異世界スキルガチャラー

黒烏

雨降る朝の終わり

『とうちゃーっく!スナっち、止まって止まってー!』
「うーお!!」

空を見上げていた啓斗とルカは、その声で我に返った。

「予想通り、あのヴァルキリーを喰わせたみたいだな」
『はい、そりゃもうね! あそこまで良い素材を見過ごせますかって話ですよ!』
「がぁ!」

ランドグリーズの見た目と声で知性を感じられない音を発するスナっちに少なからず違和感を覚える啓斗だった。

『いやー、朝っぱらからいい運動でしたねー!』
「動いたのは俺たちだぞ」
「そうだよ! ものすっごく疲れたんだから!」

大笑いするナビゲーターに全力抗議する2人だったが、すぐにやるべきことを思い出して止めた。

「そうだ! あの男の子を何とかしてあげないと!」
「そうだな。ついさっき強力な回復魔法を手に入れたし、これを使えば治せるようにはず」

2人は急いで居間らしき部屋に向かい、テーブルに寝かされている少年に駆け寄った。

「ケイト君、お願い」
「ああ。発動、【ゼノ・ヒール】」

しかし、少年は目を開けない。

「……ん、おかしいな。【ゼノ・ヒール】!」

何も起こらなかった。少年の傷が治ることも無く、目を覚ますことも無い。

「MPが足りないのか? おい、ナビゲー……」
『MPは足りてますよ。あと1230ありますからね』
「じゃあ、何で発動しないんだ!?」
『いや、何でとかありませんって。こうなったら理由なんて1つしかないでしょ』

ナビゲーターは大袈裟に肩をすくめて見せた。いつもの笑顔が無いその表情に、啓斗は何故少年に【ゼノ・ヒール】が効かないかが分かってしまった。

「………そうか」
『はい、そうです。既に死んだ人・・・・・・に回復魔法は効きません』

それを聞き、ルカはその場に座り込んでしまった。

「おいナビゲーター、そこまで直接的に言わなくても良いだろ」
『はい? 私なにか間違ったこと言いました?』
「いや、間違ってる間違ってないの問題じゃないだろう。人徳的な……」
『人徳? 私は啓斗様に情報を適切にお伝えする「ナビゲーター」ですから、変に遠回しは良くないと思って言ったんですが』

ナビゲーターは何の感情も把握出来ない顔で淡々とそう告げた。

『それでどうします? この少年の死……じゃなくて遺体・・
『これから、この身元不明の子の親族を探して回るんですか? 見つからないと思いますが。だってこの街の住人だとも限りませんし、ヴァーリュオンは広いですよー?』

ナビゲーターはわざとらしく言い回しを変えて啓斗たちに質問を投げてきた。
ルカは座り込んだまま俯いてしまい、啓斗も言葉に詰まってしまった。

『……まぁ、そういう反応になるでしょうね。では、こういうのはどうでしょうか』

ナビゲーターは人差し指をピンと立てて言う。

『私がこの遺体を回収します。魂は私が「天使」として責任を持って成仏させますし、体の後処理もしっかりしますから』
「でも、それじゃこの子のお父さんとお母さんは……二度と、二度とこの子に会えなくなっちゃうでしょ!?」

ルカが大声を張り上げて問うと、ナビゲーターは普通に頷いた。

『そうなります。ですが、この少年の両親が今生きているかも疑わしいですよ? こんな人気のない街に1人でいたんですから、孤児か何かの可能性も』
「でも、でも……うぅ……」

ルカは頭を抱えて呻き始めてしまった。
その姿を見て、啓斗は吐き捨てるように言った。

「もういい、ナビゲーター。お前の好きにしろ」
「え、ケイト君なに言ってるの!?」
「ルカ、俺達じゃもうこの子をどうにも出来ない。なら、確実に魂が救われる方の選択肢を選んだ方がいいと思う」
『さっすが啓斗様、物分りが良くて助かります』
「……分かった。ケイト君が言うなら、私もそれでいい」

2人が提案を了承すると、ナビゲーターは大きく頷いてニコリと笑った。

『遺体ごとこの子をワープさせます。その後はそのまま作業に移りますので、お2人は勝手に帰ってていいですよ』

彼女が指をパチンと鳴らすと、少年の遺体が光に包まれた後、消え去った。

『では、失礼しますね。お疲れ様でしたー』

ナビゲーターのホログラムとスナっちも、フッと消えてしまった。

「……戻ろう、ルカ」
「……うん」

立ち上がるルカの隣に立ち、一緒に外へ出る。
空はもう晴れ渡っているが、2人の間に流れる空気は重かった。








「……はい、終わり。成仏っていうか「消滅」ですけど、苦しみは無かったはず」

見渡す限り真っ白な空間の中、ナビゲーターはぼんやり座っていた。
すぐ横では、ランドグリーズ姿のままのスナっちが少年の肉体を貪り食っていた。

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