異世界スキルガチャラー(旧バージョン)

黒烏

「宴」の予兆

突如発生した大爆発により、ホテルの天井が崩れ出す。

「な、あ……!?」

ハンドガン型フックショットを右手で構えた姿勢のミューズは、落ちてくる天井を見つめることしかできない。その目には恐怖の色が映っていた。

「あんのヤロ……くそっ、こうなったら!!」

身動きを取らないミューズを見て、彼は思わず自身に刺さったワイヤーを掴む。そのままフックを引き抜き、こちらに向けて全力で引っ張った。
もちろん、彼の素の力ではフックを引き抜くことなどできないし、ましてやそのままミューズが逆の先端にいるワイヤーを引っ張ってこちらに寄せることなどできはしない。
彼は、腕時計を奪われる前に記憶していたスキルを行使したのだ。「啓斗」ではなく、現在表面に出ている「彼」が記憶していたスキルだ。

Rスキル【フィジカルアップ】
発動者の物理攻撃力・物理防御力を1.1倍にする。
スキルレベルが1上昇するごとに効果+0.1倍。
現在スキルレベル:7

SRスキル【一瞬の剛力】
発動から0.5秒の間、あらゆる肉体的な運動能力が2.5倍になる。

(敵に接近して戦うことをアイツは露骨に嫌ってたからな。あのギガンティスとかいうのと戦う時も剣持ってるくせに、脳天に突き立てるとかせずにわざわざ斬撃飛ばすとかいう回りくどい手に出るしよ)
『ボクは正直、キミとはあんまり馬が合わないけど、そこだけは賛成。偉そうに何だかんだ言ってもアイツが自分の力をちゃんと理解しないから周りがケガする』
(だから俺は欲しいんだ。自分だけの……いや、後にするぞ)

腹部から流れる血と痛みを【ボルテージ】によって大量に出ているアドレナリンとやせ我慢で耐えると、そのまま背負い投げのようなフォームでワイヤーを引き寄せる。

「オラアァァァァァ!!!」
「なっ、うわあぁぁっ!?」

その圧倒的な腕力で、天井が崩落する一瞬前にミューズをホテルの窓から脱出させることに成功した。そのままの勢いでミューズを抱き留め、落下していく。

「く、離せ! 私に触るな!!」
「うるせぇ、質問に答えろ! お前1人で飛べるか!?」
「あ、当たり前だ! あの250階までどうやって上がったと思うんだ!?」
「あーそうだよな、じゃあ勝手にしやがれ! 俺も暇じゃないんでな!」

ミューズをその場に留まらせるような風に自分が身を引くと、そのまま唯一の飛行スキルである【三分間インスタント空中遊泳フライハイ】を発動して上を見上げる。
ここから少し上の階に、翼を大きく広げたルカの姿が見える。そしてそのさらに上に、小さな点のようにも見える誰かも見えた。

「何だぁ、アイツは!?」
『ボクだって知らないよ! でも普通に考えるなら、ホテルの爆破をしたのがアレっていう認識でいいんじゃない?』
「だろーな。なんとか始末してぇが、あのドラゴン女と意思疎通できんのはアイツだけだ。変わってやらなきゃダメか」
『でも身体能力と反射速度的にはキミの方が上だしなぁ……仕方ない、起こしてあげようか。ただし肉体の主導権はキミだよ』





「あーあ、腕時計盗まれただけで私たちヒマですねぇ」
『その点について、ご報告がございます』
「ん、どしたの?」
『新しい「コネクター」が2名出現しました。自動的に登録済みですが、既にレベルが1上昇しています』
「へー、何て名前の人たち?」
『名は無いようです。どうやら、啓斗様はご自身のの精神に存在する内在人格たちと接続した模様です』
「……なるほど。後で確認しとくからショートカット作っといてね」
『了解しました』


コネクト「忘れられし怒り」「封印されし笑顔」レベル1→2

コネクトスキル【双表面ダブルサーフィス
内にある人格のうち2つを同時に表面に出すことができるようになる。要するに、2つの人格で同時に話せるようになる。
肉体を動かすことができるのは発動時に表面に出ていた人格のみ。
このスキルはガチャを引かずに使用できる。





『さて、内在人格として存在するのは慣れてないみたいだからまだ寝てるみたいだし、起こしてあげよう』
「頼むぜ。俺は今のうちにドラゴン女と合流しとく」

真下にいるミューズを完全に無視し、ルカと合流するために上空へと上がっていった。






「うーん、これは面倒なことになったなぁ。ベネット相手にあれだけやった2人だし、彼女だけじゃ辛いかもしれないな……」
「ローグさん、何をなさってるんですか?」
「ん? ああ、ヴェローナちゃんか。それがさ、大変なんだよ。ホテル爆破に行ったあの子がね……」
「まさか、しくじりましたか!?」
「いや、そうじゃなくて。ちょっと厄介な状況に巻き込まれてるんだよ。ベネットを狙ってる2人と遭遇しちゃって、しかも現場にミューズ巡査がいるんだよ」
「あ、あの執念の塊みたいな警官ですか。それはまた面倒ですね。仕方がありません、私が加勢に行きましょう」
「場所はあの悪趣味ホテル〈スターアライヴ〉の屋上付近だよ。早めに行ったげて」
「了解です。では、監視と連絡をしっかりお願いしますね」

そう言い残すと、ヴェローナは大急ぎで梯子を上って「ジャンクヤード・ジャンキーズ」の根城から出ていった。

「……あーあ、ヴァーリュオンから長旅のはずなのに災難だねぇ。道中で貴重品を盗まれて泊まるホテル爆破された挙句、最後には『トリガージャンキー』の相手させられるなんてさ。
でも正直、男の方には生きてここまで辿り着いてほしいかな。この腕時計、なかなかのセキュリティしてるし」

ローグは「カシュッ」という音を立てて缶ジュースを開けると、一気飲みして缶を投げ捨て、巨大なモニターとパソコンに向かった。

「でも、どんなシチュエーションも楽しまないとね。ジェドとミリアも遊ぶか聞いてみようかな。ああ、今日は楽しい日になる予感がする! 」

「異世界スキルガチャラー(旧バージョン)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • ノベルバユーザー85202

    伏線が堂々と仁王立ちしていらっしゃる

    0
コメントを書く