Celebration
Celebration
澄み切った空が広がり、風が吹きつける。
宇宙はこんなにも輝いているのに、どうしてだろうか。
人々はもうずっと、星空を見ていない。
大きな大陸にある大きな国の、その都市の真ん中で、ある男性が、この日、
"世界を変えよう"
としていた。
広い広い世界の中には、たくさんの生き物がいる。例えば私たちのような人間だったり、花や木だったり、水の中を泳ぐ魚や、空を飛ぶ鳥だったりする。
本当にたくさんの生き物がこの世界にはいるのに、人間は、何かを敵としたがる。
「いるのに」というよりむしろ、「いるから」の方があっているのかもしれない。
人間は、人間同士でも敵を作る。
自分と考えが違うもの、肌の色や話す言葉が違うもの、顔、性格、育った環境が違うもの。たった少し違うだけで、それを認めようと出来ない人がいる。
誰かの価値を、否定しようとする。
「手を取り合うことの方が、ずっとずっと楽しいだろうに」
つぶやく男性の名前は「ゆうき」といった。
ゆうきが住む国は、隣の国と戦争していた。それはそれは長い戦争だった。人を殺し合う戦争というよりは、冷戦状態が長く続いているようなものだった。
人が死ななくても、争うことは何度もあった。
武器さえ用いないものの、出会えばにらみ合い、罵りあう。
「隣の国へは行ってはいけないよ」
「隣の国の人はとても怒りん坊なんだ」
「隣の国の人は武器で襲ってくるからね」
二世代前ほどから、こんな風に言い伝えられてきた。
隣の国の人は?なんだそれは。
だってこの国にも犯罪を犯す人はいるし、怒りん坊だって武器を持ってる奴らだってたくさんいるじゃないか。
"隣の国の人は"なんて括りがあるせいで、僕らはきっと偏見を持っているだけなんだ。
ゆうきはこの状態を、「おかしい」と思い続けてきた。
そして今日、声を上げる。
今日は寒い冬が続く中の、比較的暖かい1日。
ゆうきはすっかり色あせたカーキ色のコートを着て、外へ出た。
今日は世界のお祝いの日。アダムとイブが、人間を作ったとされている日。
世界中でお祝いのパレードが開かれ、夜明けまでずっと人々は騒ぎ続ける。
歌い、踊り、食べ、人々は笑顔を交わし合う。
ゆうきはこの日が大好きだった。
ゆうきは国の一番大きな街に住んでいる。
その街の広場は、かつて大陸中の国々が集まって描いたとされているウォールペイントがあり、カラフルに壁が彩られている。
壁の前に作られた大きな石像は、世界平和を唱えるものだった。
「どうして世界平和を唱えるのに、僕らの国は戦争をやめないんだ?」
初めてこの広場に来た時のゆうきの感想だった。
今日は広場にステージが置かれており、誰でもステージに立つことが出来る。
歌やダンスを披露するものがほとんどだが、ゆうきは違った。
夜の8時。
トランシーバーを持ったゆうきは、ステージに立つ。
「何が始まるんだろう?」
ワクワクしながら、人々はステージに立ったゆうきを見る。
ゆうきは深呼吸をして、ゆっくりと、言葉を吐いた。
「今夜は世界中で祝われる日。
人々が手を取り合って祝う日。
どうか、どうか今日だけは。
この戦いもお休みにして、祝杯をあげませんか。」
急な言葉に人々は驚く。
口も目も開きっぱなしで、だけれども誰も彼から目を離すことが出来ないでいる。
「誰しもがそれぞれ守っているものがあって、それは家族であり、恋人であり、自分自身の意思かもしれない。
でも、彼らにだってきっと、そうきっと、心があり、大事なものがあり、それらを守ってるんだ。」
「踊りませんか。歌いませんか。
せめて今夜だけは、ともに。
炎を灯し、互いの顔を見ながら、会話を交わしませんか。
僕らが"大事なもの"を守る代わりに、彼らを傷つけているのだとしたら、それにはきっと、意味がないのではないでしょうか。
"国"じゃなくて、"人"を見ましょう。
彼らにだって個性がある。僕らに個性があるように。
きっと分かり合える。」
「今日、僕は、歴史を変えたい。」
「こんなおかしなことに、疑問を持たない人ではいたくないんだ。
世界中で祝われる日なら、隣の国の人とも、どこの国の人とだってそうだ。一緒に祝おう。
僕は変えたい。もうやめよう。やめませんか。」
「手を取り合うことは難しくない。
争うことよりずっと簡単で、誰も傷つかない。」
「血ではなく、愛で繋がりましょう。」
「おい!何をやっている!!」
気づけばステージの周りにはたくさんの人が集まっていた。
国の役人が顔を真っ赤にして、ゆうきをステージから降ろそうとする。
「捕らえろ!」
と、役人が声を上げた、その時だった。
「待ってくれ!」
ステージの前に立つ1人の男性が、とっさに声を出した。
「待ってくれ、彼の言う通りだ」
「…そうだ、奪い合うことでは何も生み出さない!」
「歴史を変えよう、今日、この日に!」
最初に声を上げた男性を中心に、意見を唱える人の輪が、広がり始めた。
役人は困り果て、今度は顔を真っ青にする。
「やってみよう!みんなで!」
ゆうきが拳を突き上げる。
そうしてお祝いの日は、戦争の終わりの日にもなった。
世界中でゆうきの行動が称賛され、ゆうきは多くの人から感謝されるようになった。
ゆうきは後に、こんな言葉を残す。
「地球が丸いのならば、手を取り繋がろう。
丸く、丸く、輪を作ろう。それが和になり、尊い命は守られるのです。」
見上げた夜空には、星が、瞬いていた。
宇宙はこんなにも輝いているのに、どうしてだろうか。
人々はもうずっと、星空を見ていない。
大きな大陸にある大きな国の、その都市の真ん中で、ある男性が、この日、
"世界を変えよう"
としていた。
広い広い世界の中には、たくさんの生き物がいる。例えば私たちのような人間だったり、花や木だったり、水の中を泳ぐ魚や、空を飛ぶ鳥だったりする。
本当にたくさんの生き物がこの世界にはいるのに、人間は、何かを敵としたがる。
「いるのに」というよりむしろ、「いるから」の方があっているのかもしれない。
人間は、人間同士でも敵を作る。
自分と考えが違うもの、肌の色や話す言葉が違うもの、顔、性格、育った環境が違うもの。たった少し違うだけで、それを認めようと出来ない人がいる。
誰かの価値を、否定しようとする。
「手を取り合うことの方が、ずっとずっと楽しいだろうに」
つぶやく男性の名前は「ゆうき」といった。
ゆうきが住む国は、隣の国と戦争していた。それはそれは長い戦争だった。人を殺し合う戦争というよりは、冷戦状態が長く続いているようなものだった。
人が死ななくても、争うことは何度もあった。
武器さえ用いないものの、出会えばにらみ合い、罵りあう。
「隣の国へは行ってはいけないよ」
「隣の国の人はとても怒りん坊なんだ」
「隣の国の人は武器で襲ってくるからね」
二世代前ほどから、こんな風に言い伝えられてきた。
隣の国の人は?なんだそれは。
だってこの国にも犯罪を犯す人はいるし、怒りん坊だって武器を持ってる奴らだってたくさんいるじゃないか。
"隣の国の人は"なんて括りがあるせいで、僕らはきっと偏見を持っているだけなんだ。
ゆうきはこの状態を、「おかしい」と思い続けてきた。
そして今日、声を上げる。
今日は寒い冬が続く中の、比較的暖かい1日。
ゆうきはすっかり色あせたカーキ色のコートを着て、外へ出た。
今日は世界のお祝いの日。アダムとイブが、人間を作ったとされている日。
世界中でお祝いのパレードが開かれ、夜明けまでずっと人々は騒ぎ続ける。
歌い、踊り、食べ、人々は笑顔を交わし合う。
ゆうきはこの日が大好きだった。
ゆうきは国の一番大きな街に住んでいる。
その街の広場は、かつて大陸中の国々が集まって描いたとされているウォールペイントがあり、カラフルに壁が彩られている。
壁の前に作られた大きな石像は、世界平和を唱えるものだった。
「どうして世界平和を唱えるのに、僕らの国は戦争をやめないんだ?」
初めてこの広場に来た時のゆうきの感想だった。
今日は広場にステージが置かれており、誰でもステージに立つことが出来る。
歌やダンスを披露するものがほとんどだが、ゆうきは違った。
夜の8時。
トランシーバーを持ったゆうきは、ステージに立つ。
「何が始まるんだろう?」
ワクワクしながら、人々はステージに立ったゆうきを見る。
ゆうきは深呼吸をして、ゆっくりと、言葉を吐いた。
「今夜は世界中で祝われる日。
人々が手を取り合って祝う日。
どうか、どうか今日だけは。
この戦いもお休みにして、祝杯をあげませんか。」
急な言葉に人々は驚く。
口も目も開きっぱなしで、だけれども誰も彼から目を離すことが出来ないでいる。
「誰しもがそれぞれ守っているものがあって、それは家族であり、恋人であり、自分自身の意思かもしれない。
でも、彼らにだってきっと、そうきっと、心があり、大事なものがあり、それらを守ってるんだ。」
「踊りませんか。歌いませんか。
せめて今夜だけは、ともに。
炎を灯し、互いの顔を見ながら、会話を交わしませんか。
僕らが"大事なもの"を守る代わりに、彼らを傷つけているのだとしたら、それにはきっと、意味がないのではないでしょうか。
"国"じゃなくて、"人"を見ましょう。
彼らにだって個性がある。僕らに個性があるように。
きっと分かり合える。」
「今日、僕は、歴史を変えたい。」
「こんなおかしなことに、疑問を持たない人ではいたくないんだ。
世界中で祝われる日なら、隣の国の人とも、どこの国の人とだってそうだ。一緒に祝おう。
僕は変えたい。もうやめよう。やめませんか。」
「手を取り合うことは難しくない。
争うことよりずっと簡単で、誰も傷つかない。」
「血ではなく、愛で繋がりましょう。」
「おい!何をやっている!!」
気づけばステージの周りにはたくさんの人が集まっていた。
国の役人が顔を真っ赤にして、ゆうきをステージから降ろそうとする。
「捕らえろ!」
と、役人が声を上げた、その時だった。
「待ってくれ!」
ステージの前に立つ1人の男性が、とっさに声を出した。
「待ってくれ、彼の言う通りだ」
「…そうだ、奪い合うことでは何も生み出さない!」
「歴史を変えよう、今日、この日に!」
最初に声を上げた男性を中心に、意見を唱える人の輪が、広がり始めた。
役人は困り果て、今度は顔を真っ青にする。
「やってみよう!みんなで!」
ゆうきが拳を突き上げる。
そうしてお祝いの日は、戦争の終わりの日にもなった。
世界中でゆうきの行動が称賛され、ゆうきは多くの人から感謝されるようになった。
ゆうきは後に、こんな言葉を残す。
「地球が丸いのならば、手を取り繋がろう。
丸く、丸く、輪を作ろう。それが和になり、尊い命は守られるのです。」
見上げた夜空には、星が、瞬いていた。
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