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#2 君は女神かそれとも魔女か2
彼女との出会いは最高で、それだけにできれば関わりを持つべきでなかったのだな、と思う。天使のようだと思ったあの声を、いい思い出のまま、綺麗なまま胸に留めておきたかった。
それなのに彼女と関わりを持ってしまったから、僕はあの歌声すら思い出せないほど彼女の性格にダメージを受けてしまった。
さっさとあの場から去っておけばよかったのに。
けれど僕は、もう、彼女から目を離せない。
「いい匂い!」
目を輝かせながら言ったうみちゃんの視線の先には、ドライフラワーの店があった。
駅前の商店街に入ってすぐ、花屋の隣に並んだ期間限定ショップ。落ち着いた色の照明の小洒落た店『mon』。
「入る?」
隣を見た時には既にうみちゃんはいなかった。え……。
店に一足先に入っていたうみちゃんを追いかける。
初めて入った。狭い店内にはいい匂いが充満していて、雰囲気がインスタ映えって感じ。
珍しい味のティーパックやドライフルーツなどの食べ物から、えっと、これは、バスソルト? ふうん、こんなのもあるんだ。
中央のテーブルにはこまごました雑貨が所狭しと置かれている。特に今はバレンタインのものがほとんど。
男子の僕から見てもこの店はオシャレだった。瓶に入ったドライフラワー……ハーバリウムって書いてある。おしゃれ。部屋用のお香……えっと、アロマっていうんだっけ?
あぁ彼女がこんなの部屋に置いてたら、すっごい惚れる。彼女いないけど。
うみちゃんはさっきから無口だが、ちゃっかり目を輝かせている。都会から来たような見た目だが、こういったものにはやっぱり反応してしまうのが女の子なんだろうか。
「何見てるの、はやく」
……本当に女の子なんだろうか。
次に向かったのが、僕の高校の近くの神社。途中の小さなお店で肉まんを買って、長い長い階段を上った先の、有名な海兵を祀った神社へと行った。
冬らしく曇った天気だったから、上から眺めた景色はそれほど良くはなかった。まだ真新しい図書館が視界を大きく占めている。
「はぁっ、あったかい!」
肉まんを持ち替えながら、はふはふと白い息を吐く彼女はそう、池水 うみ。ちくしょう少し可愛いと思ってしまった。
「舜くん」
ベンチに腰掛けたうみちゃんに名前を呼ばれ、僕は振り向いた。そしてぎょっとする。何故かって彼女……泣いていたから。
一筋。赤く染めた頬を伝う透明な涙は、重力に従うまま、コンクリートを小さく滲ませた。
「え、どうしたの」
沈黙。
どうしたらいいのかわからない。出会ったばかりの女の人が、目の前で泣いている。
何があったの、なんて聞けるほどの関係じゃない。ただ歌を聴いて振り回されただけの僕。……本当に、なんで僕ここにいるんだろう。
先に沈黙を破ったのはうみちゃんだった。
「なんてね」
右手で振り切るように涙を拭ったうみちゃんは、そのまま真っ白な歯を見せて笑った。
その笑顔はとても、儚くて。なんだか嘘のようで。
けれどそんなこと言えるはずもなくて、僕は下手くそな笑顔を作ることしか出来ない。
…………何でこんなことになってるんだろう。外に出てしまったばっかりに。
あぁ、駄目だ。うみちゃんの泣き顔が頭から離れない。あの歌声が、震えてる。
それなのに彼女と関わりを持ってしまったから、僕はあの歌声すら思い出せないほど彼女の性格にダメージを受けてしまった。
さっさとあの場から去っておけばよかったのに。
けれど僕は、もう、彼女から目を離せない。
「いい匂い!」
目を輝かせながら言ったうみちゃんの視線の先には、ドライフラワーの店があった。
駅前の商店街に入ってすぐ、花屋の隣に並んだ期間限定ショップ。落ち着いた色の照明の小洒落た店『mon』。
「入る?」
隣を見た時には既にうみちゃんはいなかった。え……。
店に一足先に入っていたうみちゃんを追いかける。
初めて入った。狭い店内にはいい匂いが充満していて、雰囲気がインスタ映えって感じ。
珍しい味のティーパックやドライフルーツなどの食べ物から、えっと、これは、バスソルト? ふうん、こんなのもあるんだ。
中央のテーブルにはこまごました雑貨が所狭しと置かれている。特に今はバレンタインのものがほとんど。
男子の僕から見てもこの店はオシャレだった。瓶に入ったドライフラワー……ハーバリウムって書いてある。おしゃれ。部屋用のお香……えっと、アロマっていうんだっけ?
あぁ彼女がこんなの部屋に置いてたら、すっごい惚れる。彼女いないけど。
うみちゃんはさっきから無口だが、ちゃっかり目を輝かせている。都会から来たような見た目だが、こういったものにはやっぱり反応してしまうのが女の子なんだろうか。
「何見てるの、はやく」
……本当に女の子なんだろうか。
次に向かったのが、僕の高校の近くの神社。途中の小さなお店で肉まんを買って、長い長い階段を上った先の、有名な海兵を祀った神社へと行った。
冬らしく曇った天気だったから、上から眺めた景色はそれほど良くはなかった。まだ真新しい図書館が視界を大きく占めている。
「はぁっ、あったかい!」
肉まんを持ち替えながら、はふはふと白い息を吐く彼女はそう、池水 うみ。ちくしょう少し可愛いと思ってしまった。
「舜くん」
ベンチに腰掛けたうみちゃんに名前を呼ばれ、僕は振り向いた。そしてぎょっとする。何故かって彼女……泣いていたから。
一筋。赤く染めた頬を伝う透明な涙は、重力に従うまま、コンクリートを小さく滲ませた。
「え、どうしたの」
沈黙。
どうしたらいいのかわからない。出会ったばかりの女の人が、目の前で泣いている。
何があったの、なんて聞けるほどの関係じゃない。ただ歌を聴いて振り回されただけの僕。……本当に、なんで僕ここにいるんだろう。
先に沈黙を破ったのはうみちゃんだった。
「なんてね」
右手で振り切るように涙を拭ったうみちゃんは、そのまま真っ白な歯を見せて笑った。
その笑顔はとても、儚くて。なんだか嘘のようで。
けれどそんなこと言えるはずもなくて、僕は下手くそな笑顔を作ることしか出来ない。
…………何でこんなことになってるんだろう。外に出てしまったばっかりに。
あぁ、駄目だ。うみちゃんの泣き顔が頭から離れない。あの歌声が、震えてる。
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