異世界スキルガチャラー

黒烏

実験体番号No.01 『出来損ないの○○○』

「ウジュルウジュルウジュル……」
「なんだコイツは……? 新型の機械兵器、いや、あの質感は間違いなく生物だ。この国に生物兵器がいるなんて……」

ヴェローナとレイラの2人を追い込んでいたミューズだが、謎のピンク色の甲殻生命体が行く手を塞いだことで足止めを余儀なくされた。
この生物は8本の細い脚と、巨大な鋏を持った2本の大きな腕らしき部位を持っており、その鋏をゆっくり開閉しながら、無い顔でこちらを見つめている。

「気味が悪いな。倒すか、それとも逃げるか?」

まだ、目の前の怪物に塞がれた視界の端に追跡中のヴェローナとレイラの姿が見えている。今すぐこのバケモノをかわして2人を追えば、ジャンクヤードに逃げ込まれる前に捕まえられるかもしれない。

「ここは逃げ……」
「ぐっしょああアァァ!!!」

右側から素早く回って怪物を撒こうとしたのだが、それよりも早く怪物はミューズに組み付いてきた。
カニの鋏のような腕で素早く胴体を掴まれる。真っ二つに切断されてしまうということは無いが、ギチギチという音を立てさせながら少しずつ閉じてきている。

(は、速い! しかも、この攻撃力……一体!?)
「がじゅるがじゅるじゅっしゅうぅぅ……」

どこから音が出ているのか不明な唸り声をあげながら、両腕で挟み込んだミューズの胴体を斬り潰そうとしてくる。

(おっと、まずい。動揺しすぎたな。私の目的はあくまで犯罪者どもを逮捕すること。ましてや今回の相手は〈ジャンクヤード・ジャンキーズ〉だ。逃がすわけにはいかない。さっさとこいつを片付ける!)

ミューズは超高速で体を横回転させ、怪物の鋏を弾く。ミューズの身体能力は自前のものもあるのだが、マギクニカ警察のハイテク装備がかなりモノを言っている。
この国の技術はさるもので、ジェットブースターや小型の銃程度ならば制服の「中」に収納できるし、その制服そのものにも様々な機能が搭載されている。
例えば、今この怪物の挟み込みを回避したのも、制服に搭載された〈一時的に力を2~3倍にする〉機能と〈行動速度を1.4~1.8倍にする〉機能を同時に最大でアクティブにして行ったものである。
アクティブにした場合、制服内の機能を統括しているAIが自動的に状況を判断して倍率を決めている。使用者が手動で倍率を決めることもできるにはできるのだが、今のように、咄嗟にアクティブにしなければならないような場合ではAIに任せるのがもっとも適当であるというのがマギクニカでの常識だ。
だが、AIの判断をもってしても「最大倍率」というのは基本的に出るものではない。それほどこの怪物の拘束力が強いということだろう。

(くっ、まさか機能を最大にしなければ振りほどけないとは! しかし、拘束から逃れられただけマシか。とにかく急いで……)
「ぐしゅじゅじゅうぅぅ……」

拘束を弾いて脱出し、そのまま2人を追おうとしたのだが、たった今体を弾いて横をすり抜けたはずの怪物が、大きな羽音を立てながらハエ並みのスピードでまた目の前に飛んできた。

「なあっ!?」
「グギッ、グギャッ」

ミューズが右に移動しようとすると怪物もそれに呼応して動く。左に避けようとしても同様だ。靴に内蔵されているジェット機能による飛行よりも素早い生物となると、相当の生物兵器だろう。

(急いであの2人を追うのも重要だが、コイツを野放しにして街に降り立たれでもしたらかなりまずい! かくなる上は!)

ミューズは懐から手のひらより少し小さい円盤を取り出す。中央部を親指で押すと、その部分が赤く発光しだす。そのまま円盤を怪物の脇をすり抜けるように投擲した。

「よし。それじゃあ、私はこの怪物を食い止める仕事をしなければな。……ボーナスが出ればいいんだが」

ミューズは拳銃を取り出して構える。常軌を逸した怪物を倒し、自分が悪とした「犯罪者」を必ず捕まえるために。





「ミリア、大丈夫なんだろうな。絶対に制御を外すなよ」
「分かってるわよ、安心しなさい。私の【能力】の影響下にあるんだから心配ないわ」
「……ならいいんだがな」

ミリアの部屋にあるノートパソコンから怪物の様子を確認しながら、ミリアは上気した様子で、ジェドは神妙な面持ちで言葉を交わしている。

「実験体No.01、俗称ネーム『ミ=ゴ』。まあ、アレは失敗作だけどあのミューズとかいう警官を殺すくらいの力はあるわ。アナタはローグの方を手伝ってあげて」
「……分かった。俺はお前を信用してるからこのB3を貸してるんだ。不祥事を起こして信用を裏切るなよ」
「フフ、了解」

ゆっくりと振り返ると、ジェドはそのままB2に上がっていった。その最中にふと考える。

(ミリア・“ナイアー”・ラトテップ。付き合いは長いが、考えていることが未だに謎だ。まあ、日陰者という点で共通しているのは間違いないだろうな)

ミリアは、嬉々とした表情でノートパソコンの画面を食い入るように見つめていた。

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