異世界スキルガチャラー

黒烏

第三試合開始

第二試合の敵「黄衣の王」がスナっちに一瞬で呑み込まれるという事態を受け、アナウンスでは観客を盛り上げるためにテンションを維持していたヴェローナも、内心でかなり焦っていた。
その蓄積した不安感は、休憩時間に一気に噴出した。

「ど、ど、どどどうしましょう!? ここまでの実力だなんて思ってもみませんでした! まさかあんなに強力な召喚獣を使えるだなんて!」
「ヴェローナ、落ち着いて。別に3勝されたからって私たちに実害はないはずでしょ」

だが、冷静そうにヴェローナを宥めているレイラの顔も少し青ざめている。
2人と同じ部屋でモニター観戦していた、黄衣の王の作成者であるミリアも、濃い緑色の長い髪の毛を指で弄り回して黙りこくっていた。

「でも、このままじゃ今まで1度も突破者を出さなかったこのイベントの盛り上がりが一部欠けちゃいます! 挑戦者をブチ殺してうちの製品の宣伝も兼ねてるのに、これじゃ面目丸潰れってやつですよ……」
「んー、確かに私もトレーサーウルフで何とかなるだろうってタカ括ってたところあるし、色々と予想外な部分もある」

モニター越しに、闘技場の床に座り込んで休憩している啓斗を覗き込みながら、レイラはめんどくさそうに言った。

「はーあ、仕方ない。3試合目、私が出るよ。ここなら爆弾の消費量とか街吹っとばしちゃうかもとかいう心配もないし」
「え、ダメよ! レイラにそんな危ない事させられないよ! そういうことなら私がやる!」
「私に言わせたら、ヴェローナが危険な目に遭う方がヤダ。大丈夫だって、あのドラゴン化して今デカい樹木になってる女の子よりは強くないでしょ」
「で、でも」
「バカ、こういう興業で盛り上げるための実況役がいなくなっちゃったら面白味半減でしょ? あれくらい声張るなんて私無理だし」
「……分かった。でも、死にそうになったら試合止めるからね。武器に変えはあるけどレイラは替えが利かないんだから」
「ん、可愛いこと言うじゃん。心配しなさんなって」

クスッと笑うと、ヴェローナたちに向かって手を振ってレイラは部屋を後にした。
直後に、ミリアも黙りこくったまま部屋を出て行ってしまう。

「ミリアさん、どうしたんだろう。黄衣の王なんてあと2体はストックがあったはずなのに、やられたのが相当ショックだったのかな。いや、今はそれよりレイラの試合を実況しなきゃ」

ヴェローナは慌ててモニターに駆け寄り、設置されているスタンドマイクに向けて元気よく叫ぶ。

『えー、皆様大変長らくお待たせ致しました! これより、最終第三試合を開始します! さあ、挑戦者に立ちはだかる最後の関門は、こちらぁ!!』

それと同時に、闘技場の天井が開いて空が見えるようになる。
どうやら、啓斗がジェドに眠らされた時からかなり時間が経っているようで、既に空には無数の星が瞬いている。
啓斗が上を見上げてから視線を戻すと、どこから現れたのか、マスクをしてパーカーのポケットに両手を突っ込んでいる少女が立っていた。

『さあ、本日のフィナーレを飾るのは、つい先ほどまで私と共に解説を行っていた方です! そう、観客の皆様にはもうお分かりでしょうね! 我らが誇る爆薬のプロ、レイラ・リーブスパーク! 何を隠そう、私の双子の妹です!』
「……ま、私がずっと顔見せしてないからけっこう疑われてるんだけどねー」

ポンポンと手榴弾を手の上で投げながら、レイラは啓斗に向かって言う。
黒いマスクのせいで目から上までしか顔が見えないが、そこを見ただけで啓斗は軽く戦慄した。

「あっ、怖がってるね? ま、とーぜんか。私が外でずっとガスマスクしてる意味、分かったでしょ?」
「………」

そう言いながら、レイラはマスクを取って啓斗に素顔を晒した。
その顔には、額から鼻を通過して顎にかけて、斜めに深く切り裂かれたような跡があった。更に、口が耳まで裂けるように皮膚が切り裂かれている。

『なんか都市伝説の口裂け女みたいな見た目してますね……夜道にあんなの居たら即通報か全力で逃げますよ私』
「ナビゲーター、くだらないこと言ってる場合じゃないだろ」
『はい、すいません。しっかしまあ、なんでしょう。ただの少女のはずなのに得体のしれない悪寒がします』
「奇遇だな、俺もだ。あいつの武器は確か爆弾だった、それだけでも厄介だぞ」

油断なく啓斗は斜に構え、レイラの動きにすぐに対応できるようにする。

『それでは最終試合、挑戦者VSレイラ、開始!!』

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