妖精の羽

ささみ紗々

ほんの少しの期待

二日たって俺はやっと部活に出た。
ダンドンといい音が響く体育館の片隅で、少年少女はラケットを振っていた。追いやられたような居心地の悪さを感じたが、本人達はそうでもないらしい。カン、コン、といい音を響かせていた。

「今日から顧問になりました!卓球は中学の時にやってたので、少しくらいなら練習相手になれると思います。一緒に頑張っていきましょう!
皆とは対等な立場で接したいので、あまり気負わず頼ってくださいね!」
挨拶の言葉はこれだった。皆は笑顔で迎えてくれたので、ホッとした。

「アクエリ買ってきたぞー」
俺は両手にレジ袋をぶら下げて彼らの元へ走った。
「ちょっとぉ、先生おそーい」
「うえー喉乾いた」
「ねぇセンセ、窓開けていいっすか?」
生意気な口調で汗を拭いながら皆はラケットを置く。

「さ、休憩しよう!」
男子部長の山崎貴彦が声をかける。長身でイケメン。テレビに出る卓球の西崎選手によく似ていて、多分モテるだろう。
春休みなので、今は1年生はいない。この学校にもう十分慣れたはずの2、3年生が部を担っている。俺も彼らからしたら後輩だ。

俺の買ってきたアクエリを飲みながら、女子部長の野中美紗希が近づいてきた。年頃にしては細身で、ちゃんと三食食べているのかと不安になる。
可愛いキャラクターのタオルを首にかけて、俺の隣に立った彼女は言った。
「ねぇ先生?先生って彼女いるの?」
「いや、いないけど……?」
「ふぅん、そうなんだ。……かわいそっ!」
舌をぺろっと出して逃げていく美紗希は、不覚だが可愛かった。
……ん????待て、今なんて?!
「おい待て!コラ!」
「きゃはははは!ごめんごめんっ!」

♪ピロリロリン〜ピロリロリン〜

不意に体育館に不自然な音が鳴り響いた。
「あっちゃ〜俺だ、ごめん。ちょっと出てくる」

「もしもし?」
『ああごめん、忙しかった?』
「……や、大丈夫」
『そっかそっか、元気してる?』
「うん、なんとかね」
『なら良かった……ねぇ、今日の夜とかどう?』
「……うん、わかった」
『じゃ、駅前で』

プツッ……
電話が切れると同時に、俺は深い息を吐いた。
苛立ちと、期待と、不安と……いろんな感情が混じってしまって、そんな感情を全部押し隠すようにして、俺は体育館に戻った。

「なぁに、彼女?……あっ、いないんだっけね!?」
ニヤニヤしながらいたずらっ子のように笑う美紗希を見ても、なんだかうまく笑えなかった。
「ごめん先生、言いすぎたよ」
「……うん、いいんだ。電話は知り合いだよ」

「さ!そろそろ練習再開しないか?俺も久しぶりに卓球したいんだよなー!」



ストライプのワイシャツにジーンズ、はりきってるなこいつ、なんて思われないような格好で。でも少しだけお洒落してみる。
「やっぱ俺、期待してんじゃねえか……」
ブンブンと首を振り、わだかまりのようにまとわりつく負のオーラを消し去る。と言っても消し去るなんて無理なのだが。

駅前についた俺は、約束の時間よりも少し早いことに気づいた。
「まだ、来てないか……」
と呟き、カフェに入ろうとすると、見覚えのある横顔が見えた。
「あっ」
と声を上げると、その人は振り返る。

「柊二!」

手を振って走ってくる"彼女"は、俺といた頃と同じ笑顔だった。
「梨乃……」

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