異世界スキルガチャラー

黒烏

身の上話

『じゃあ、そうですね……言っても大丈夫なギリギリラインまでお話しましょう。どうです? 私の格好で何となく予想できます?』

ナビゲーターが立ち上がってクルリと回る。

「そうだな……頭の上にリングでもあれば天使だ」
『おお、鋭いですね。ほぼ正解です。私は、この地上からものすっごい上空にある天界に住んでいる天使の1人です。まあ、今は仕事で地上にいるんですけど』

ナビゲーターはさも当然のように自分が「天使」であると言ってのけた。

『天使の輪っかっていうのは、天界にいる時にしか出ないんです。ですから、私には今無いんですね』
『それで私の仕事というのが、人間達の運命を管理することなんです。と言っても今は啓斗様に付きっきりですが』

ナビゲーターは髪の毛をいじくり回しながら話を続ける。

『普段は全大陸を監視して死者の魂の行き先とかを決めてるんですけど、上層部が「異世界人」を送ることにしたら話が変わります』
『「管理人」が「ナビゲーター」に変身する訳ですねぇ』
『で、異世界人が来ると全ての運命に分岐点が追加されます。それを見るのが上の楽しみなんですって。……全くはた迷惑な話ですよ、労働するのは私なのに』

巨大なため息をつきながら啓斗をじっと見る。

『正直に言えば、超長期間のサービス残業なんですよねぇ。天使ですからお金は必要ないんですけど』
『でも、異世界人をある所まで導けば、私にとって最高の利益が得られるので頑張ってます』

ここで啓斗も口を開いた。

「その口振りからすると、俺以外にも過去に異世界人が来た、ということか?」
『はい。啓斗様は……確か……7061人目だったと思います』

いきなり提示された数字に、啓斗はかなり驚いた。

「7000……?そんなにこの世界に現代の人達が?」
『ええ。もちろん、全員もう死んでますが。平均生存記録が15日で、最高記録が41日ですね』
『ですから、私が利益を得られるポイントまで誰も行き着いてないんですよねぇ。ナビのし損ですよホント』
『ですので、今までに類を見ない好条件になった啓斗様には死なれたくないんです』
「……今まで死んだ人達はどうなったんだ?」
『死体はこちらで跡形も無く抹消した後、こちらの世界では記憶からも記録からも消え去ります。異世界の方が残した功績は全て他の方のものになり、世界の歴史に不都合は起きません』

啓斗は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
要するに、この世界で死んでしまえば誰の記憶にも残らず、生きた証が全て消えるということ。

『ちなみに、TRスキルの中に生き返るものもありますから、もしもそれを引き当てられれば大丈夫です。と言っても、まずTR自体出せた人間も今までいませんけどね』

一切トーンの変わらない口調で告げられるゾッとする情報。
啓斗は無意識に身震いしていた。

「ナビゲーター、お前に「本名」はあるのか?」
『へ?なんですかいきなり。……本名ですか。ありますよ、一応ね』
『でも、私は自分の名前が嫌いでして。ナビゲーターっていう名前の方が良いです』

ナビゲーターは目線を外の景色に移しながら答えた。

『啓斗様の努力次第では、もしかすれば天界に行けるかもしれませんね。そこに私の上司やらがいます』
『「上様」と私も含めて天使達は呼んでますがね。嫌な奴ですよホントに』
『天使というより悪魔な奴なんですが、力も権力もあるせいでほとんどの天使が逆らえないんですが、きっちり筋の通った意見をすれば聞いてくれたりもします』
『……こんなところで良いですか?これ以上喋ると怒られますんで』

その後、ナビゲーターは天界や天使の話を避け、雑談や豆知識に時間を使った。





『……なので、ヴァーリュオンのコーヒーは絶品なんですよ!』
『おや、着きましたね』

ガタンと大きな揺れの後、馬車が止まった。
御者が開けた扉から馬車を降りる。
ナビゲーター(のホログラム)は小人のサイズになり、啓斗の肩に乗った。

『さあ、行きましょう!軽い腕試しです!』
「……さて、何が起きるのか」

目の前には小さな洞窟があった。
立て札が立っており、
「大賢者の作りし洞窟  腕に自信の無いものは立ち去るべし」
と記されている。
中に入ると、右手の中に突然青く輝く小さな石が現れた。

『あ、多分それが帰還用アイテムってやつですね。無くさないでくださいよ』

啓斗は石をズボンのポケットに入れると、さらに奥へと進んでいった。

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