異世界スキルガチャラー

黒烏

クレイジー・ジャンキーズ 1

全速力でマギクニカへと走っていった啓斗を見送ると、ゼーテはルカに駆け寄る。
ルカは先ほどから何やら唸っているのだ。

「ルカ、大丈夫? ちゃんと治療した方がいいんじゃない?」
「だ、いじょうぶ。う……ううう……ふっ!」

腹に力を込めると、体内からボトボト血まみれの弾丸が出てきた。治癒を阻害していた弾丸が除去されるやいなや、傷が完全に修復された。

「はぁ、傷自体は治るけど、ものすごい痛い……」

腹を押さえて立ち上がると、ルカは啓斗が向かっていった方向を見据えて1つ頷いた。
ゼーテは彼女のその動作だけで何を考えているか容易に想像することができた。

「ルカ、まさかケイトを追いかけようとか思ってないわよね?」
「もちろん。ケイト君の傍にいないと、私どうにかなっちゃうし、この状況で追いかけられるの私だけでしょ」
「そうだけど……ああ、もういいわ。貴女とアイツのコンビは自分の言ったことを曲げた試しが無いもんね」

諦めの感情を全身から放出しながら、ゼーテはポケットからメモらしきものを取り出してペンで何やら書き留めると、ルカに渡す。

「待ち合わせ場所。絶対に無事で来てよ、私が来た時にいなくても何時間でも待ってあげるから」
「分かった、ありがとうゼーテさん!」

メモを受け取ってポケットにしまうと同時に、背中に龍の翼を生やす。早鐘を打つ心臓の鼓動を感じながら、ルカは啓斗を追って空に舞った。

「ゼーテ様って、言葉はちょっと刺々しいですけどやっぱり優しいですよねー」
「……ラビア、仕事は終わったの?」
「きゅ、休憩中です」
「なに吞気に休んでんの! 2人を急いで追いかけるんだから、さっさと馬車直すわよ!!」
「は、はい!!」





時はほんの少しだけ前後し、啓斗がバイクを召喚してマギクニカへ向かった直後。
場所は、マギクニカで廃棄物とはみ出し者が集まるところ。ここは、中央街の人間からもここに住んでいる人間からも、侮蔑や皮肉を込めてこう呼ばれていた。〈ガラクタジャンクの庭ヤード〉と。

啓斗から腕時計を奪った少女、ベネット・レッドクルーは、自分が住処にしているジャンクヤードの端に降りた。

「あー、体がギクシャクするニャー。えっと、入り口は……」

彼女が機械むき出しの指を鳴らすと、近くで「ガコン!」という大きな音が響くと同時に、地面にあるマンホールの蓋のようなものが開いた。

「あったあった。よいしょっと」

周囲を見回して誰もいないことを確認すると、ベネットはマンホールの中に飛び込んだ。


「なんか、久しぶりに来てみたらまた魔改造されてるニャ……」

中は近未来的でメカメカしい通路になっており、ベネットはところどころで体をバチバチ言わせながら奥に進む。
通路を抜けて自動ドアが開くと視界が広がり、彼女にとって見慣れた光景が目に入った。
普通の家庭の居間くらいの大きさの部屋。壁中に無数のモニターが広がり、それら全てに別の映像が流れている。床にはぐしゃぐしゃにされた設計図の残骸や何かの機械のパーツ、ジュースの空ペットボトルや健康に悪いインスタント食品の容器などが散乱しており、まともな人間が生活している感は無い。
そんな部屋の中央にある一脚の椅子に、ベネットを待ち構えるようにこちらを向いて座っている少年がいた。
リラックスした様子で椅子に深く腰掛けている少年は、濃い紫色の髪をして眼鏡をかけ、首にヘッドホンをかけている。目の下に濃い隈が刻み込まれていて、何日も寝ていないのが容易に分かる。

「やあ、ベネット。また随分と綺麗な状態になっちゃって」
「ローグ、キミの趣味だけは本当に理解ができないニャ。さっさと修復、頼むニャ」
「僕としてはもう少しこの剝き出しの状態を鑑賞してたいけど、大好きな君の頼みなら仕方ないな。ほら、そこに寝て」

少年、ローグは椅子のすぐ近くに置いてあるシングルベッドを指さし、自分は何やら工具箱のようなものを取り出した。

「忘れてるかもしれないから言うけど、僕は内部の機械部分は完ぺきに直せるけど、表皮は下にいるミリアに頼みなよ。あ、でも若い女の子の皮膚切らしてるって言ってたような……」

カチャカチャとベネットの体を「直し」ながら、ローグは目線だけで奥にある扉を示す。

「んー、詳しいことは直接聞くから問題ないニャ。それよりも、いい収穫が2つあるニャ」
「あ、まだ動かないで。目を直して終わりだから」

新しい機械眼球を取り出して光だけになっている部分にしっかりはめ込むと、ローグは満足そうな顔をして立ち上がった。

「それじゃ、はいこの2つ」

ベネットは懐から可変武器と腕時計をローグに手渡す。

「武器の方は改造して、腕時計は構造を調べてほしいニャ。両方ハイテクなアイテムだからちゃんと調べてニャ」
「オッケー、それじゃあね」

ローグが手を振るのを無視してベネットが奥のドアを開けると、下への階段が続いている。
そして、いきなり耳に届いた音があった。それは、聞きなれたチェーンソーの音と女性の哄笑。

「……防音ドアにするのも頷けるかもしれないニャー」

苦笑いしながら、ベネットはゆっくり階段を下りて行った。

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