうか?


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