異世界スキルガチャラー

黒烏

ジャンキーズ・パーティナイト 1

「……う、んんん!?」

襲い掛かってくる猛烈な頭痛にめまいを覚えながら、「啓斗」はその意識を覚醒させた。
しかも、気づけば自分の腹から大量出血・ホテルの隣りの上空を飛んでいる・真上にルカと正体不明の人物と、いきなり訳の分からないことだらけだ。

「一体、何がどうなってるんだ!? おい、教えろ!」
「うるっせーな! こちとら好きでお前を呼び出したわけじゃねーんだよ!」

そこで啓斗は、自分の意思に関係なく体が上昇しており、さらに今自分の口が勝手に喋ったことに気が付いた。

「本当に何が起きてるんだ!? 簡潔に説明しろ!」
「あー、俺じゃ話の組み立てが面倒だ。オイ、で大笑いしてねーでお前が説明しやがれ! こういうのはお前の役だろが!」
『ふふ、ゴメンね。サラッと説明させてもらうと、この大声出してる馬鹿が大暴れしてね、当初の目標は達成したけど大ピンチになっちゃったから脱出。で、地震起こしてくれたルカちゃんの方も問題発生っぽくて、見てわかる通り彼女の方も誰かを警戒してる』
「……それと、俺のこの状況をどう結び付けろっていうんだ?」
『なんかキミ、鈍くなってない? ルカちゃんが心を開くのは、キミじゃなきゃダメなんだよ。体が同じでも、言動がキミじゃなきゃ無意味だからねぇ。その為に呼んだの』

頭の中に強制的に浮かぶ、小柄な少年のヴィジョンが全身を動かしながらペラペラ喋る。
だが、その顔は何故か黒い霧のようなものに覆われており、顔の輪郭がしっかりあれば目であろうという部分には黄色い光が2つ浮いていた。

『ただし、体動かす方の主導権はキミには無いから。あくまで彼女の説得要員としてちょっとだけ働いてもらうよ、ボクと彼の指示の下でね』
「お前ら……」
『まあまあ、そんな怒らない。この一騒動終わったら体は返すよ。それまでくらい、ボクらにお祭り騒ぎを楽しませてよ。ね?』
「……くそっ、今の状況じゃ呑むしか無いな」
『そーなるね。じゃ、もうすぐ彼女のところに着くから説得して』

数秒後、翼と尻尾だけが発現している状態のルカの所まで上昇した。隣まで近づいた瞬間に、勝手に頭が彼女の方を向いた。

「あ、ケイト君! ものすごい血出てるけど大丈夫!?」
「ああ、死んでないから大丈夫だ。それより、あの上にいるのは誰だ?」
「私も分かんない。でも、このホテルを爆破したのはあの人だよ! 確かに屋上から落としたはずなのに……飛んでる」
「俺たちはこれからジャンクヤードに行かなきゃならない。だがあの異様な風貌から見るに、アイツもまともな奴じゃなさそうだ」
「ど、どういうこと?」
「アイツがジャンクヤードの住人かもしれないってことだ。上手くいけばベネットの情報も聞き出せるかもしれない。倒すぞ」
「分かった、行こう! ……あ、やっぱり見てて怖いからその怪我治しとくね」

ルカが啓斗の腹に軽く触れると、淡い緑色の光とともに彼の怪我がまるで元々無かったかのように治ってしまった。

「ありがとな。よし、行くぞ!」
「うん!」

会話が終わると同時に、啓斗の体は思いっ切り上空にいる人物に向かっていく。ルカもその後ろにピッタリ付いていった。
だが、上にいる人影も上昇していく。どうやらもう一度屋上に向かっているようだ。

「は、速い! あんなに動きが速いなんて……!」
「何かあるらしい。さっきまで戦ってたらしいが、同じだと思わない方が良さそうだぞ」
「うん、気を付ける」

そこまで話したところで、また脳内にヴィジョンが浮かび上がる。今度は少年の方と、なにやら啓斗と同じくらいの身長をした、同じく黒い霧に顔を覆われ、両目があるべき部分に赤い光を宿す青年もいた。

『さーて、そろそろキミにはに戻ってきてもらうよ。でも眠っちゃダメだ、戦いには冷静さも必要だからね』
「何を……ううっ!?」

体だけは真っすぐに屋上を目指しながら、啓斗は意識を失う。





気づけば、目の前に黄色目の少年がいる真っ白な空間にいた。赤目の方は既にいなくなっていた。

「ようこそようこそ、ボクらの『ブレインルーム』へ。キミが来るのは……そうだなぁ、もう何年振りになるかな」
「そんなことはどうでもいい。ここで話せば、今表面に出てるあの乱暴者にも声が届くんだろ?」
「そそ、彼が無茶しそうになったら無理やりにでも止めてあげて。ここは心の中、固い意志を持って叫べば、一瞬だけど行動に現れるはずだ。それじゃ、よろしくね」

そう言うと、少年が指を鳴らす。
すると、いきなり映画館にあるような巨大なモニターが出現した。どうやら自分が今見ている風景が映し出されているようだ。

「じゃ、ボクちょっと疲れたから寝るね。おやすみー」

少年の体は煙のようにフッと消える。
目の前の映像では、すでに屋上に到着しており、何やらガスマスクを着けた小柄な人物に向かい合っていた。




「……増援を確認。更に、増援がこの状況を打開し得る人物であると理解。到着まで数十秒、耐えなければ」

ガスマスクを着けた少女は、周囲に筒状のユニットを大量に展開する。色と破損具合から見るに、さきほどまで「パワードアーマー」だった物のようだ。

「コード『弾幕領域』を起動、対象を目の前にいる2名に設定」

そう合図すると、筒全てにピンク色の光る縦線が入る。
そして、一斉に(文字通り「光速」の)レーザーが放たれる。
間一髪でそれを避けた2人だったが、移動先を予測したかのように、その場所に手榴弾が投げ込まれていた。

「うあっ!?」
「マジかよ……!?」

避ける間もなく、2人とも爆風に巻き込まれた。

「私は『ボス』に注文されてアーマーの性能テストをしていただけです。本当の戦い方をすれば、あなたがたを一時的に動けなくする程度には対応できます」

そう言った彼女の体には、気づけば無数の手榴弾が巻き付けられていた。恐らく30は超えているだろう。

「私の本職は爆弾を使ったお仕事です。では、私の真の腕前をお見せしましょう」

そして少女は、青色の塗装がされた手榴弾のピンを片手ずつ2個、親指で抜いた。

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