異世界スキルガチャラー

黒烏

第二試合 The King in Yellow 2

「………」
「一発目が空振りしたら上半身が動かなくなったぞ。こいつ一体何がしたいんだ?」
『分かりません。が、警戒は怠らないようにしてください。足の触手は依然として伸び続けてますし』

黄衣の王は、床に拳を叩き付けた姿勢のまま静止している。しかし、まるで上半身と下半身の意識が分離しているのではないかと思えるほどに下半身の触手は肥大化しながら闘技場を囲い始めている。
さらに、体に纏う風も徐々に強くなってきたようだ。

「ルカの例から見て、風の能力っていうのは確実に強力だろう。吹き飛ばしでもしてくるのか……?」
『正直言って全く予想がつきません。でも、風は気を付けないと確かに駄目ですね。応用が嫌ってくらい効きますし、単純に強いですから』

啓斗は、取り敢えず黄衣の王の本体から離れ、壁を埋め尽くし始めている触手を観察する。

「どんどん一本一本が大きくなっていってるな。こっちも何されるか分からないし、破壊しよう。本体とガチで戦うよりは安全策なはずだ」
『賛成です。じゃあ私が本体を監視しておきますので、啓斗様は触手の破壊をお願いします』
「了解だ」

啓斗が指を鳴らすと、空中に無数のダガーナイフが出現し、それと同時に手元に鉄の剣が一本召喚された。
使用したのはURスキル【サウザンドダガー】と、Rスキルの【実剣ブレイド・召喚サモン
だ。
剣を両手で構えて一息吸い込むと、啓斗はものすごい勢いで壁を這いまわっている触手に斬りかかった。

「こいつでも喰らえ!」

剣で斬り払うと同時に無数のダガーも触手に襲い掛かる。
手応えとしては、まるで切れ味の悪い鉈でメチャクチャ固い木材を切ろうとしているかのような感じだった。

(ウネウネ動いてる見た目に反して……硬すぎる! 【サウザンドダガー】もほんの少しだけ表面を削る程度しかダメージを与えられていないようだが……)
『啓斗様、本体の方に動きが!!』

ナビゲーターの大声に反応して振り向くと、黄衣の王本体が上体を起こしていた。
顔の見えない頭をこちらに向けているのだが、その胴体の周りには先ほどと比べ物にならない烈風が渦巻いている。

「………!」

黄衣の王が啓斗に腕を向けると、胴体に渦巻いていた風が一瞬で凝縮されて撃ちだされる。

『ヤバいです、避けてー!』
「言われなくても避ける………っ!!」

咄嗟に【トリプル・スピード】を発動して風を回避する。
風の塊は壁を覆っていた触手に直撃した。

『おおっ、これならダメージが……ってそんな都合よくいきませんよねー……』
「おいおい、マジかよ!?」

触手に直撃した風は、なんとそのまま触手を覆って流れ出した。超高速で風の流れは触手全体に及び、風を帯びた触手に囲まれるという結果になった。
と、その時、いきなり闘技場内に放送が響き渡る。

『おおっと、ここで実況を交代するお時間になりました! 私たち、ヴェローナ&レイラに代わって実況解説をして下さるのはこの方! あの「黄衣の王」の生みの親、ミリアさんでーす!』
『ハァイ、皆さんご機嫌よう! 今回のザ・コロッセウムサバイヴ、楽しんでいただけてるかしら? 今挑戦者と戦ってる子の説明をしに来たの! 理解が深まれば視聴者の皆さんも楽しめるでしょうし、せっかくだしね!』
『流石はミリアさんです。確かにあの怪物の動きは私たちには不可解極まりないといっても過言ではありませんからね』

そんな放送をしているとき、黄衣の王を中心として壁を這っている触手が帯びている風のスピードが増した。

『あの黄衣の王は、触手による遠隔攻撃と本体の超破壊力を重視したパワー型モンスターよ。でも、限られたスペースで戦う時は今やってるみたいに獲物を取り囲んで一撃必殺、っていう戦法を取るの』
『ほー、そうなんですか!? 実際にはどういう風にやるんですかね!?』
『まずは触手を一定の領域に伸ばして獲物を逃げられなくする。今やってるみたいにね。で、その後に風の力を触手に纏わせるの』
『なるほど、そこまでは今やってますね。で、その後は?』
『あとは一撃必殺を叩き込むのよ。まあ、見てれば分かるわ』

ミリアがそう言った時、黄衣の王が啓斗の方を向く。
次の瞬間、啓斗の体が物凄い速さで黄衣の王に吸い寄せられていく。

「……なっ!?」
『まさかっ!? 啓斗様、回避ぃー!!』

【ジャストシールド】を使う暇すら無かった。
後方から吹いた風と、黄衣の王に向けて吹く強風に飛ばされ、啓斗はこの怪物の目の前まで飛ばされる。
そのまま、黄衣の王が振り下ろした拳を背中に叩き込まれた。

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