異世界スキルガチャラー

黒烏

裏路地からの金属音

「ねぇ、ケイトとルカに付き合ってほしいことがあるんだけど」

いつものメンバーからシーヴァとマリーを除いた3人で朝食を食べていると、ゼーテがおもむろに喋りだした。

「ん、どうした? あの本の解読なら本当に無理だぞ」
「それはまた今度やるわ。それより、出発前に片付けとく必要がある問題が発生したから手伝ってほしいの」

ハムエッグに手を付けながら彼女は話を続ける。

「街の外の草原で、普通なら考えられないくらい強力な魔物が確認されたって報告が入ったのよね。巡回の兵士レベルじゃ太刀打ちできないらしくて、騎士団に討伐依頼が回ってきたの」
「なるほど、その魔物の討伐に俺たちも同行して欲しいってことだな?」
「そゆこと。騎士団の他の団員はほとんど街の修復に手一杯だから、自由に動けるアンタ達が一緒に来てくれるとだいぶ助かるんだけど」

物凄いスピードで朝食を食べ終えていたルカが目を輝かせながら横から言い出す。

「私、行く! 強い魔物なら、戦いの練習にももってこいだし!」
「そうね、私たち3人で戦えば問題なく勝てるレベルではあるだろうし、ルカが行くって言ってくれるなら、すぐ準備して行きましょうか」
「……俺は行く前提なのか」
「当たり前でしょ、アンタとルカが離れたらロクな事ないんだから。大人しくルカに引っ付いてなさい。出かけるのは明日だから、しっかり準備しときなさいよ」

冷たい眼差しのゼーテにそう告げられ、啓斗は黙り込むしかなかった。ゼーテの指摘がもっともであったことと、結局自分も行く気であったためである。




「ルカと私は外出用の服をちゃんと選ぶ必要があるから別行動ね。なんだったら色々買いに行ってもいいから。アンタとルカの買い物に関しては、シーヴァが口利きして騎士団の資金から出るようになってる。大体何でも買っていいけど、あんまり高い物は買わないようにね」

ルカの腕を掴んでグイグイ引っ張って遠ざかりながら、ゼーテはそう言い置いた。

「装備、か。今まで考えてなかったが、確かにあったほうがいいかもな」

啓斗はスキルを使えば武器を召喚することもできるのだが、MPを消費する上に性能は(この異世界の一般常識的に)それなり程度のものだ。
より強力な武器を手に入れたいならば、そういうスキルがあることを祈りつつ運任せでガチャを引いてみるしかない。

「スキルガチャは後で引くとして、ちょっと行ってみるか。この辺の街は王城が近いし、暴走してたルカの攻撃もあまり届いてない。……そう考えると、けっこうピンポイントで王城だけ破壊されたんだな」

いらない偶然に苦笑いしながらも、啓斗は動きやすい軽装に着替えて街に出てみることにした。




王城から出て半径数キロほど、円形に周囲の街を散策する(【ダッシュアップ】を使って移動スピードを上げて、疲労を軽減をしているのは言うまでもない)。
街側から修復中の王城を眺めたり、途中で雑貨屋やら露店タイプの飲み物屋に寄ったりしながら、1日使ってのんびりと街を回った。
ゼーテの言う通り、何を買うにしても騎士団の証である指輪と自分がどういう者なのか伝えると、代金はタダになった(ただのドリンクを買うためにいちいち特権を振りかざすのはいささか気が引けたが)。
夕刻に差し掛かり、空がオレンジ色に染まり始めたころ、啓斗はそろそろ戻ろうかと考えていた。

「寄り道も楽しむために敢えて道を聞いてなかったが、作戦を間違えたかもな。戦いのための装備を売ってるような場所が見つけられなかった」

もう人もまばらで静かになった街。広場にあったベンチに座りながら、啓斗は城にもう戻ってしまおうかと考えていた。
その時、風の音に混じって啓斗の耳に届いた音があった。
カーン、カーン、というような具合の、金属に何かを打ち付けているような音だ。

「……この音は何かで聞いたことがある。そうだ、金槌で金床を叩いている音……に、似ている気がする」

金槌と金床を使うような作業をしている場所といえば、時代劇やゲームで出てくるような「鍛冶屋」だろう。

「行ってみる価値はあるか。よし、善は急げだ」

音のする方向に行ってみようと思った啓斗は、ずっと使っていた【ダッシュアップ】に加えて【トリプル・スピード】も併用して全力ダッシュした。


数分も経たないうちに、啓斗は音の発信源に到着した。
ただ街を散策しているだけでは絶対に行かないであろう裏路地にあるその場所は、明らかに工房のようで、鉄板らしきものに釘やらを打ち付けて繋げ、無理やり看板にしたようなものが壁に掲げてある。

「武具屋「Vulcan'sヴァルカンズ furnaceファーネス」。直訳すると「ヴァルカンの炉」……取り敢えず入ってみるか」

半開きになっているものの開けるのにはかなり重い鉄製の扉を開けて中に入る。
中に入った啓斗を迎えたのは、異様な熱気とすぐ近くで聞こえてくる金槌を打ち付ける大きな金属音だ。
真正面に大きな炉があり、その両隣には上り階段が続いている。
正面の炉の前に、広場まで響いていた金属音の主がいた。といっても啓斗に背を向けているので、筋肉質な体格をした上半身裸の屈強な男だというところまでしかわからない。

「あの、すみません」
「………………」

啓斗の声が聞こえているのかいないのか、男は無言のまま黙々と金槌を振り下ろし続けている。
男が金槌を振り下ろす度に、金床から無数の火花が散る。男は明らかにその火花をもろに浴びているはずなのだが、男が意に介している様子はない。

「あのー、すみませーん」
「………………」
「あのー!!」
「あー、ダメダメ。今の親父になに言っても無駄だよ」

金槌を振り下ろしていた男に叫ぶようにして呼びかけていた啓斗は、突然背後から響いた声に相当驚き、身構えながら素早く振り向いた。

「わ、お兄さん落ち着いた落ち着いた! 別に後ろから殴りかかろうってんじゃないんだ、そう身構えないでくれよ!」

振り向いた啓斗の前にいたのは、作業着と思われるツナギを着て剣やら槍やらをたくさん担ぎ、頬にススを付着させた啓斗と同じくらいの背丈の……顔立ちから見て少女、であった。

「ん、お兄さん初めて来たクチだね? ようこそ、武具屋「ヴァルカンズ・ファーネス」へ! こんな暑っ苦しい場所にわざわざ来たってことは、武器が欲しいんだろ?」
「は、はい。1日探し回ってやっと見つけたんです」
「あっは、敬語って! 礼儀正しいんだな、お前。タメ口でいいよタメ口で。オレはラビアってんだ、よろしくな」
「あ、よ、よろしく。俺は啓斗って名前だ」
「ケートか、いい名前だな。親父は今作業中だし、オレが店の案内するよ。ほら、付いてきな」

ラビアと名乗った少女は、担いでいる武器を未だに金槌を振り下ろしている男の近くに置くと、啓斗に手で合図して階段を上がって行った。
啓斗も続いて階段を上ると、そこでようやく啓斗の存在に気付いたらしい男が、顔は上げずに

「……いらっしゃい」

とだけ呟き、また作業に戻ってしまった。
とても客に対する態度では無いのだが、作業の邪魔になってはいけないと思ったので啓斗は何も言わなかった。

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