異世界スキルガチャラー

黒烏

『嫉妬の海竜』レヴィアタン 1

突如、啓斗たちが立つ床に、巨大な三角形をして、内側に無数の魔法陣のようなものが描かれている奇妙な紋様が出現する。

『おおっと、この謎の模様は一体? また挑戦者が面白いものを見せてくれるのでしょうか!?』
「またなんかやろうとしてんの? 君も懲りないね」

心底楽しそうに実況し続けるヴェローナと、呆れたように肩をすくめつつも次の攻撃の構えをとるレイナはどこか対照的だ。
だが、啓斗にはその違いをじっくり観察しているような暇はない。

(今まで見たこともない魔法陣だ。だが、この国では魔法の類は本当に一切見ていない。誰がこの紋様を……)
『啓斗様、上方から途轍もなく強大な反応が急接近してきてます! 警戒を!』

ナビゲーターの焦った声に、咄嗟に上を見上げる。
現在、この地下闘技場は天井が開いており、上を見れば満天の星空が広がっている。その中を、小さな黒い影がこちらに向かって急降下してきているのが見える。
どんどんと加速してくるソレを注視していると、足元の異変に気づいた。

「……水?」

三角形の紋様は、いつのまにか啓斗の足首までを濡らす浅瀬に変化していた。浅瀬は三角形型に魔力か何かで固定されているようで、その範囲から出ることもないが、消えてしまうこともない。

この三角形の水辺から目を離して再び顔をあげた瞬間、急降下してきたものが何か判別できる距離に来た。
啓斗は、ソレと目が合った。
ソレは、人間をベースにして、体に魚と竜の要素を混ぜ合わせて融合させたような奇妙な外見をしていた。
イルカのそれを思わせるような強靭な尻尾があり、両手両足にはヒレや水かきが付いている。だが、体の至る所に深い青の鱗があった。
強いて、外見が似ている生物を挙げるとするならば、龍人状態のルカが最も容姿が似通っている(逆に言えば、他に例を挙げられないのだ)。
そして、その肉体が年端のいかない小さな少女のものであることにも啓斗は驚愕した。
少女の体は、三角型の水辺の。啓斗やレイラの足元を濡らすだけの浅い水の中に、である。

「ちょっと、なに今の。アンタが呼んだの? って言っても答えるわけないか。ま、さっさとアンタを殺せば済む話だよね」

そうしてレイラが手榴弾のピンを抜いた、その時。
いきなり水が強烈に発光し始めた。

「うわ、眩っ!?」
「くそっ、何なんだ!? 何をする気なんだ!?」
『啓斗様、今の少女の正体がわかりました! あの子は……!』

ナビゲーターが言い終える前に、水の中から巨大な竜が顔を出す。その皮膚は美しい群青色の鱗に覆われ、黄金色に輝く瞳は啓斗をじっと見据えている。
続いて両前脚が水中から現れ、闘技場の壁に爪で派手な傷跡を残した。
そして竜は、その姿に見合わぬ流ちょうな言葉づかいで啓斗に話しかけてきた。

「こんばんは、異世界人クン。私は魔王七柱の1人、『嫉妬』のレヴィアタン。よろしくね」
「魔王七柱……ベルフェゴールの仲間か!」

啓斗は無意識のうちに一歩後ずさっていた。

「そうだね、広く言えばそうなる。でも勘違いしてほしくないのは、私がベルとかマモンとかみたいに甘い悪魔じゃないってことだね」
「悪魔? 海竜の間違いだろ」
「アハハ、そうだね。まあ、『悪魔』っていう存在の定義が曖昧だし、別にいいんじゃない?」
「……」
「じゃ、取り敢えずー……部外者に死んでもらおうね」

そう言い放つと、レヴィアタンはいきなりレイラの方を向く。
突然怪物がこちらを向いたことで動揺したのか、レイラは回避行動をとるのが一瞬、ほんの一瞬だけ遅れてしまった。
ただ、そのほんの一瞬程度の少しのミスは、致命的なものなのである。
レヴィアタンが口を開くのとほぼ同時に、超高圧の水流が口内から発射される。

『【水流ハイドロ息吹ブレス】……まともに喰らったら人間なんて即死ですよ』

ナビゲーターが諦めたようにそう呟く。
その水流はレイラを飲み込み、数十メートル先の壁に激突する。水流が止んだ後には、レイラの体はピクリとも動かなくなっていた。

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