異世界スキルガチャラー

黒烏

正体不明の襲撃者 1

ヴァーリュオンを出発した馬車群は、この「ユーレシオ大陸」の西側半分を領土に持つ機械帝国「マギクニカ」に向かって疾走していた。
既に出発時点から2時間が経過しているが、ただひたすらに草原を走っているため、景色が変わり映えしない。

「ふわぁ……何だか眠くなってきた………」
「気持ちは分かるけど、まだ寝ちゃ駄目よ。今の時間帯はルカが外を見張る当番だってさっき決めたでしょ。あと10分我慢して」
「りょうかーい……」

ゼーテと会話しながらルカは双眼鏡を使って外を覗き見ているが、特に変化はない。
啓斗はというと、腕時計から大量のメニュー画面やら一覧やらを呼び出していじり回していた。隣にはナビゲーターが出現しており、あーだこーだ言いながら啓斗にアドバイスを送っている。

『〈スキルチェイン〉をご自分で発見されたのは鋭いところですが、如何せん使えてないみたいですね。結構前に実装して差し上げた〈スキルセット〉も使用されてるところ見てないですし』
「そうだな、どうにも使えるスキルの量を減らして威力を上げるより、そのままたくさん使えた方が得に思えたんだ」
『んむー、一理あるので否定できませんね。でも忠告はしときますよ、ちゃんと活用できないとどこかで必ず詰みますからね』
「わざわざ実装するくらいだからそうだろうな。まあ、後々考えてみる」

作業が終了したようで、啓斗は無数のウィンドウを閉じて一息つき、ルカの肩に手を置いて交代するように合図した。

「ルカ、今から1時間俺の持ち番だ。休んでていいぞ」
「うん、分かった。んぅぅ……ねむぃ…………」

双眼鏡を手渡して自席に座り込み、壁にもたれかかったかと思うと、すぐに寝息を立て始めてしまった。

「ナビゲーター、そういえばだが、ステータスの上昇値の計算ってどうなってるんだ? ラビアのステータスを見た時思ったんだが、レベル28の強さには見えなかった」
『ああ、それですか。ステータスの基礎値は、この世に魂が存在した瞬間に血筋やら才能やらを計算して決まって、レベルに関してはその後の成長に応じて上がってくシステムになってます。ルカさんのレベル30とラビアさんのレベル30のステータスはもちろん違いますし、この世界にレベルの限界なんて無いんですよ』
「レベルの限界が無いって、どういうことだ?」
『簡単に言うと、上げようと思えばレベル1000でもそれ以上でも上げられるってことです。まあ、上がれば上がるほど1レベル上げるのにかかる労力も多くなりますが』
「なるほどな、成長に限界は無い……ってことか」
『そう言っても啓斗様のレベルは上がらないようになってますし、あまり深く考えない方がいいと思いますがね』




あと数分で馬車群が通ることになっているポイントの近くに位置する小高い丘に、一台のバイクが留まっていた。
座席の後ろにロープでくくり付けられている大きな長方形の箱が4つある。深紅の髪色と猫耳が生えた少女がそれを1つ1つ地面に下ろしており、その周囲をドローンが飛び回っている。

『この丘ならうまく狙えるんじゃないかな。ここなら双眼鏡程度じゃ下の平原からは姿が見えないし、ライフルの設置も簡単なはず』
「ニャハ、いい狙撃ポイントだニャ。それで、あと何分くらいで王サマの乗ってる馬車は見えるのかニャ?」
『えっとね、僕の計算が正しければあと10分ってところだね。チャチャっと準備して』
「ニャヒヒ、新作のスナイパーライフルの試運転にピッタシだニャー」

少女が箱のうち1つを開けると、そこには重厚なスナイパーライフルが1丁入っていた。
銃本体を取り出して弾薬を込め、スコープを覗く。準備が万端になったのを確認すると、他の箱も次々と開け始める。
中身はそれぞれ、2丁のハンドガンと2つのサプレッサー、5種類の塗装が施された手榴弾が各3個ずつ、そして無数の弾丸だった。

『……ねぇ、まさかとは思うけど、皆殺しにする気? この弾の量はこっそり金品をいただく装備には見えないんだけど』
「ニャハハハ、しばらくぶっ放してないからニャー。最近、ウズいてウズいて……」
『あはは、もう病気だよね。街の方じゃ指名手配されちゃってるけど大丈夫なの?』
「街のサツ程度じゃアタシを捕まえるなんて無理に決まってるニャ。そんなこと言ったら、アタシの前科は軽く20犯超えてるニャ」
『間違いないねー』





マギクニカへと疾走する馬車群は、小高い丘が連なる平原地帯へと侵入する。
大量の護衛馬車が守る中心にある、他と明らかに違う豪奢な馬車に、現ヴァーリュオン国王とその腹心である貴族たちが乗っている。
その馬車を引いていた大きな4頭の馬のうち、2匹がいきなり頭から血を流して地面に倒れ、絶命した。

「なっ!? いったい何が起こったっていうの!?」

ゼーテが驚きながらも真っ先に減速した馬車から飛び降り、動きが止まった王たちの乗る馬車の中へと入っていった。

「ルカ、俺たちは周囲を警戒するぞ! 何が起きてるか分からない、俺から離れるな!」
「う、うん!」

異常事態に際してすべての馬車が動きを止め、騎士団の団員達も外に出て周囲を警戒している。
すると、1人の団員が頭から血を流して倒れる。そこに駆け寄った他の団員は胸からいきなり出血して重なるように倒れ込んだ。

(くそっ、どこから何をされてるんだ? リスクはあるが、あの死体を調べてみるしかなさそうだ)

そう考え、啓斗は物理的ダメージを軽減する障壁を発生させると、全力で走って2名の騎士団員の死体の近くに来た。
そうして死体を調べると、死因が脳と心臓を的確に撃ち抜かれたことによるものだと分かった。さらに、凶器が銃弾であることも。

「まさか、狙撃されてるってことか? 一体どこから……」
「ケイト君、危ない!!」

ルカの声に反応して振り返った瞬間、すぐそこまで接近している弾丸が目に入った。咄嗟に【トリプル・スピード】を発動して身をよじったおかげで、着弾点が頭から肩にずれた。

「うぐうっ!? くそっ、全員馬車の陰に隠れろ! 遠くから何者かに狙撃されてるみたいだ!」

啓斗の言葉に応じ、まだ生き残っていた団員たちは銃弾が飛んできた方向から身を隠すように馬車の陰に移動した。

「ケイト君、無事?」
「何とかな。だが、急いで作戦を考えないと、このままじゃジリ貧になる。しかし、敵は何者なんだ?」





「んニャ? あの男、生きてるニャ。確実にヘッドショットコース入ってたはずのにー」
『すごいよね、いきなり回避速度が3倍くらいに跳ね上がってたよ』
「あいつは強そうだし後にするニャ。まずは、移動手段から奪ってやるとするかニャー」
『オッケー、じゃあステルスモードで詳しい座標のスキャンしてくるから、なるべく注意を引きつけといて』
「腕慣らしも終わったし、馬から順々に撃ち殺してやるニャ」

猫耳の少女は、少し狂気を孕んだような笑顔でライフルの弾をリロードし出した。

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