異世界スキルガチャラー
帰還する馬車の中で 上
「う、うう……」
『啓斗様!良かったぁ、気がついたんですね!』
もう一度目を覚ますと、啓斗は無限ダンジョンに戻っていた。
あの牢屋での出来事は夢だったのだろうか。
しかし、あの2人の囚人の声は耳にこびり付いてしまっている。
ピエロの方は「ボク達を忘れないで」と言った。
ホッケーマスクの方は「早くここから出せ」と要求してきた。
実態は啓斗本人にも分からないが、あの2人がどうなっていくかは啓斗次第らしい。
(あの2人……あの話し方……何か引っかかる。どこかで会ったか? ……くそっ、思い出せない!)
膝をついたまま頭を抱えてひたすら考えを巡らせている啓斗に、ナビゲーターが声をかける。
『あのー、啓斗様?』
「……すまん。変な夢を見てな」
『変な夢?毒の影響ですかね?』
「かもな。よし、もう大丈夫だ。えーっと、帰るにはこの石を使うんだったか」
立ち上がり、ポケットから淡く輝いている小さな石を取り出す。
『ああ、それ砕けばいいみたいです。壁に投げつければいいんじゃないですかね?』
「そうか。ふっ!」
思いっきり壁に向かって石を投げつけると、パキャンという軽い音を立てて粉々に砕け散った。
すると、石の砕けた場所の空間に青い煙が発生し、啓斗を包み込んだ。
不思議な浮遊感を感じた瞬間、目の前まで見えなくなる。
ちなみに言っておくと、啓斗が目を覚ました時には既に、スナっちが蛇を食い尽くしていた。
視界の遮りが無くなった時、啓斗は洞窟の前の草原に立っていた。
「ワープか。こういう魔法も使えたら便利なんだろうな……」
『じゃあ頑張って当ててください!そういうスキルありますから!』
待っていてもらった馬車に乗り込み、御者に声をかける。
「ヴァーリュオン城まで飛ばしてください」
「承知しました」
馬車は、ゆっくりとヴァーリュオンに向かって走り出す。
啓斗は、ナビゲーターに一旦消えるよう言ってホログラムを消してもらい、目を閉じる。
(あの2人についてじっくり考えないといけない気がする。何かが、重要な何かがあの2人に眠っているはずなんだ)
自分の世界に沈み込み、啓斗は外界の音すら遮断した。
『……私、天使ですから啓斗様がどういう夢を見たのかは分かったんですよねー』
『まあ、こういう時に相談役を買って出るのも私の役職でしょうか』
40分後、ナビゲーターはもう一度自分のホログラムを啓斗の前に出現させる。
啓斗は、非常に虚ろな目をして物思いにふけっていた。
呼吸で胸が上下していなければ死体だと言われて納得出来るレベルで静止している。
『あ、あのー、啓斗様ー?』
「………………………」
『啓斗様ー!?』
「……………」
『啓斗様ぁぁぁぁぁ!!!』
「……はっ! ……なんだお前か」
ナビゲーターの大声で意識を現実に引き戻された啓斗は、呆れたようなため息を出した。
『はいはい、お一人で悩み続けても良いことないですよ! 私なら現代の貴方を知ってますから、ちょっと相談しませんか?』
「……それもそうだな。実は、ずっと考え込んではみたんだがどうにも思い出せないんだ」
『でしょうね。そういえば啓斗様、現代でどういう生活をなさってたんですか?』
「現代で? ここに来る前か?」
『はい。ていうか普通そうでしょう? こちらに来てからまだ2週間くらいしか経ってないんですよ?』
「そうだったか? 何か、1年くらいここで生活してる気がする」
『毎日濃密ですからねぇ。そう感じてもおかしくないと思いますよ』
ホログラムだが、ナビゲーターは雰囲気を出すために実物大(身長150cmほど)になって啓斗の眼前にに腰掛けた。
『それで、現代ではどのような生活を?』
「別に何も特別なことはないぞ?ただ、高校に通うために一人暮らしして、毎日勉強して、ネットで動画見て……寝て……」
「学校ではもっぱら図書館の住人だったな。友達も多くないし、特に皆で遊んだりも無かった」
『そこまで面白くない人生ですね』
「そうだな。ごもっともだよ」
ナビゲーターの苦言に啓斗は頷く。
「そんなのが毎日続いてたよ。家族とも別に連絡は取らなかったしな」
『……何か、自分に異常な点があるとは思いますか?』
「強いて言うなら、感情の起伏が乏しいこと。テストで良い点取っても悪い点取っても別に何も思わなかった」
「ある程度勉強は中堅の位置にいれば指摘もされないし期待もされないから楽なんだ」
天井を見上げながら言う啓斗に、ナビゲーターは半ば引きながらこう答えた。
『トラブル嫌いなタイプだったんですか。じゃあ、こんな異世界転移して迷惑だったでしょ?』
「いや、別にそうは思わなかったな。正直自分でも人生が退屈だと思ってたんだ。だからあの時にパソコンの電源を落とさずにURLを押したんだ」
『そうですかぁ。それは、良かったの……かな?まあいいですけど、じゃあ本題に入りますね』
ナビゲーター(何度も言うが、啓斗の前にいる彼女はホログラムだ)は居住まいを正すと、表情をいつもの笑顔から引き締めたものに変える。
啓斗はナビゲーターのその表情を見て、彼女が何かを知っていることを悟った。
『啓斗様!良かったぁ、気がついたんですね!』
もう一度目を覚ますと、啓斗は無限ダンジョンに戻っていた。
あの牢屋での出来事は夢だったのだろうか。
しかし、あの2人の囚人の声は耳にこびり付いてしまっている。
ピエロの方は「ボク達を忘れないで」と言った。
ホッケーマスクの方は「早くここから出せ」と要求してきた。
実態は啓斗本人にも分からないが、あの2人がどうなっていくかは啓斗次第らしい。
(あの2人……あの話し方……何か引っかかる。どこかで会ったか? ……くそっ、思い出せない!)
膝をついたまま頭を抱えてひたすら考えを巡らせている啓斗に、ナビゲーターが声をかける。
『あのー、啓斗様?』
「……すまん。変な夢を見てな」
『変な夢?毒の影響ですかね?』
「かもな。よし、もう大丈夫だ。えーっと、帰るにはこの石を使うんだったか」
立ち上がり、ポケットから淡く輝いている小さな石を取り出す。
『ああ、それ砕けばいいみたいです。壁に投げつければいいんじゃないですかね?』
「そうか。ふっ!」
思いっきり壁に向かって石を投げつけると、パキャンという軽い音を立てて粉々に砕け散った。
すると、石の砕けた場所の空間に青い煙が発生し、啓斗を包み込んだ。
不思議な浮遊感を感じた瞬間、目の前まで見えなくなる。
ちなみに言っておくと、啓斗が目を覚ました時には既に、スナっちが蛇を食い尽くしていた。
視界の遮りが無くなった時、啓斗は洞窟の前の草原に立っていた。
「ワープか。こういう魔法も使えたら便利なんだろうな……」
『じゃあ頑張って当ててください!そういうスキルありますから!』
待っていてもらった馬車に乗り込み、御者に声をかける。
「ヴァーリュオン城まで飛ばしてください」
「承知しました」
馬車は、ゆっくりとヴァーリュオンに向かって走り出す。
啓斗は、ナビゲーターに一旦消えるよう言ってホログラムを消してもらい、目を閉じる。
(あの2人についてじっくり考えないといけない気がする。何かが、重要な何かがあの2人に眠っているはずなんだ)
自分の世界に沈み込み、啓斗は外界の音すら遮断した。
『……私、天使ですから啓斗様がどういう夢を見たのかは分かったんですよねー』
『まあ、こういう時に相談役を買って出るのも私の役職でしょうか』
40分後、ナビゲーターはもう一度自分のホログラムを啓斗の前に出現させる。
啓斗は、非常に虚ろな目をして物思いにふけっていた。
呼吸で胸が上下していなければ死体だと言われて納得出来るレベルで静止している。
『あ、あのー、啓斗様ー?』
「………………………」
『啓斗様ー!?』
「……………」
『啓斗様ぁぁぁぁぁ!!!』
「……はっ! ……なんだお前か」
ナビゲーターの大声で意識を現実に引き戻された啓斗は、呆れたようなため息を出した。
『はいはい、お一人で悩み続けても良いことないですよ! 私なら現代の貴方を知ってますから、ちょっと相談しませんか?』
「……それもそうだな。実は、ずっと考え込んではみたんだがどうにも思い出せないんだ」
『でしょうね。そういえば啓斗様、現代でどういう生活をなさってたんですか?』
「現代で? ここに来る前か?」
『はい。ていうか普通そうでしょう? こちらに来てからまだ2週間くらいしか経ってないんですよ?』
「そうだったか? 何か、1年くらいここで生活してる気がする」
『毎日濃密ですからねぇ。そう感じてもおかしくないと思いますよ』
ホログラムだが、ナビゲーターは雰囲気を出すために実物大(身長150cmほど)になって啓斗の眼前にに腰掛けた。
『それで、現代ではどのような生活を?』
「別に何も特別なことはないぞ?ただ、高校に通うために一人暮らしして、毎日勉強して、ネットで動画見て……寝て……」
「学校ではもっぱら図書館の住人だったな。友達も多くないし、特に皆で遊んだりも無かった」
『そこまで面白くない人生ですね』
「そうだな。ごもっともだよ」
ナビゲーターの苦言に啓斗は頷く。
「そんなのが毎日続いてたよ。家族とも別に連絡は取らなかったしな」
『……何か、自分に異常な点があるとは思いますか?』
「強いて言うなら、感情の起伏が乏しいこと。テストで良い点取っても悪い点取っても別に何も思わなかった」
「ある程度勉強は中堅の位置にいれば指摘もされないし期待もされないから楽なんだ」
天井を見上げながら言う啓斗に、ナビゲーターは半ば引きながらこう答えた。
『トラブル嫌いなタイプだったんですか。じゃあ、こんな異世界転移して迷惑だったでしょ?』
「いや、別にそうは思わなかったな。正直自分でも人生が退屈だと思ってたんだ。だからあの時にパソコンの電源を落とさずにURLを押したんだ」
『そうですかぁ。それは、良かったの……かな?まあいいですけど、じゃあ本題に入りますね』
ナビゲーター(何度も言うが、啓斗の前にいる彼女はホログラムだ)は居住まいを正すと、表情をいつもの笑顔から引き締めたものに変える。
啓斗はナビゲーターのその表情を見て、彼女が何かを知っていることを悟った。
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