異世界スキルガチャラー

黒烏

変化し続ける戦況

唯一自由に動かせる左腕で樹木を剥がそうとしたり、丸鋸で切断しようとしたりしたが、皮の一枚すら裂くことが出来なかった。

「ニャ、ギギ……ぜんっぜん外れないし、斬れもしないニャ! なんでニャ、木のくせにぃ……」
「神……樹は……機械なんかには……破壊され、ないもの……貴方じゃ、勝てない」

一歩、また一歩と、ベネットに向けて近づくルカ。彼女が一歩歩くたびに床を突き破って巨木の枝が出現する。
それは複雑に絡み合い、屋上の取り囲むようにして壁のように張り巡らされていく。

「な、なにをする気だニャ!?」
「ここは……幹の『中』になるの。貴方は……ケイト君の邪魔をした。ここから……貴方を……逃がさない。必ずここで倒す」

その時、ベネットは体を拘束している樹木が、彼女の体の内部にめり込んでくるのが分かった。まるで体にズブズブと浸食してくるように。

「ニャ……痛い……いぢゃい……い、ニャア……」
「ケイト君が受けた痛みは、こんなものじゃない。……【浸食神樹】は、全てを成長の糧にする。たとえそれが、機械でも、建物でも……」
「お前、まさかスターアライヴそのものを取り込んでこのデカい木を育ててるのかニャ!? マホウってそんな事まで出来るのかニャ……グブウ……」

現在屋上にいるベネットからは現在のホテルの下層の状況は確認できないが、街で生活しているマギクニカの住人や、ミューズの要請によってスターアライヴに向かってきている増援部隊はこのようなものを目にした。
突如、炎上するホテルの内部から現れた無数の巨大な木の枝。ある枝はマギクニカの最先端技術で作られた超強化ガラス製の窓を突き破り、またある枝は壁に大穴を開けながら出現した。
そして、樹木はその木肌全体でホテルを飲み込むように覆い尽くしていく。まるで、自然が人間の文明を「浸食」していくように、飲み込まれたホテルは一本の巨大な樹になってしまった。
地上からは先端の見えない、無数の枝が葉を生い茂らせる「神の樹」に。

【形態変貌其ノ二:浸食神樹】
〈専用スキル〉
龍人状態から変貌する形態のバリエーションの1つ。
無機物に触れることで、接触部分から物質を取り込む能力を持った木の根を生成することができる。木の根は生物と大地以外のものを術者が決めた範囲内で無差別に飲み込み、その一部に変換して成長する。成長の度合いは、取り込んだ無機物の質量によって無限に大きくなっていくと考えていいだろう。
成長しきった大樹は、それから72時間をかけて枝に美しい花を咲かせ、実をつける。実は地面に落ちると落下の衝撃で炸裂し、種子をはるか遠くまで飛ばす。その種もまた、親の樹と同じように無機物を浸食し、成長する。
「神の樹」は、自然を汚染されることをよしとしないのだ。
もう一つの副次効果として、成長しきった樹の幹に地龍が触れることによって、周囲の大地に豊穣をもたらすことができる。





一方、ルカと別れてヴェローナとレイラ、ミューズの後を追っていた啓斗は、ミューズが奇妙な体躯をした謎の生物と戦っているのを目にした。
現在啓斗はMPの消費を最小限に抑えるために、街を疾走している。そのため、空中で戦っているミューズと怪物の姿を見上げるという形だ。

(なんだ、アレは……? ミューズを襲っているところから考えるに、ベネットの仲間の奴らが送ってきたんだろう。
しかし、今は俺にも時間がない。あの警官には悪いが、無視して先を急がせてもらおう)

啓斗は【トリプル・スピード】を2秒間隔で発動して所々加速しながらジャンクヤードへ向かっている。逃走した2人の移動した軌跡が飛行機雲のように細い煙となって続いているのが見えているからだ。

「腕時計が無いだけで残MPすら分からず、消費をどれほど抑えるべきかすらも分からない……とにかく、急いで腕時計を取り戻してナビゲーターを呼び出さなければ!!」

すると、目の前に高い壁が見える。恐らく、中央街とジャンクヤードを隔てる仕切りのような役割を担っているのだろう。

「邪魔だ、壊れろ!!」

走りざま啓斗は壁に向かって思い切り飛び蹴りを放つ。ガラガラという轟音と共に壁が破壊され、そのままジャンクヤードの中に突っこんでいく。
機械油と錆のような臭いが鼻をつく中、未だ上空に残る逃走者の痕跡を、啓斗はがむしゃらに追い続ける。




啓斗が真下を通過したのに気づく暇もなく、ミューズはこの怪物、失敗作の『ミ=ゴ』と戦わざるを得ない状況になっていた。後方から聞こえた人々の驚きの声も気になるところではあるが、もしこの怪物から一瞬でも目を離せばやられる、そんな予感がしていた。

「……お前に言葉が通じることは無いと思うが、あえて宣言してやる。2分以内にお前を殺し、私は2人を追う。行くぞ!」
「ぐっしゃああぁぁぁ!!!」

こちらの戦いもまた、火ぶたが切られたようだ。

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