ヒロインバトルロワイヤル!
集え 10人の少女たちよ!
空中都市と言われる、リュミエール王国。おとぎの国だと言われるここは、幽霊も人外もなんでもあり。
これは、そんな夢のような国で生きる、10人の少女達の物語。
「やっと……やっとこの日が来たんだわ! 招待状を受け取ってから10日間、生きた心地がしなかった!」
リュミエール王国の中央に位置する、荘厳なお城、リュミエール城。
大男10人ほどの大きさの扉を前に、興奮する1人の少女。名前をキャロルという。リンゴのように赤い髪を高く結んだ彼女は、長く露出した脚を1歩踏み出した。
玉座には女王が座っており、キャロルは対面。待ちに待った瞬間を、今現実にする…………はずだった。
「何よ、これ」
まず目に入ったのは金髪の少女だった。電気に照らされて輝く髪はぐるんぐるんに巻かれており、ドレスは宝石がふんだんに使われた高そうなもの。眩しいその姿に、キャロルは顔をしかめる。
『キャロル様、おめでとうございます!
貴方様は、第34回おとぎ話ヒロインに選ばれました。メアリ女王からの招待状を同封しておきます。
なお、城へは複数人で入ることはできません。お一人でお越しください。』
高価そうな紙に、金糸でリュミエール城の紋を施されたその招待状。もう1度見たが、やはり内容は変わらない。
初めて貰う城からの便り、しかもその内容は、王国民なら誰でも憧れるヒロインの座。
年に1度だけ、国中の16歳の少女から「たった1人だけ」選ばれるヒロイン。人生に1度きりのチャンスだし、確率は実に数万分の1だとか。
女の性を受けた人は皆憧れる地位。
それに選ばれた。
名誉あること。親も親戚も、みんな大喜びだった。
それなのに……!
「誰よ、あなた達!」
大広間にいる全ての人が振り返った。
キャロルの表情は城に足を踏み入れる前と打って変わって、憤りを露わにしている。数分前とは違う理由で赤く染めた顔は、今にも噴火しそうなほど。
城には多くの……そう、まさにざっと数えて7、8人ほどは見えるが、こんなに多くの人が一気に来るなんてことは滅多にないはずである。それも全員同じくらいの見た目。キャロルの嫌な予感は、当たる気しかしなかった。
「まぁ……来ていきなり怒鳴り散らしたのは貴方だけですわ」
小首を傾げて微笑んだのは、先程の金髪の少女である。
「もしかしてあなたも、招待状を頂いたのかしら?」
巻き髪をふわりふわりと揺らしながら、少女はキャロルの方に歩いてくる。
キャロルの気持ちはこの時には大分落ち着いていた。近づいてくる少女に嫌な顔は見せつつも、先程のように顔を赤くしているわけではない。
だが、向かってくる少女の見せる邪気のない笑顔……キャロルはそれが気に入らなかった。言葉も、意味がわからなかった。
「あなたも、ってどういうことよ」
「そのままの意味ですわ。ここにいる皆、等しく同じものを頂いているんですの。もちろん本物ですし、なんなら見せても構いませんわ」
「なっ!」
「まぁ、そう怒らない方がいいです。私達も実際理解出来ていないんですから」
まるで意味のわからない状況に、静かな声が落ちる。透き通った水のような、それでいて無機質な声は、柱にもたれかかって本を読む少女から発せられた。
「私はエリオットと申します。論理的に言うと、この状況は非常に意味が不明です」
「そんなのわかってるわよ!」
「たった1人選ばれるヒロイン……なぜこんなに人がいるんでしょう? そういったことは招待状には触れられていませんでした。しかも女王様はまだ来られませんし……」
「そう、そこなんだよねぇ。私もずぅっと気になってたのぉ」
「何かがありそうで、ワクワクするじゃないっ!」
「嫌な予感がするんだな、怖いんだな……」
静かな彼女……エリオットが疑問を述べると、その場にいた少女達が次々に口を開き始めた。
黙っている子もいるが、キャロル達をじっと見ている。話は聞いているのだろう。
「やっべえええ! 遅刻?! あ、女王様来てない! セーーッフ!!! ……フ? ………………誰?」
勢いよくグリーンの髪を振り乱し、少女が入ってきた。長く伸ばした髪は高い位置でツインテールに結っている。
その視線は城内の人に注がれている。見返すキャロル達。「誰?」という質問には誰も答えられない。
不可解な状況に、誰もついていける者はいなかった。
それを明かせる者は、全員が知っている女王1人……招待状の送り主である。
「あらあら! お待たせ致しましたわ。えーと、ひい、ふう、みい、よ……はいっ、全員揃ってますわね」
「女王陛下!」
金髪の少女が声を上げた。
「これはどういうことなんですの?」
螺旋階段をゆっくりと降りてきた女王メアリは、ドレープを整えるとにこりと微笑んだ。その笑みは優しい聖母のようであったが、集まった面々は悪い予感をさらに増幅させることになった。
「さてお集まりの皆さん、城までわざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます。本来は城から使いの者を出すのが当然だと思うのですが、毎年皆様には来ていただいているのです。『掴み取る』意志を感じられる方にお願いしたいので。」
『お願い』──それは皆分かっているとおり、『ヒロインの座』の事である。
では、『掴み取る』とは? 招待状が来た時点で自分に決まったという訳では無いのか?
それぞれに渦巻く疑問の波。
「さて、皆さん疑問に思ってらっしゃいますよね? 自分はヒロインではないのか、と」
女王は1人1人と目を合わせていき、にんまり笑った。口許のほくろが出す色気のせいで、怪しさが増す。
「皆さんにはこれから、戦ってもらいます──ヒロインの、座をかけて」
ヒロインの、座をかけて……戦う?
そんな話は聞いていない。何の冗談か知らないが、タチが悪い。早く私がヒロインだと言ってくれ……そんな声が聞こえてきそうだった。
しかし言える雰囲気ではない。笑みを浮かべながらも真剣な女王の眼差しに、キャロルは背筋を伸ばす。
「具体的に、どう戦うというのです?」
エリオットが問う。
「それはおまかせです。これから皆さんには、『FAIRYTAIL FIELD』に向かっていただきます。そこで最後の1人になるまで、存分に戦ってきてください」
「残りの9人はどうなるのです?」
「死にます」
「えっ」
「なお、招待状を返還しヒロインになる権利を棄権する者も、ここで死にます」
「「ええっ!」」
声が揃う。
ただ1人、ニヤリと笑った少女がいた。これから始まる混沌を楽しむかのように、舌なめずりをする。
「楽しそうじゃない♡」
金髪の少女、ルーシーが振り向く。
「意味がわかってるんですの? ……死ぬんですのよ?」
「馬鹿にしないでちょうだい! わかってるわよ!」
かっと鋭い眼差しをルーシーに向ける。
しかしその顔もすぐに元に戻り、やがて快楽に身を委ねるように目を細めた。
「正直ヒロインなんて面倒だと思ってたわ、楽しみなんてないと。けれど……えぇ、私は間違っていた! これこそがッッ! 私史上最ッ高に! エキサイティングな出来事だわ!」
彼女──デリーはスラリと伸びた両腕を頭上に掲げ、天井のシャンデリアを仰ぐ。銀色の髪は腰まで伸びており、まるでこの場で、彼女ただ1人が主役のように見えた。
キャロルは思った。
狂ってる───つい、数分前まで……自分がヒロインだと思っていたのに。どうしてこんなことになってしまったのか。
いや、でも。
……死にたくない。
「皆さん行く気になったようですね? それでは……」
女王はドレスの胸元から小さな棒を取り出す。ひと振りするとそれはたちまち伸び、ダイヤモンドのついた杖になった。
「『FAIRYTAIL FIELD』へ」
少女達は消えた。
これは、そんな夢のような国で生きる、10人の少女達の物語。
「やっと……やっとこの日が来たんだわ! 招待状を受け取ってから10日間、生きた心地がしなかった!」
リュミエール王国の中央に位置する、荘厳なお城、リュミエール城。
大男10人ほどの大きさの扉を前に、興奮する1人の少女。名前をキャロルという。リンゴのように赤い髪を高く結んだ彼女は、長く露出した脚を1歩踏み出した。
玉座には女王が座っており、キャロルは対面。待ちに待った瞬間を、今現実にする…………はずだった。
「何よ、これ」
まず目に入ったのは金髪の少女だった。電気に照らされて輝く髪はぐるんぐるんに巻かれており、ドレスは宝石がふんだんに使われた高そうなもの。眩しいその姿に、キャロルは顔をしかめる。
『キャロル様、おめでとうございます!
貴方様は、第34回おとぎ話ヒロインに選ばれました。メアリ女王からの招待状を同封しておきます。
なお、城へは複数人で入ることはできません。お一人でお越しください。』
高価そうな紙に、金糸でリュミエール城の紋を施されたその招待状。もう1度見たが、やはり内容は変わらない。
初めて貰う城からの便り、しかもその内容は、王国民なら誰でも憧れるヒロインの座。
年に1度だけ、国中の16歳の少女から「たった1人だけ」選ばれるヒロイン。人生に1度きりのチャンスだし、確率は実に数万分の1だとか。
女の性を受けた人は皆憧れる地位。
それに選ばれた。
名誉あること。親も親戚も、みんな大喜びだった。
それなのに……!
「誰よ、あなた達!」
大広間にいる全ての人が振り返った。
キャロルの表情は城に足を踏み入れる前と打って変わって、憤りを露わにしている。数分前とは違う理由で赤く染めた顔は、今にも噴火しそうなほど。
城には多くの……そう、まさにざっと数えて7、8人ほどは見えるが、こんなに多くの人が一気に来るなんてことは滅多にないはずである。それも全員同じくらいの見た目。キャロルの嫌な予感は、当たる気しかしなかった。
「まぁ……来ていきなり怒鳴り散らしたのは貴方だけですわ」
小首を傾げて微笑んだのは、先程の金髪の少女である。
「もしかしてあなたも、招待状を頂いたのかしら?」
巻き髪をふわりふわりと揺らしながら、少女はキャロルの方に歩いてくる。
キャロルの気持ちはこの時には大分落ち着いていた。近づいてくる少女に嫌な顔は見せつつも、先程のように顔を赤くしているわけではない。
だが、向かってくる少女の見せる邪気のない笑顔……キャロルはそれが気に入らなかった。言葉も、意味がわからなかった。
「あなたも、ってどういうことよ」
「そのままの意味ですわ。ここにいる皆、等しく同じものを頂いているんですの。もちろん本物ですし、なんなら見せても構いませんわ」
「なっ!」
「まぁ、そう怒らない方がいいです。私達も実際理解出来ていないんですから」
まるで意味のわからない状況に、静かな声が落ちる。透き通った水のような、それでいて無機質な声は、柱にもたれかかって本を読む少女から発せられた。
「私はエリオットと申します。論理的に言うと、この状況は非常に意味が不明です」
「そんなのわかってるわよ!」
「たった1人選ばれるヒロイン……なぜこんなに人がいるんでしょう? そういったことは招待状には触れられていませんでした。しかも女王様はまだ来られませんし……」
「そう、そこなんだよねぇ。私もずぅっと気になってたのぉ」
「何かがありそうで、ワクワクするじゃないっ!」
「嫌な予感がするんだな、怖いんだな……」
静かな彼女……エリオットが疑問を述べると、その場にいた少女達が次々に口を開き始めた。
黙っている子もいるが、キャロル達をじっと見ている。話は聞いているのだろう。
「やっべえええ! 遅刻?! あ、女王様来てない! セーーッフ!!! ……フ? ………………誰?」
勢いよくグリーンの髪を振り乱し、少女が入ってきた。長く伸ばした髪は高い位置でツインテールに結っている。
その視線は城内の人に注がれている。見返すキャロル達。「誰?」という質問には誰も答えられない。
不可解な状況に、誰もついていける者はいなかった。
それを明かせる者は、全員が知っている女王1人……招待状の送り主である。
「あらあら! お待たせ致しましたわ。えーと、ひい、ふう、みい、よ……はいっ、全員揃ってますわね」
「女王陛下!」
金髪の少女が声を上げた。
「これはどういうことなんですの?」
螺旋階段をゆっくりと降りてきた女王メアリは、ドレープを整えるとにこりと微笑んだ。その笑みは優しい聖母のようであったが、集まった面々は悪い予感をさらに増幅させることになった。
「さてお集まりの皆さん、城までわざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます。本来は城から使いの者を出すのが当然だと思うのですが、毎年皆様には来ていただいているのです。『掴み取る』意志を感じられる方にお願いしたいので。」
『お願い』──それは皆分かっているとおり、『ヒロインの座』の事である。
では、『掴み取る』とは? 招待状が来た時点で自分に決まったという訳では無いのか?
それぞれに渦巻く疑問の波。
「さて、皆さん疑問に思ってらっしゃいますよね? 自分はヒロインではないのか、と」
女王は1人1人と目を合わせていき、にんまり笑った。口許のほくろが出す色気のせいで、怪しさが増す。
「皆さんにはこれから、戦ってもらいます──ヒロインの、座をかけて」
ヒロインの、座をかけて……戦う?
そんな話は聞いていない。何の冗談か知らないが、タチが悪い。早く私がヒロインだと言ってくれ……そんな声が聞こえてきそうだった。
しかし言える雰囲気ではない。笑みを浮かべながらも真剣な女王の眼差しに、キャロルは背筋を伸ばす。
「具体的に、どう戦うというのです?」
エリオットが問う。
「それはおまかせです。これから皆さんには、『FAIRYTAIL FIELD』に向かっていただきます。そこで最後の1人になるまで、存分に戦ってきてください」
「残りの9人はどうなるのです?」
「死にます」
「えっ」
「なお、招待状を返還しヒロインになる権利を棄権する者も、ここで死にます」
「「ええっ!」」
声が揃う。
ただ1人、ニヤリと笑った少女がいた。これから始まる混沌を楽しむかのように、舌なめずりをする。
「楽しそうじゃない♡」
金髪の少女、ルーシーが振り向く。
「意味がわかってるんですの? ……死ぬんですのよ?」
「馬鹿にしないでちょうだい! わかってるわよ!」
かっと鋭い眼差しをルーシーに向ける。
しかしその顔もすぐに元に戻り、やがて快楽に身を委ねるように目を細めた。
「正直ヒロインなんて面倒だと思ってたわ、楽しみなんてないと。けれど……えぇ、私は間違っていた! これこそがッッ! 私史上最ッ高に! エキサイティングな出来事だわ!」
彼女──デリーはスラリと伸びた両腕を頭上に掲げ、天井のシャンデリアを仰ぐ。銀色の髪は腰まで伸びており、まるでこの場で、彼女ただ1人が主役のように見えた。
キャロルは思った。
狂ってる───つい、数分前まで……自分がヒロインだと思っていたのに。どうしてこんなことになってしまったのか。
いや、でも。
……死にたくない。
「皆さん行く気になったようですね? それでは……」
女王はドレスの胸元から小さな棒を取り出す。ひと振りするとそれはたちまち伸び、ダイヤモンドのついた杖になった。
「『FAIRYTAIL FIELD』へ」
少女達は消えた。
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