異世界スキルガチャラー

黒烏

2300連目 コネクト「神の灼炎」

ナビゲーターとひたすら話した次の日、啓斗はゼーテに呼び出されて路地裏の武具屋「Vulcan's furnace」の前に来ていた。
既に日はかなり昇ってきており、あと1、2時間もすれば昼時という時間帯だ。
店の中に入ると、一昨日来た時と変わらず炉の前で大柄の男性が金槌を振るって鉄を鍛えている。その上で(炉のある1階と武器屋になっている2階は吹き抜けで繋がっているため、入口からでも2階の様子がある程度分かる)灰色ですすだらけのツナギを着たラビアと、カジュアルな装いのゼーテが話をしているのが見えた。
ゼーテは啓斗が下にいるのを見つけると、手ぶりで上がってくるように指示してきた。

「やっと来たわね。あまりにも暇だったから騎士団の武器調達でもしようかと思ったわ」
「城からここまで全力で走っても40分だぞ、無茶言うな」
「ふーん、まあいいけど。じゃあ、さっそく本題ね」

ゼーテはラビアの肩に手を置くと、啓斗に向かってこう言った。

「ラビアちゃんにも、マギクニカに同行してもらうことにしたわ。表向きの名目は私専属の武器整備士ってことにしてね」
「表向き……?」

首を傾げる啓斗に、今度はラビア自身が得意げな顔で説明しだす。

「表向きっつっても、ちゃんとした仕事だぜ? ゼーテ様しか使えない武器である「パーシヴァル」は、その軽さと貫通力と引き換えに耐久力が低いんだ。しかも、修復の難易度も高いからオその道の専門家が要るんだよ。本当は親父のほうがいいんだけど、親父は足が悪くってさ、家からあんまし遠くまで行けないんだよ」
「ああ、そこは分かったが、「表向き」の名目があるってことは「裏」の目的もあるのか?」
「そうなんだよ。オレが同行するもう一つの目的は、マギクニカの技術をちょっぴり頂くことなのさ」

ラビアが得意げな笑顔で言うと、ゼーテが話の後を引き継ぐ。

「今回、本格的な貿易協定を結ぶにあたって、ヴァーリュオン側は魔術の指南、マギクニカ側は機械技術の提供が条件になってる。でも、マギクニカが既に魔法を軽減する技術を確立させてるらしくて、こっちは利用されるだけされて潮時になったら攻め込まれる可能性もある」
「しかも、マギクニカは武器とかバリアとかの技術は今回提供してくれないんだってよ。こっちは上級魔法以上まで教えるってのに、セッコいよなー」
「だから、万が一の場合に備えてこっそり武器を盗むか、仕組みを把握して対策を立てたいってわけ。これはジェイド王直々の命令。それで適切な人材を探せって言われてたんだけど、これがなかなか見つからなくて……」
「それで、このオレに白羽の矢が立ったってわけなんだ」
「ラビアちゃんの格好と言動なら、まさか超凄腕の鍛冶屋の娘だなんて事情を知らないと誰も思わないだろうし、しかも子供だから上手くいくだろうと思って」
「ゼーテ様、それって褒めてるんですか? それともちょっと馬鹿にしてます?」

顔をしかめて詰め寄ってくるラビアに、ゼーテはあくまでも真顔で

「もちろん褒めてるって。この国で超凄腕の鍛冶師っていったら貴女と貴女のお父さんくらいだと思うけど」
「そ、そうですかねぇ! やっぱりオレと親父って凄いんですかねぇ!」

一転して顔をほころばせて無邪気に喜ぶラビアを見て、啓斗は確かに彼女は超凄腕の鍛冶師には見えないと思った。


一通り話し終えると、ゼーテは用事があると言って帰って行ってしまった。その際、ラビアは修復が完了したパーシヴァルをケースに入れたまま手渡した。
ゼーテがいなくなった後、啓斗も帰ろうとしたが引き止められ、変わらず鉄を打ち続けているラビアの父親の隣を通りすぎた奥の部屋に案内された。

そこは、この店の雰囲気にそぐわないほどきれいに清掃されており、鍛冶をするための道具が壁にたくさん掛けられている。しかも、金床と炉があるのだ。

「ここは、「神器」と呼ばれる特殊な武器を製造、修復するための特別な工房なんだ。今は俺の部屋と兼用になってる。ほら、ベッドもあるだろ」

ラビアが指さした方を見ると、間に合わせのように置いてある簡易なシングルベッドが目に入った。他にクローゼットなどは見当たらない。

「この炉は、特別な種火を使わないとまともに火が付かないんだ。ムルキベル家に伝わる秘伝の【神の火】って呼ばれてる魔術的な火なんだけど、オレはまだ完璧には使えないんだ」

肩をすくめると、ラビアは金床の上に置いてある細長い金属の棒のようなものを手に取る。いや、ただの棒ではない。それには、確かにやじりと矢羽がついていた。

「こいつは、オレが1回だけ不完全な種火で炉を燃やして作った矢だ。材料はちゃんと〈アルテミスの矢〉と同じものを使ったんだけど、火が不完全なせいで上手くいかなかった」

そう言うと彼女はその矢を啓斗に手渡してくる。
受け取ると、確実にいつもルカが使っている木の矢と材質が違うのは分かるのだが、不思議なことにあまり重さを感じなかった。

「失敗作でも、ちゃんとした人が使えば少しは使えるはずだ。あのルカさんって人にあげるか、じゃなかったら捨ててくれ。あ、そうそう、もし何か武器作ってほしかったらいつでも言ってくれ。オレ、ケイ兄さんのこと気に入ったからさ。何なら鍛冶の仕方も教えてやるぞ」
「本当か?」
「ああ、嘘はつかないよ。でも今日は忙しいから無理だぜ、騎士団の人たちからの注文が山ほど入ってるんだ。あの人たちだけはこの国でも武器の重要さを分かってる」

ラビアは鍛冶用と思われる手ごろな大きさの金槌を手に取ると、啓斗を出口まで誘導した。

「んじゃな、これからよろしく、ケイ兄さん」
「ああ、よろしく。……あー、別に「さん」はつけなくていいぞ?」
「ホントか? じゃあこれからはケイにいって呼ぶ。ケイ兄、またな!」

笑顔で別れの挨拶を交わすと、ラビアは店の中に引っ込んでしまった。
それと同時に、腕時計から昨日聞いた「パキンッ」という音を耳にする。驚いて腕時計を見ると、今まさにそこから表示画面が現れるところだった。

コネクト「神の灼炎」レベル1→2
コネクトスキル【武器鍛錬:初級】解放

その表示を確認すると同時に啓斗はガチャの画面を開き、そのままガチャを引く。
今日は運が向かなかったのか、虹色の光球が排出されないという事態は発生したが、今まで見たことのない、光沢のある明らかに「鉄」という色の光球が排出された。

コネクトスキル【武器鍛錬:初級】
初級レベルの武器鍛錬が可能になる。
鍛錬に成功すると、武器の威力・耐久度が10%上昇し、クリティカル率5%が付与される。
鍛錬の成功率は鍛冶の腕とコネクトレベルの高さによって決定される。

このスキルを見て疑問に思ったところがあったらしく、啓斗はナビゲーターを呼んだ。

『はいはーい、ナビゲーターヘルプでーっす。ご用件は何ですかー?』
「この武器鍛錬の成功率と、ラビアのコネクトスキルの習得頻度は?」
『はいはい、えーっと、現在の成功率は30%で、習得頻度は……おお、凄い! レベル2~7までは上がるたびにスキル貰えるそうです!』
「なるほど。武器を強化したいならラビアとの交流は必須ってわけか」
『そうみたいですねー』

ヴァーリュオン出発まで:あと2日

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