異世界スキルガチャラー
Lend and Borrow
「ここの家の姓はなんと言ったか覚えているか?」
「んーとね、確か「ナイトブライト」だったと思うよ」
「そうか。名はお互いに呼び合っていたから容易に分かった。関係性は兄と妹だな」
「そこまで分かったならもうパパッとイケんじゃない?僕もう帰りたいんだけど」
「待て、これを終わらせてからだ。気に入ったからな。醍醐味をやっておきたいだろう」
「はいはい、好きにしなよ。僕は腕に傷つけやがったこの剣ぶち折っとく」
寝巻きの少年は床に落ちた剣を拾い上げると、驚きの声を上げる。
「うわ、軽っ!剣の重さじゃないよコレ! ほー、これなら確かに重さに振り回されたりせずに自由自在に攻撃できるかもね。ま、壊すけど」
そう言って少年は剣をもう一度床に置き、ダンダンと大きな音を立てて踏み潰し始めた。
剣はみるみるうちにバラバラになっていき、最終的には刃の部分が原型を留めなくなった。
「あー、スッキリした。はい、じゃあサッサと終わらせてね。僕、外で待ってるからさ」
少年は壁に蹴りを入れて粉々に砕くと、そのまま夜闇に歩いていった。
「では、こちらも始めようか。貴様の欲望を具現化する儀式を」
シーヴァは、男が額に触るとゆっくりと床に着地して仰向けに倒れる。
ゼーテも床に降ろされたが、黄金スーツの男が両頬に手を添えてほぼ0距離で見つめてきた。
「私は汝の欲望を知った。それは兄への叶わぬ恋慕と、それを元とした陰湿な執着だ」
「私、は………」
「私は人の魂を覗き、その欲望を見ることが出来る。偽ることは不可能なのだ。ふむ、根深き嫉妬まで裏に隠れているな。才能に恵まれた兄に本当は怨嗟の念を抱いているのだろう?」
「ちが、う……違う………!!」
ゼーテの瞳の奥を覗くように目を見開き、さらに顔を近づける。
ゼーテからは、男の深紅の瞳だけが視界いっぱいに映っていた。
「自身の欲望から逃れることはできん。そして私は、その歪んだ欲望を魔力として具現化させることが出来るのだ」
「欲望は魔力となり、魔力は魔法へと変貌する。そして魔法は、欲望の強さに応じた呪いとなって汝とその最愛の者を縛るだろう」
「さて、ここで汝の心の奥底の本音に向けて問う。汝は、その「呪い」に何を望む?」
「………そんなの、何も、望まな……」
ゼーテが反論しようとした時、男は両頬に添えていた手を彼女の頭に移動した。
すると、脳に電撃が走ったような衝撃を感じ、ゼーテは何も考えられなくなる。
「もう一度問う。嘘偽りない言葉で応えよ。汝の欲望は、何を望む?」
「…………………」
「言え。汝の真の望みを」
「………お兄、ちゃんと……私を繋ぐ……もの」
「そうだ、続けよ。どんな「呪い」をお望みだ?」
「お兄ちゃんの力が……欲しい! でも……嫌われたく……ない……」
「……ほう、矛盾した願いだな。だが、良いだろう。汝の望む未来への歪んだ夢と欲望を魔力とし、汝ら兄妹を繋ぐ「絆」を授けよう」
そして男がゼーテから手を離す。瞬間、ゼーテの頭から無数の銀糸のようなものが出現し始める。
銀糸はシーヴァへと向かっていき、彼の頭に次々と刺さって侵入して行った。
「兄から力を半分ほど奪い取り、自身のものとする。力を一時的に「借りる」という形で手にする訳か。さて、本当の意味での「返済」は何年先になるのだろうな」
「クク、やはりこの兄妹気に入ったぞ。しばらくは静観して成長を見るのも一興か」
顎に指を当ててくつくつと笑い、床に倒れた兄妹を見やる。
既にゼーテから出現した銀糸はシーヴァの頭を多い尽くし、何かを吸収しているように脈打っていた。
「……魔力を「借りた」ところで、それを制御できるかは疑問だな。暴走して死んでしまっては面白くない」
「魔眼の力は強大であるからな。これは呪われた旅路へと人生を落とした兄妹への手向けだ。有難く受け取るがいい」
男は懐から何やら紐のついた四角い布切れを2つ取り出す。
男が布切れを指でなぞると、不可思議な紋様が布に浮かび上がり始めた。
「魔力制御のための眼帯だ。それと、呪いにも名称が必要だな」
「そうだな……【魔力貸借】とでもしようか」
「では、私はこれにて失礼する。期待を裏切らないでくれたまえよ、シーヴァと、ゼーテ……だったかな?」
いつの間にか手元に戻っていたステッキをクルリと回して軽く会釈をすると、男は優雅な足取りで壁に空いた穴から静かな夜の世界に歩み去って行った。
床に倒れ伏した兄妹は未だ起き上がることなく、妹から伸びる銀糸が兄から何かを吸収し続けていた。
「と、いうのが当事者であるあの兄妹すら知ることがなかった真相だ。ベルフェゴール、今更この話を蒸し返してどういうつもりだね?」
「いやさぁ、この前リュートタウン行った時に偶然戦ったから詳しく思い出しときたかったんだよねー」
「ほう、それで少しは成長していたか?」
「んー、まだなんとも言えないねー。妹さんの方はまだ魔力借りてる状態っぽいし、お兄さんの方もあんま強くなかったかなー」
「そうか。まだ熟すまでは時間がかかるという訳だな」
「そんな所。しっかしルシファーさんも面倒なこと好きだねー。僕ならあの場でチャッチャと始末するのにさー」
「それでは面白くないだろう? 才能を持つ者が悪魔によって枷をはめられ、それを解き放ち、強くなり、元凶の悪魔の元に辿り着く。そんなドラマを演じてみても損は無いと思うが?」
「悪趣味だねぇ。で、そのドラマの結末は悪魔さんが勇猛な騎士兄妹を殺して終わりって所かな?」
「クク、強く気高き騎士達を圧倒的な力で叩き潰して私が勝利する! ああ、ここまで美しいシナリオは無い!!」
「あ、ちなみに名前お兄さんの方に教えたよ。まあ、あの情報だけでここまで来るのは無理な話だけどね」
「結構結構。楽しみに待とうではないか!私が特別な施しを与えた特別な男女の人生がどのような結末を迎えるか楽しみだ!」
「少なくとも、ハッピーエンドは無さそうだよね」
寝巻きの少年「怠惰」のベルフェゴールと、黄金の男「傲慢」のルシファーは、とある部屋にてそのような会話を交わしていた。
「んーとね、確か「ナイトブライト」だったと思うよ」
「そうか。名はお互いに呼び合っていたから容易に分かった。関係性は兄と妹だな」
「そこまで分かったならもうパパッとイケんじゃない?僕もう帰りたいんだけど」
「待て、これを終わらせてからだ。気に入ったからな。醍醐味をやっておきたいだろう」
「はいはい、好きにしなよ。僕は腕に傷つけやがったこの剣ぶち折っとく」
寝巻きの少年は床に落ちた剣を拾い上げると、驚きの声を上げる。
「うわ、軽っ!剣の重さじゃないよコレ! ほー、これなら確かに重さに振り回されたりせずに自由自在に攻撃できるかもね。ま、壊すけど」
そう言って少年は剣をもう一度床に置き、ダンダンと大きな音を立てて踏み潰し始めた。
剣はみるみるうちにバラバラになっていき、最終的には刃の部分が原型を留めなくなった。
「あー、スッキリした。はい、じゃあサッサと終わらせてね。僕、外で待ってるからさ」
少年は壁に蹴りを入れて粉々に砕くと、そのまま夜闇に歩いていった。
「では、こちらも始めようか。貴様の欲望を具現化する儀式を」
シーヴァは、男が額に触るとゆっくりと床に着地して仰向けに倒れる。
ゼーテも床に降ろされたが、黄金スーツの男が両頬に手を添えてほぼ0距離で見つめてきた。
「私は汝の欲望を知った。それは兄への叶わぬ恋慕と、それを元とした陰湿な執着だ」
「私、は………」
「私は人の魂を覗き、その欲望を見ることが出来る。偽ることは不可能なのだ。ふむ、根深き嫉妬まで裏に隠れているな。才能に恵まれた兄に本当は怨嗟の念を抱いているのだろう?」
「ちが、う……違う………!!」
ゼーテの瞳の奥を覗くように目を見開き、さらに顔を近づける。
ゼーテからは、男の深紅の瞳だけが視界いっぱいに映っていた。
「自身の欲望から逃れることはできん。そして私は、その歪んだ欲望を魔力として具現化させることが出来るのだ」
「欲望は魔力となり、魔力は魔法へと変貌する。そして魔法は、欲望の強さに応じた呪いとなって汝とその最愛の者を縛るだろう」
「さて、ここで汝の心の奥底の本音に向けて問う。汝は、その「呪い」に何を望む?」
「………そんなの、何も、望まな……」
ゼーテが反論しようとした時、男は両頬に添えていた手を彼女の頭に移動した。
すると、脳に電撃が走ったような衝撃を感じ、ゼーテは何も考えられなくなる。
「もう一度問う。嘘偽りない言葉で応えよ。汝の欲望は、何を望む?」
「…………………」
「言え。汝の真の望みを」
「………お兄、ちゃんと……私を繋ぐ……もの」
「そうだ、続けよ。どんな「呪い」をお望みだ?」
「お兄ちゃんの力が……欲しい! でも……嫌われたく……ない……」
「……ほう、矛盾した願いだな。だが、良いだろう。汝の望む未来への歪んだ夢と欲望を魔力とし、汝ら兄妹を繋ぐ「絆」を授けよう」
そして男がゼーテから手を離す。瞬間、ゼーテの頭から無数の銀糸のようなものが出現し始める。
銀糸はシーヴァへと向かっていき、彼の頭に次々と刺さって侵入して行った。
「兄から力を半分ほど奪い取り、自身のものとする。力を一時的に「借りる」という形で手にする訳か。さて、本当の意味での「返済」は何年先になるのだろうな」
「クク、やはりこの兄妹気に入ったぞ。しばらくは静観して成長を見るのも一興か」
顎に指を当ててくつくつと笑い、床に倒れた兄妹を見やる。
既にゼーテから出現した銀糸はシーヴァの頭を多い尽くし、何かを吸収しているように脈打っていた。
「……魔力を「借りた」ところで、それを制御できるかは疑問だな。暴走して死んでしまっては面白くない」
「魔眼の力は強大であるからな。これは呪われた旅路へと人生を落とした兄妹への手向けだ。有難く受け取るがいい」
男は懐から何やら紐のついた四角い布切れを2つ取り出す。
男が布切れを指でなぞると、不可思議な紋様が布に浮かび上がり始めた。
「魔力制御のための眼帯だ。それと、呪いにも名称が必要だな」
「そうだな……【魔力貸借】とでもしようか」
「では、私はこれにて失礼する。期待を裏切らないでくれたまえよ、シーヴァと、ゼーテ……だったかな?」
いつの間にか手元に戻っていたステッキをクルリと回して軽く会釈をすると、男は優雅な足取りで壁に空いた穴から静かな夜の世界に歩み去って行った。
床に倒れ伏した兄妹は未だ起き上がることなく、妹から伸びる銀糸が兄から何かを吸収し続けていた。
「と、いうのが当事者であるあの兄妹すら知ることがなかった真相だ。ベルフェゴール、今更この話を蒸し返してどういうつもりだね?」
「いやさぁ、この前リュートタウン行った時に偶然戦ったから詳しく思い出しときたかったんだよねー」
「ほう、それで少しは成長していたか?」
「んー、まだなんとも言えないねー。妹さんの方はまだ魔力借りてる状態っぽいし、お兄さんの方もあんま強くなかったかなー」
「そうか。まだ熟すまでは時間がかかるという訳だな」
「そんな所。しっかしルシファーさんも面倒なこと好きだねー。僕ならあの場でチャッチャと始末するのにさー」
「それでは面白くないだろう? 才能を持つ者が悪魔によって枷をはめられ、それを解き放ち、強くなり、元凶の悪魔の元に辿り着く。そんなドラマを演じてみても損は無いと思うが?」
「悪趣味だねぇ。で、そのドラマの結末は悪魔さんが勇猛な騎士兄妹を殺して終わりって所かな?」
「クク、強く気高き騎士達を圧倒的な力で叩き潰して私が勝利する! ああ、ここまで美しいシナリオは無い!!」
「あ、ちなみに名前お兄さんの方に教えたよ。まあ、あの情報だけでここまで来るのは無理な話だけどね」
「結構結構。楽しみに待とうではないか!私が特別な施しを与えた特別な男女の人生がどのような結末を迎えるか楽しみだ!」
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